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Berlin, a girl, pretty savage

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遼太郎の娘、野島梨沙。HSS/HSE型HSPを持つ多感な彼女が日本で、ベルリンで、様々なことを感じながら過ごす日々。自分の抱いている思いが許されないことだと知り、もがく日々。 幼…
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#HSS型HSE

【連載小説】あなたに出逢いたかった #28

香弥子が洗い物と茶の用意をする間、やはり前を向いたままの隆次が 「梨沙もようやくちち離れか」 と言った。 「聞いてたの?」 「聞こえただけで聞いていたわけじゃない」 「ヘッドフォンの意味」 「ノイキャンなだけだよ。話し声を全く遮断しているわけじゃない」 「言わないでよね」 「誰に? 兄ちゃんにか? 言うわけ無いだろ。兄ちゃんにとっては喜ばしいことだけどな。やっと梨沙から解放されるってな」 解放なんて酷い言い方だと梨沙は思った。親子なんだから、縛り付けあっているわけでも

【連載小説】あなたに出逢いたかった #27

「あら、梨沙ちゃん。久しぶりじゃない。留学どうだった?」 18時になると本当に香弥子が帰って来て、ヒジャブを外しながら破顔した。 「香弥子さんに話したいことがあるんだってよ」 と隆次。彼は妻を「香弥子さん」と呼ぶ。 「あら、どうしたの改まって」 改まってしまうと何も言えなくなる。もじもじとする梨沙に香弥子は 「そうだ。晩ご飯うちで食べていく? 大したものじゃないけど」 と笑顔で言った。隆次の方を見るが、背を向けた彼はPCに向かったまま何も言わない。 「いいんで

【連載小説】あなたに出逢いたかった #26

『私を助けてほしいんです』 思わず稜央に向かって放ったその言葉について梨沙は何から伝えたら良いか悩み、連絡先を交換して以降は、当たり障りのないやり取りが続いているにとどまっていた。 パパの代わりに好きにならせてください、とはさすがに言えない。事情は全部隠す必要があるが、嘘を付くのは苦手だ。本来は "二番目" でいいはずだが、どうせなら本当に好きになりたい。なれると思っていた。 どうすればいいだろう。こういう時、相談できる人がいないことに梨沙は気づく。 陽菜の顔が浮かんだ

【連載小説】あなたに出逢いたかった #24

横浜から帰宅した稜央は風呂に浸かりながら、梨沙の切実な涙を思い出していた。 『私を助けてほしいんです』 その言葉に面食らった。いや、心を奪われたという方がしっくり来るかもしれない。 彼女のか細い腕が、がっちりと稜央の身体をとらえていた。どこにそんな力が、と思うほど。 『ど、どう…したの…何かあったの…?』 『私、抜け出さなければいけないんです。今の…籠の中から…』 『籠? 何のこと…?』 しかし梨沙はそれ以上は言葉に出来ないのか、小さく嗚咽を挙げ始めた。稜央の頭の中は

【連載小説】あなたに出逢いたかった #23

稜央が悩む間に、梨沙も一生懸命話題を考えていた。この日のために準備してきたことを話す。 「陽菜さんからはサプライズにしたいから黙っててって言われていたんですけど…、稜央さんがジャズイベントに参加すると聞いて、ジャズに全然詳しくないから予習したりしたんです」 「へぇ…何を聴いたの?」 「確か…キース・ジャレット…?」 「へぇ、そうなんだ。『ケルン・コンサート』かな? あれ全部即興なんだよね。彼はクラシックのピアニストでもあるんだよ」 「そうだったんですか…。そういえば稜央さん

【連載小説】あなたに出逢いたかった #22

康佑と違う声で名前を呼ばれ、梨沙は顔を上げた。涙で視界がぼやける、けれどはっきりとその姿を捉えた。 「え…?」 相手も目を丸くし、言葉を失ったように茫然と梨沙の顔を見つめていた。 「稜央…さん?」 「えっ、あ、り、梨沙ちゃん…どうして…ここに…」 稜央だった。間違いない。康佑も驚いて振り返る。 「え、じゃあ梨沙が会いたかった人って、この人?」 けれど驚きのあまり梨沙も稜央も声を出せずにいた。何と言葉にしてよいのかわからない。稜央の背後から彼の友人と思しき男が「どう

【連載小説】あなたに出逢いたかった #21

梨沙は恐る恐る電話に出た。 『午前中から出かけてるなんて珍しいな。俺のこと探していたみたいじゃないか。今どこにいるんだ?』 夏希から聞いたのだろう。梨沙は咄嗟に嘘がつけず「横浜」と答えてしまった。途端に遼太郎の声が曇る。 『横浜? 何しにそんなところにいるんだ?』 「と…友達と会ってる…」 『友達って?』 「…ベルリン留学時代の、同じギムナジウムに通ってた人が横浜にいて…」 自分が話題に上った康佑は黙ったまま自分で自分を指差し、目を丸くした。 『どうしてそんな所で会

【連載小説】あなたに出逢いたかった #20

梨沙がハッと目を覚ますと時計は8時を指していた。日曜の朝。 康佑とは10時に桜木町で待ち合わせだ。 スマホをチェックしても昨夜別れた後の康佑からの気遣いメッセージが入っているだけで、遼太郎に送ったメッセージに既読は付いているものの返信はなかった。 慌ててリビングに行くと夏希が朝食の準備をしているところだった。遼太郎はいない。 「あら梨沙、珍しく早いのね」 「パパは!?」 「まだ寝てるわよ」 それを聞いて部屋に向かおうとする梨沙を呼び止める。 「だめよ梨沙! 昨日遅か

【連載小説】あなたに出逢いたかった #17

歩いているうちに日もだいぶ傾いて来た。稜央は見つからない。 マジックアワーは梨沙の大好きな時間だ。愛する人の色…父親の “色” がこの黄昏時の色なのだ。梨沙の持つ共感覚は子供の頃よりは弱まっているものの、色を見ることが出来る。 くん、と鼻を鳴らす。慣れない土地と大勢の観光客せいか雑多な匂いがすごかったが、微かにあの大好きな匂いも感じられそうだった。 そうして梨沙は、前をゆく康佑の肩の向こう遠く、視界に入った姿にハッと目を見開く。 「…パパ?」 遼太郎によく似た後ろ姿

【連載小説】あなたに出逢いたかった #16

10月最初の土曜日。 数日前までじっとり高い湿気を帯びた風が嘘のようにカラッとし、筆で掃いたような雲が青空に広がっていた。金木犀が陽の光を受けカーネリアンのように輝き甘く芳しい匂いを放ち、道端に落ちた花は金平糖のようだった。 金木犀もまた、強い風に儚く散る、梨沙が最も好きな花の一つだ。 家には高校の友だちと買い物に行く、と言って出てきた。遼太郎は先日梨沙がクラスメイトと揉めたと切なく打ち明けてきたが、それが解消されたのだろうと思い、ホッと胸を撫で下ろした。実際は嘘だから、

【連載小説】あなたに出逢いたかった #15

月曜の朝、梨沙の元にクラスメイトの女子学生が3人近づいて来た。 「ね、梨沙。結局S高校の文化祭、行ってたんだね」 え…と顔をあげる。3人はニヤニヤしたり、腑に落ちない顔をしていたり、様々だった。 そうか、そもそもこの子たちが誘って来たんだった。当然、どこかで目撃されていたっておかしくないわけだ。 「私たち見たんだよね、梨沙がS校の人と仲良さそうにしているところ」 「ね、あれやっぱり彼氏なんでしょう? 隠さなくてもいいのに」 彼氏、と言われてカチンと来た。 「彼氏じゃ

【連載小説】あなたに出逢いたかった #14

晴れればまだまだ残暑が残る、9月の終わりの週末。 その日も朝から晴れ渡り、強い陽射しが街を刺す。日に焼けないように梨沙は長袖の黒いパーカーを被る。ショートパンツも履くが、傍から見ると履いているのかいないのかわからない。パーカーは遼太郎のもの。また梨沙は盗み着た。 S高校に到着した梨沙は入口で案内をもらうと、出し物のラインナップに3年生はごく僅かの有志しか存在していないことを知った。 そうか、こういったイベントは受験を控える3年生は出ない人もいるのか、と初めて知った。 康

【連載小説】あなたに出逢いたかった #13

翌日、学校での休み時間。梨沙は少し焦っていた。 スマホの連絡先を何度漁っても "牧野康佑" の名前が見つからない。交換後消したか、そもそも交換させしなかったか。連絡を取ることはないと思っていたからどちらも可能性があった。あまりよく憶えていないところも、彼のことはもうどうでもいいと思っていた現れだ。 弱ったなと思っていると、たまたまクラスメイトがS高校について話しているのが聞こえてきた。康佑の通う高校である。 梨沙は思わず声の方に向かった。 「ね、今S高校って…」 「あ、梨

【連載小説】あなたに出逢いたかった #12

稜央は月に1度、母と妹の顔を見に実家を訪れる。 その日も週末で手土産を片手に訪れ、泊まって行けばの言葉に甘え風呂も済ませ、居間でのんびり寛いでいる時だった。 「ねぇお兄ちゃん。この人じゃない?」 そう言って妹の陽菜がスマホの画面を差し出してきた。そこには1枚の絵が写っている。大人の塗り絵を思わせる、非常に線の細かい絵だった。 さらに陽菜が画面をスワイプしていくと、とある絵で動きを止めた。 「あれ?これって…」 「うん、これってさ、お兄ちゃんがベルリンで描いてもらったっ