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保護者目線での学校のオンライン化

在宅勤務中の子どもの教育への向き合い方  

新型コロナウイルスの感染状況が悪化するにつれて、日本でも在宅勤務が全面的に進められるようになってきています。それと同時に、学校が休校になることも増えてきています。子どもを持つ親御さんにとっては、今後自分の仕事を抱えた上でどのように子どもの家庭での教育に向き合っていけばいいのかという大きな不安があることと思います。

この記事は、日本よりも一足先にリモートワークや学校の休校を経験した、シンガポールのクリスティさんへのインタビューがもとになっています。6歳と9歳の二児の母であり、フルタイム正規社員として働いているクリスティさんのリアルな声をもとに、在宅勤務中の子どものオンライン教育について解説します。

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シンガポールが直面している厳しい現実

ーーー まず、今のシンガポールの現状について簡単に教えていただけます  か?

はい、シンガポールでは4月7日から本格的な都市閉鎖の措置が取られています。都市閉鎖が始まる前からも、試験的に学校や職場を週に一回程度自宅学習や在宅ワークにして都市閉鎖への対策としていました。

ですが、実際都市閉鎖後のオンラインへの仕事や学校の完全移行が進むにつれて様々な現実が見えてきました。

特に通信インフラの欠陥は課題視されています。シンガポールほどの通信インフラがあっても、急激なインターネット利用者増加による負荷は通信への影響を及ぼしています。また、学校側の通信インフラも全ての生徒が同時に接続することを前提に整備されているわけではないため、どうしても負荷に耐えられなくなってしまうことがあります。

また、家庭内でも子ども全員分の通信媒体がなく、複数の子どもがいる家庭は全員が同時に授業を受けることができるわけではないという現状があります。学校や塾の対応に不満を覚えて保護者が子どもを転校させたり、学校や塾に対する返金措置を求めたりするケースも増えています。しかし、学校や塾を維持していくための固定費は継続的にかかるため、私立の学校や塾は経営上の問題に直面しています。

オンライン学習の価値とは?


ーーーーー では、逆に子どものオンラインでの学習が始まって感じた利点などはありますか?

子どもへの利点としては、生活リズムの向上による心身の健康維持、自学による問題解決力の向上などがあげられると思います。

休校の期間が続くとどうしても子どもたちの生活リズムは徐々に崩れてきてしまいます。ですが、毎日決まった時間割でのオンラインでの授業などがあるとメリハリのある生活をする必要があるため、生活のリズムが整いやすいという利点があると思います。

そして何よりも、休校期間中の子どもたちの社会的なつながりを保つことができるのが大きいと思います。どうしても家の中から出られないことによるストレスや、家庭以外の社会との繋がりを失うことによる孤独感などを子どもたちは感じています。そのため、インターネット上で先生や他の生徒とつながることでこれらの感覚が軽減され、社交性を保つことができるという点は精神衛生上とても大事なことだと思います。

また、自宅で学習することで自学をする力がつきやすいという点はあると思います。ある程度自分の力で学習管理をして、分からないことがあれば自分で考え問題解決をする必要があります。オンラインでの学習に適した問題解決能力が高まるため、これから継続的にオンラインで学習していくための素養がつけば良いと考えています。しかし同時に、自律して学習を継続することは社会人でも大変なことですし、逆に言えばカンニングなどもしやすくなるということなので、これらは今後の課題となるかと思います。

そして、親として感じる最大の利点は子どもが学習に没頭してくれることによって自分の仕事に集中することができるという点です。学校が持つ役割は、学習や子どもの社交性の醸成など多くありますが、親としては自分の時間を確保してくれるという点が大きいことを改めて実感しました。家にいるとどうしても仕事と仕事以外の境目が曖昧になってしまいがちなので、子どもが学習をしている間に自分の仕事に集中できる環境を作ることが必要だと考えます。授業と宿題で毎日6-7時間くらい集中してくれるので、親としても安心ですし、ありがたいです。

オンライン教育への不安と今後への期待 

ーーー 提供されているオンライン教育という面ではどのような課題や不安などを感じていますか?


提供されている教育という観点では、大きく分けて以下の3つの課題があると考えています。

・オンライン学習の教育観点からの質としての問題
・子どもたちのモチベーションの問題
・保護者に対する対応や、負担の問題

まず、オンライン学習の教育観点からの質としての問題です。私の子どもの学校では、Seesawという学習アプリを使ってオンライン学習が進められています。Seasawは、基本的な生徒主導の学習記録機能と、簡単な保護者に対する連絡機能の2つからなるアプリです。このアプリ上では特にライブ授業配信の機能などはついておらず、先生によって毎朝その日に学習する必要がある動画とその日の課題についての説明がなされるだけです。そのため、実際に先生が直接「教える」という時間は現状特に取られておらず、子どもたちが主体となって学習をすることを求められています。

特に、私の子供のように若い年齢層にとっては、自分の力だけで学習を継続するのは至難の業です。仮に、ライブ授業で先生から一対一や少人数のグループで教えてもらえるようなことがあれば話は別ですが、現状全生徒にオンラインでのライブ授業の対応をするのは難しいかもしれません。オンラインで20~30人の人数を教えた経験があまりない多くの先生にとっては、ライブ授業をできる環境だけを整えれば効果的な授業を行うことができるわけではありません。先生に対するオンラインで教える訓練を行っていくことは今後の課題となりそうです。

次に、子どもたちのモチベーションの問題があります。家の環境は学校とは大きく異なり、普段集団で授業を受けている際には集中できる子どもも、家での学習となると急に学習が出来なくなるという事態は往々にして起こりえます。兄弟や姉妹がいる場合は、集中力がより切れやすく、出された課題を最後まで解ききることが難しいのが現状です。

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何より先生による指導や返答がない状態での学習は、モチベーションや教科への興味を失いやすくなります。普段の授業であれば、先生の反応を得られますし、分からないことがあればすぐに聞くことが可能です。ですが、満足な理解もないまま課題に取り組み、分からないことがあっても先生の反応は遅れてしまう状態で学習を続けても多くの子どもは途中で投げ出してしまいます。特に難しい概念を、オンライン上での先生と生徒間のコミュニケーションのみを通して教えることは難しく、自学ができる子どもでも必ずしも自分ひとりの力できちんと理解できるとは限りません

また上記の課題点は、結果として保護者への負担となって重くのしかかってきます。子どもの学校からの課題やアプリの管理、モチベーションを上げるための応援など、学校によるサポートが不十分な部分に関しては全て保護者が対応することとなります。そもそも、学校側からのコミュニケーション自体がまだまだ少なく、保護者達の判断で動かなければいけないことも多いです。

今回の事態を受けて明らかになってきたこととして、シンガポールのような先進国の比較的年代の若い保護者の間でも、子どもたちのオンラインでの学習のために必要な技術へ対応しきれていないということもあげられます。求められる技術には、Seesawのような新しいアプリの使い方、教材準備や課題の写真での提出、Seesaw以外のGoogle Docsを始めとしたクラウドサービスとの連携のサポートなどがあります。このことから、ただ単にオンライン教育を「提供すること」とそれが「きちんと機能すること」には大きな乖離があるということが分かります。

ーーー なるほど。それでは、今後どのような対応を取っていくことが期待されるのでしょうか。


今後は、ライブ授業で先生が教えるための支援、保護者に対する技術的な支援が必要になってくると考えます。

まず、子どもたちの学習を継続させるためには、録画された動画を配信するだけでは不十分です。ライブで授業をすることが出来れば、子どもたちがSNSなどに気を取られ気が散ることも少なくなりますし、学校の様に時間割のもと学習を進めることができるようになります。自己管理ができない多くの子どもにとってはある程度の強制力を持つライブ授業は大きな効果を持つと思います。そのため、今後徐々にライブ授業が増加していくことが期待されます。

また、ライブ授業を支える基盤として、先生がオンラインで教えるための支援も提供される必要があります。ただ生徒が一方的に映像を見るだけの学習の仕方は、先生が直接「教えている」わけではなく、生徒は反応がないまま学習を続けることとなってしまいます。そのため、先生も生徒のお互いに「何が分かっていないのかが分かっていない」という状態に陥ってしまい、これでは学習への意欲が下がってしまうことは避けられません。教室で得られるような臨場感・双方向性のある授業をオンラインでも提供する力が求められます。また、カウンセリングなどを通した志望校の設定や、ライブ授業での迅速な疑問に対する回答など、人との交流をきちんと設けることが学校でもオンラインでの学習でも必要不可欠だと思います。

最後に、オンラインでの学習継続のために必須なのが親への技術的/インフラ的な支援です。家庭内でのインターネットに接続できる媒体や通信機能の充実など、学習の基盤のとなる部分の充足は最優先で取り組まなければなりません。また、保護者が媒体やアプリの使い方を学習するための支援も必須です。動画などを用いて大多数向けに配信するのはもちろん、個別での対応なども含めた支援基盤が今後普及していくことが大切です。

学校教育をオンラインで実現するためには、親、政府、民間の全てが協力していかなければ対応できません。一丸となってこの事態を一緒に乗り越えていければと思っています。

ーーー ありがとうございました!

まとめ:「提供する」と「機能する」の隔たり

この記事では、シンガポールのクリスティさんのインタビューをもとに保護者目線での教育のオンライン化についてまとめましたがいかがだったでしょうか。

この記事の要点をまとめると以下になります。

・先生・保護者・生徒、ともにオンライン学習に移行するには時間がかかる(中国の例を見ると数週間~1か月程度はかかった。)
・特に保護者への大きな負担は避けられない
・子どもが集中して学習できる環境整備のために、官民が一丸となった支援体制が必要


繰り返しにはなりますが、教育のオンライン化は学校だけで対応できる問題ではありません。家庭、企業、政府、皆が協力し合い、互いに意見交換をしながら協力していく体制を整えていくことが重要です。
次回の記事では、子ども目線から見た学校のオンライン化について紹介いたします。

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* 「学校のオンライン移行ガイドブック」の目次は、この記事 ( https://note.com/manabie_official/n/ne16564ff2712 ) の下の方にあります。

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「学校のオンライン移行ガイドブック」 目次

*記事は随時追加していきます。

中国/韓国の休校事情とそれに伴うオンライン教育の活用
学校のオンライン化に必要なツールのご紹介
学校のオンライン化を進めるための7つのステップ
保護者目線での学校のオンライン化
生徒目線での学校のオンライン化 (小学生 / 中高生)
各国の休校措置の現状と出口戦略
After/withコロナの学習塾業界 (寄稿記事)
オンラインでも自主学習を成り立たせるには(寄稿記事)
・After/withコロナ時代の教育(分析編)
・After/withコロナ時代の教育(想い編)
よくある質問集
・その他
     - アメリカ/イギリスの休校事情とそれに伴うオンライン教育の活用
     - 学校のオンライン化において想定される問題と対策
     - 各国政府/文科省の動き
     - ケーススタディ/オンライン移行事例のご紹介
     - インタビュー
     - 日本での休校事情(*定期アップデート)
     - その他各国での休校事情(*定期アップデート)
     - 学校閉鎖が長期化へ向けての準備 (学校、生徒・親、塾)
* 目次は変更の可能性があります。

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