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あなたがそばにいれば #11

Natsuki

あと3日で彼も帰ってくることだし、たまには一人(梨沙がいるけれど)、になろうと思い、春彦には帰ってもらった。

それにしてもどうして春彦が帰った後のタイミングだったんだろうと思う。

夕方、洗濯物をたたみながら目に入ったのは、大きな事故のニュースだった。

一瞬ヒヤっとする。

私が大学2年、春彦が高校2年の時に両親を事故で亡くしている。
夫と同じく、ドイツでの海外赴任中の出来事だった。

そんなトラウマが過去にあったせいで海外のニュースを見るのは避けていたけれど、彼のお陰で克服出来た事もあり、出張中の情勢も気になるので、付けてしまっていたのがいけなかった。

画面を見入り、心臓が跳ね上がる。
テロップを見て、身体の芯がヒヤリと冷たくなる。

事故現場はドイツだった。

どこの街の話?
ベルリンではない?

画面が切り替わってしまったためもどかしくなり、ネットで検索した。

「ブランデンブルク州の幹線道路…」

ベルリンの近郊のようだった。昨日電話で話した時、確か客先でそんな場所に来ていると話していたような…。はっきりと場所までは聞いていなかった。
ブランデンブルクという名称もややこしかった。

私は慌てて彼に電話をかけた。

けれど。

通じなかった。呼び出しが鳴らない。

手が震え、一気に冷たくなる。

「うそでしょ…どうして?」

時差を計算する。ドイツは午前10時過ぎ。仕事をしている時間といえば時間だけれど、呼び出しもならないとはどういうことだろう。

何度もかけたけれど、同じだった。

恐ろしいトラウマが甦る。

"おとうさん…おかあさん…!"

鼓動が爆発しそうになり、息苦しくなってくる。

"待って。遼太郎さんまで奪わないで…!"

体が震え、涙が溢れた。

助けて、誰か。

私は梨沙を抱えて家を飛び出していた。

* * * * * * * * * *

涙で街の灯りが滲む。

梨沙を抱えたまま走って走って、息があがって立ち止まった時にふと我に返った。

私は何処へ行こうとしているのか。

財布も携帯も持っていなかった。
2月の宵は身が切れるほど寒いのに、厚手の上着も着ていない。

吐息が白く空に吸い込まれていく。

「ハル…隆次さん…飯嶌くん…」

私の弟、彼の弟、彼の部下...。
みんな、比較的近所に住んでいる。

でも知っているのは春彦の家だけだ。
近所だけど徒歩圏内ではない。

一番近いの…隆次さんかな。
飯嶌くんもスーパーで会うくらいだから近所だよね…
でも、2人とも家がどこなのか知らないことに愕然とした。

「誰か助けて…」

身体の震えも涙も止まらない。

大人しい梨沙まで泣き出す。寒いのだろう。無理もない。
私は何をやっているのか。

「梨沙…」

そして再び我に返る。

「私…全力で走った…妊娠しているのに…」

何もかも怖くなった。
その場に膝から崩れ落ちる。

誰かここに来て。私を抱きとめて。
お願いお願いお願い誰か。

遼太郎さん。
どうして? どうして繋がらないの?

あなたがいなかったら…あなたがそばにいてくれなかったら私は…!



#12へつづく

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