企業編3-曖昧さに直面、それでも前に進み続けなければいけないの?
こちらのnoteは「mameka記」シリーズになります。
「mameka君、開発部門から1人新規事業のメンバーを出す必要がある。是非、いってきてくれ」
開発部門の人たちへの挨拶が落ち着いた頃に、部門長に声をかけられた。
これがいわゆる部門横断のタスク活動ってやつか。
「説明したように、私たちは、非常に重要な局面で新規事業を創出しなければいけない。スピード感をもってやるように」
事業本部長のプレゼンが終わった。これまで、私は新規事業に熱を注ぎ込んできた。実務経験は物足りないが準備はしてきたつもりだ。
思い返してみると、私がこれまでに失敗してきたのは、上位レイヤーとのコミュニケーション不足、つまり、目的を上層部と握れなかったことだ。
今回に関しては、新規事業の目的が明確であるだけでなく、定期的なモニタリングの場がセットされている。
「海外と契約関係のやりとりをしているHと申します。よろしくお願いします。」「パートナー管理をしているTです。頑張りたいと思います。」
メンバーとの顔合わせも終わり、今回は、プロジェクトメンバーとの信頼関係構築をしっかりできていると感じた。
飲み会などで親睦を深めたかったが、短期間のプロジェクトでメンバーも変わる可能性があるのと、あまりそういう感じではないなと察した。
忘れずに、正式資料(議事メモ・ダイジェスト・報告資料)の保管方法と
報告資料の雛形や、誰もがわかるようにバージョン管理をする旨も共有しておこう。
一方、今回不安なのは、新規事業専任ではなく、現業と兼務しながら進めなくてはいけないことだ。Mgrに確認するか。
「そこまでmamekaがいうなら仕方ない。しっかりと結果を出してきてくれよ」
新しいMgrはとても懐が広くやりやすい。渋々という感じだが、新規事業を進めていくのに前向きみたいだ。
それから、時間は刻々と過ぎていった。メンバーと議論を重ね、テーマは見つかったはいいが、外資系企業が既にこの分野で強力なプロダクトを出しており、これから参入しても厳しいと感じた。
実現可能性が高そう×自分の興味ある分野でずっと調べているが、また、この分野も外資に先を越されている…この分野で、日系企業で強力なプロダクトをもっているのはほとんどない。この状況では、期間内に、新規事業の企画案を通せなさそうだ。
ちょうど、そのプロダクトについての日本法人のセミナーが開催されるみたいなので、見に行ってみよう。
「企業には、両利きの経営が必要です。それは、知の探索と知の深化です。」
目当てのセミナーの直前だが、有名な経営学者が登壇しているらしい。
なるほど、フォードの大量生産やトヨタのカイゼン方式は既に存在する知識の組み合わせでできているのか。
Appleに関しては、失敗を数多く重ねて、イノベーティブな商品を生み出すことができている。
この話を聞く限り、「今の自分にとってイノベーションに繋がる新規事業創出には程遠いな」と力のなさを痛感した。実力不足は分かっているが、どのようにアプローチをしていけば良いのだろうか...
業務をこなしている中で、グループのMさんに声をかけられた。
「mameka君、1つお願いがあるんだけど、Aさん、来月から退職されるみたい。プレゼントを頼んだんだけど取りに行って来てくれない?」
「いきます」と返事をした。少し、気分転換も兼ねて、業務を早めに終わりにして、プレゼントを取りに行こうと思い早速、マップで場所を調べた。
なるほど、東京のはずれにあるのか。
実際に駅を降り立ち、歩いて行ったが、まさにそこは住宅地だった。ピンがさしているところを見渡すがそれらしい場所はない。
流石に、Mさんが場所を間違えて伝えるはずはないと思い。一軒家とおぼしきチャイムを鳴らしてみた。
「予約してたMさんですね。プレゼントお取り置きしておきました。ささ、上がっていってください。」
優しそうなおじさんが出てきた。どうやらここが仕事場のようだ。
「昔、私は、カタログ販売の通販企業で働いていたんですけどね。会社も縮小して、今は個人で働いています」
なるほど、Aさんは、元々、通販企業のお客様をずっと担当していたと聞いたが、その繋がりでプレゼントを頼んだのだろうなと予想した。
「私は、インターネットはついていけませんが、今、若い人はAmazonを使っているのでしょう?時代は変わりましたね。」
一消費者としてAmazonの恩恵を受けていると思ったが、通販企業にしては大打撃なんだろう。
ビジネスの世界が変わりゆくものだということを身に沁みて知った。
PCからプリンタ経由で印刷された請求書を受け取ると、おじさんが話しかけてきた。
「今、私は芸にハマっていて、週末は駅前で披露しているんですよ。折角なので一つお見せしましょう。」
ここで断るのも悪いと思い、是非見たいと返事をした。すると、CD-ROMをデッキにセットして音楽を流し始めた。
和風の音楽に合わせて両手にもった棒をリズミカルに動かしている。
このような芸があるとは知らなかった。ゆっくりだが力強く、わび・さびがあるなと感じた。
「私は、この芸をできるだけ多くの人に見てもらって、伝統を引き継いでいきたいんですよ。」
確かに、これを即興でやるのは無理だろう。長年受け継がれてきた経験をもとにこの芸が成り立っている。伝統へのリスペクトを忘れてはいけない。
しかし、ビジネスにおいてはどうだろうか?古いものに固執して、新規事業を生み出せなければ、時代から取り残されていくばかりだ。
両利きの経営と、ある経営学者が話していたように、
企業が健全なうちに、新規事業の種は仕込んでおくべきだろう。後世に事業を残すためには、新規事業の創出は責任をもってやっていかなければいけない。
今日見た芸は、古きに敬意を払いつつ、変化に対応しなければいけないことを私に思い出させてくれると感じた。
和風の音楽の余韻に浸りながらその家を後にした。
今、大きな新規事業を創出できなくても、チャンスは必ず来ると信じている。手を止めたらそこでおわりなんだ。
(おわり)