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分岐点ダイエット

20代後半を過ぎると人は痩せにくくなるという。思い返せば産まれてずっとひょろひょろで死ぬ気でダイエットにチャレンジした事も無ければ、太ってもそのうち痩せるしまだまだ大丈夫なんてずっと調子に乗っていた。
そして三十代後半をとっくに過ぎますます痩せにくい体になっていき、ちょっとダイエットをしてはなかなか痩せない、どうして痩せない?また太った!と途方に暮れるのだ。
分岐点というものは生きていたら必ずちょくちょく出くわしてしまうもんだが、私のダイエットの分岐点がやってきたのでちょっと書いておこうと思った。


あれはちょうど一ヶ月ほど前の出来事であった。
働くレストランで食い逃げがあり、私はオフィスで社長と一緒に防犯カメラの確認をしておった。そこに映った一匹の人間、紛れもなく注文をとる私である。カメラにしっかりと映る私の姿は私の脳内センサーで修正美加工され繰り広げられる自分像とは全くの別物であり、食い逃げ犯よりもそっちに目が行ってしまい私は固まってしまった。
丸く恰幅の良い腰の低い老婆のような後ろ姿、それが現実世界での私の姿だった。
うをお!
声にならない叫びを胸に抱え落ち込みながら帰宅した。
そして今度こそは無理なダイエットではなく痩せるダイエットをすると心に誓ったのだ。

ただいま三週間目で体重はマイナス3キログラムだが、気になっておった腰周りなんてマイナス5センチメートルだし、二の腕はマイナス4センチメートル、背中周りなんて6センチメートルも減ったのだ。
考えてみればそれまでの私は食事に気をかけてばかりいて、運動を全くしてこなかった。近頃関節がすごく痛むし動かすとぽきぽき音がして気色悪かったことを同僚のダンサーの子に相談したら、運動不足だろと言われた。
それで仕事が夜のシフトの日は子供達を送った後、人造湖のある公園に行き自然を満喫しながら歩いてみることにした。万歩計を買いウエストポーチを買い、飲み物を保温と保冷できる持ち手つきで蓋を閉じればこぼれないトラベラーマグを買い、準備万端で私は何度か歩いた。
ロスの春は短い。さくらが咲いたと思ったらすぐに散る。そして日差しが馬鹿みたいに容赦ない。光が眩しくて私はその粒が迷惑なのですぐ疲れてしまう。外を歩く事が億劫になってきた。
夜自分の家の周りを歩いてみることも考えたが、トイレに行きたくなったら困るし、公園のように歩道が整備されておらず歩きにくい事を考えてやめにした。


しかし私には強力な助っ人がいたのだ。
数か月前、痩せてやる!と思い購入したエアロバイクだ。数度使ったきりで放置されておったかわいそうなバイクである。
室内なら日焼けもしないしそこまで暑くならないし、一石二鳥である。
おまけにディスカウントストアで安くなったヨガマットを購入し、筋トレやストレッチなんかもやって部分痩せを狙った。
エアロバイクは尻が痛くなり15分漕ぐのが限界だったが、昔車が無かった時片道7マイルの道のりを介護の仕事に通っておった頃に使っておった自転車にジェルパッドを装着していたことを思い出し、それを付けてみたらましになった。
エアロバイクは有酸素運動で、全身痩せに良い。
私は毎日のように、Netflixやアマゾンプライムにあがっておるアニメなんかを見ては黙々と漕ぎまくっておる。


アニメを見るとなんだか自分までかっこよくなった気がしてモチベーションが上がり毎日が楽しくなりまくったので、気落ちしている人はかっこよいアニメなんかを見て運動すればきっとちょっとはましになるかもしれない。
今回凄く良かったアニメはバナナフィッシュでそのエンディングテーマであるKing GnuのPrayer Xにドはまりしてしまい、彼らの曲を色々聞いてみたら今度は興奮して眠れなくなり、こんな事いつ振りかしらなんてわくわくした。
私は邦楽なんて何さ、ケ!と思い素晴らしい音楽を見逃してきた10代の頃の苦い思い出があるので、今は極力耳に入ってくる全ての音楽を聴いてみることにしておる。それで良い物があったらプレイリストにすかさずセーブするのだ。
セーブした音楽からエクササイズに適したものを選び新しくプレイリストを製作し、それを聞きながらストレッチや筋トレをした。
アマゾンプライム(アメリカ版だが)に短い筋トレの動画がありそれを活用させ主に腰、背中、二の腕を徹底的にトレーニングした。
腰と背中は比較的すぐ落ちるんだが、問題なのは二の腕だ。鏡で見るとレスラーか!?と思えるほど逞しい肉の塊が、私の美センサーをことごとくぶっ壊しやがるその二の腕。
その逞しいのは筋肉ではなくて皮下脂肪だ。それを減らすには滅多に出番のない上腕三頭筋を鍛える必要があるのだけど、つらい。全く腕を鍛えてこなかったのですぐに弱音を吐きたくなる。腹筋や背筋の筋肉痛はあんなに気持ち良いのに、二の腕だけはすぐに疲れて筋肉痛どころではない。毎日鏡でチェックしても一向に減ってくれないし、本当に嫌になる。痩せたとしても皮だけぶよぶよに残ったら怖いな。


そしてもう一つ気をつけるようにしている事は出来るだけ自炊する。私は何しろめんどくさがり屋なのですぐ手を抜いてしまう。外食で時間をセーブなんて考えてたけど、ファストフードを食べ続ければ一向に体重は減らないだろうし、健康にも良くない。そんな事は分かっているが、疲れている事の方が多かったしキッチンに立つ事さえ億劫だった。
でも体が鍛えられてくると不思議と疲れなくなったし、めんどくさがり屋なりの自炊方法なんかも確立させて今のところ順調である。
私は大体朝と昼同じものを食べて、夕飯だけ家族と一緒の物を食べる。
炭水化物は大体午前中に摂り、夜はあまり食べない。
冷凍のカット野菜を大量に買い込み、キャンベルなんかの缶スープ、そしてたんぱく質。
冷凍野菜は色んな種類があって重宝しておる。キャンベルの缶スープは最近色んなものが出て来てバリエーションが豊富なので飽きない。タンパク質は大体豆腐とか魚介類だが、子供達はハムやミートボールなんかも好きなのでそこらへんもストックしておる。
それを全部フライパンに投入し私のスープの完成だ。洋風のスープに飽きたら味噌を投入して豚汁もどきとか作っておる。毎日懲りない性質なので私は続いているが、他の家族は懲りておるかもな。子供達も好きなものをちょっとずつ作るようになってきたし、連れも酔っぱらっては儀式のようにジャックインザボックスのマンチーミールを抱えて戻ってくるので、私を乱す者はどこにもいない。
私のダイエットの分岐点、それは食い逃げ犯が作ってくれた己の体を客観的に見る機会であった。あの時自分のおぞましい姿を見ていなければきっとまだまだブクブクの最中であろう。
まだまだ目標の引き締まった二の腕には程遠いが、夏が来る前に絶対痩せてやる。



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