(この物語はフィクションです。今回で完結です。未読の方はよろしければナナフシ#1から順番にお読みください) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 笹木は驚いた顔を玄関の扉から覗かせていた。眉をひそめ、警戒した草食動物のようにわたしをじっと見た。化粧をしていなかったので、あまり見られると居心地が悪かった。土曜の朝、わたしは灰色のパーカー一枚に、ジーンズといういでたちだった。そ
(この物語はフィクションです。数回に分けて完結させる予定で、今回は第8話です。未読の方はよろしければナナフシ#1から順番にお読みください) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ マンションの部屋へ戻ると、荷物も置かずにまっすぐ浴室へ向かった。バッグをトイレの蓋の上に放るように置き、洗面台に栓をして水を溜める。溜まるのを待つあいだ、白い陶器製のふちに両手をついて鏡に目をやった
(この物語はフィクションです。数回に分けて完結させる予定で、今回は第7話です。未読の方はよろしければナナフシ#1から順番にお読みください) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 朝から頭痛がしていた。恋人が、山へ行く約束のメールをよこしていたが、わたしは返事できずにいた。なぜ、ナナフシを捨てるなどと言えるのかがわからない。彼が与えてわたしが育てたものなのに。 肩を叩かれ、
(この物語はフィクションです。数回に分けて完結させる予定で、今回は第6話です。未読の方はよろしければナナフシ#1から順番にお読みください) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ナナフシは、夜間に室内を広く活動した。彼女に湯がかからないように、シャワーを浴びるのは一苦労だったが、その姿を見ながら風呂に入るのはなかなか素敵だった。 裸で彼女の前に立つと、わたしも自然界の生物
(この物語はフィクションです。数回に分けて完結させる予定で、今回は第5話です。未読の方はよろしければナナフシ#1から順番にお読みください) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 昼前に会社のトイレから出ると、廊下で笹木と出くわした。笹木は大量のファイルを抱えていた。わたしとすれ違ったとたん、分厚いファイルが雪崩のように足元に崩れ落ちた。わたしはそれらを拾い上げて、運ぶのを手
(この物語はフィクションです。数回に分けて完結させる予定で、今回は第4話です。未読の方はよろしければナナフシ#1からお読みください) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 午後から予報外れの雨が降りはじめた。終業時刻が過ぎると、一階のフロアには傘を持っていない社員たちが集まって、空へ向かって口々に文句を言い合っていた。わたしはたまたま、置き傘と折りたたみ傘の両方を持っていた
(この物語はフィクションです。数回に分けて完結させる予定で、今回は第三話です。未読の方はよろしければナナフシ#1からお読みください) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ある夜、ナナフシがペットボトルの中で、バラの葉につかまってじっと動かなくなった。翌朝に見たとき、身体は心なしか大きくなり、その黄緑色も濃くなっていた。ペットボトルの底には、半透明の抜け殻が落ちていた。
(この物語はフィクションです。数回に分けて完結させる予定で、今回は第二話です。未読の方はよろしければ、ナナフシ#1を先にご覧ください) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 朝、会社の更衣室のロッカーを開けたとたん、覚えのないゴミが入ったコンビニの袋が足元に転げ落ちた。誰かがロッカーを間違えたのだろう。とくに気にもせず拾い上げてゴミ箱に捨てた。制服に着替えて、扉についた小さ
(この物語はフィクションです。数回にわけて完結させます) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ それに気がついたのは洗面台で朝の支度をしているときだった。いつものように冷たい水で顔を洗い、タオルで顔をぬぐいながら、ふとトイレタンクの上に飾った壜ざしのコナラの枝に目を留めた。 おととい、恋人と山へ散策に行ったときに、彼がわたしに拾ってくれた枝だった。 『葉の色といい、枝葉