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「幸せのタイプ」が免疫力を左右する

「科学が示す3つのルート」では、Hedoism、Flow、 Eudaimoniaの3つの概念を取り上げて幸せへのルートを紹介しました。結論として、いずれのルートの幸せも人生満足度(質問紙回答で計測される評価)に紐づくという意味で優劣はないとしました。

幸福と満足度が紐づいていることはわかりましたが、もっと具体的なところ、例えば「カラダの健康」にも幸福は影響を及ぼすのでしょうか。

なんと、答えはYESです。

アメリカでの調査によって、幸福の種類によって免疫細胞の反応が変わるということが明らかになりました。つまり、幸福のあり方によって、身体的な健康状態が変わるのです。

* 今回の記事は、ヘドニックな幸福とユーダイモニックな幸福の質的な違いを前提とした内容になりますので、まだお読みになってない方は「科学が示す3つのルート」の記事からお読みいただくことをおすすめします。


どちらの幸福も、精神安定のかなめ

まず、ふたつの幸福を簡単におさらいしましょう。

ヘドニック(Hedonic)な幸福とは、いわば「ご機嫌スイッチ」。例えば、物欲や食欲を満たす悦びなど、その持続時間は短くとも、手っ取り早く自分の気持ちを良い方向へ向かわせることができる方法の一つです。
ユーダイモニック(Eudaimonic)な幸福とは、自分の良い資質/徳を育み、それをより良いことの実現のために活用していく幸福の追求の仕方です。「人生の意義の追求」と呼んでもいいかもしれません。

ヘドニックな幸福とユーダイモニックな幸福には、ポジティブな相関があります。つまり、片方が増加すれば、それに伴ってもう片方も増加するという関係が成り立っているのです。

さらに重要な点として、ヘドニックな幸福とユーダイモニックな幸福は、抑うつ症状と逆相関の関係にあることもわかっています。つまり、ヘドニックまたはユーダイモニックな幸福のレベルが高ければ抑うつのレベルは低くなり、逆にこれらの幸福感が低ければ抑うつのレベルが高くなるということです。

ヘドニックまたはユーダイモニックな幸福を高い水準で得ることは、人生への満足感を高めることができるだけでなく、抑うつのリスクを下げる効果も見込めます。精神的に穏やかに生きていくためには、ヘドニック、ユーダイモニックどちらの幸福も有効であるといえるでしょう。

これらの幸福感は、私たちのカラダにどのように影響するのでしょうか。


「幸せのタイプ」が免疫力をコントロールする

アメリカの調査で明らかになったのは、幸福の種類によって免疫細胞の反応が変わるという驚きの事実です。ちなみに、この調査にはポジティブ情動研究の第一人者であるバーバラ・フレドリクソン氏を含む研究チームが発足されました。

この調査では、35〜64才の被験者80名が集められました。うち女性は60%とやや多いですが、白人、黒人、ヒスパニック、アジア系と様々なバックグラウンドの人が集められ、喫煙や飲酒などの嗜好性もバラバラです。彼らは、質問紙への回答によって、ヘドニックな幸福とユーダイモニックな幸福の2つのグループに振り分けられます。そして、2つの幸福に対する志向性と、血液中の免疫細胞の遺伝子に相関性があるかが分析されました。

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その結果、ヘドニックな幸福のグループでは、炎症に関わる遺伝子が過剰発現していたり、逆に抗体の生成や抗ウィルス反応にかかわるような遺伝子では発現量の低下が見られたのです。これは、炎症の伴う病気、例えば心臓病、アルツハイマー病、関節炎などのリスクが高まり、さらにはウィルス性の風邪にかかりやすくなるといった可能性を示唆しています。

反対に、ユーダイモニックな幸福を感じている人では、炎症に関わる遺伝子の発現が抑制され、反対に高ウィルスに関連するような遺伝子の活性化が認められました。炎症系の病気のリスクが低く、ウィルスへの抵抗力が高まるということです。つまり、ユーダイモニックな幸福を追求する人の方が、身体的にも健康でいられる可能性が示唆されたのです。

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ちなみに、ここでいう遺伝子の反応というのは、エピジェネティック(後世遺伝)、つまりDNA配列の変化を伴わないものを指しています。このエピジェネティックによる変化はなんと、世代を超えて後世に受け継がれることも証明されています。あなたの幸福の追求の仕方によって得られた身体的健康は、あなたの子孫への見えない遺産として受け継がれていくかもしれないのです。(これはいつか別の機会にお話しようと思います。)


どうやって、免疫力をあげればいいか?

ヘドニック(ご機嫌スイッチ)、ユーダイモニック(人生の意味追求)どちらの幸福も人生満足や精神的健康には大いに役立ちますが、ユーダイモニックな幸福はそれ以上に身体的健康にも大きく貢献することがわかりました。対処療法的に自分のご機嫌をとるだけでは、本質的な意味で心身共に健康になることは難しいのかもしれません。

しかし留意したいのは、最初にお伝えしたようにヘドニックな幸福とユーダイモニックな幸福には相関関係があり、お互いに影響しあいながら存在しているという点です。幸せになる上で、ヘドニック、ユーダイモニックな幸福のどちらかを排他できるものではありませんし、トレードオフ、つまりどちらかの発生が、もう一つの発生を拒むものでもないのです。そのため、今回の発見をもって一概にヘドニックな幸福が害悪である、という結論にはならないということには留意しておきましょう。

ユーダイモニックな幸福というのは、ヘドニックな幸福ほど簡単に発揮できるものではありません。実際、今回対象となった80サンプルにおいて、ヘドニックな幸福のレベルがユーダイモニックな幸福を上回っていました。ユーダイモニックな幸福レベルの方が上回っているのは、全体サンプルのたった22%に留まっています。人生の意義をみつめ、自分の徳性を社会貢献のために活用するなど、ユーダイモニックな幸福の発揮にはある程度習慣づいた思考法や時間を必要とするのです。

しかし、身体的な健康をも高めていくために、長い目でユーダイモニックな幸福を育んでいこうとする意識は大切かもしれません。個人の実感として、自分の中に眠る「善さ」をみつめ、その発揮を日々の生活で考えること自体とても楽しいことです。一長一短とはいかないかもしれませんが、決して難しいことではありません。ポジティブサイコロジーでは、まさに人々の徳(Virtune)に由来する性格特性を見つけ出すVIA Strengthといった分析手法を確立しています。ユーダイモニックな幸福を育むために、これらの心理分析や思考法を活用するトレーニングについても、いつかご紹介していきたいと思います。


出展
Barbara L. Fredrickson, Karen M. Grewen, Kimberly A. Coffey, Sara B. Algoe, Ann M. Firestine, Jesusa M. G. Arevalo, Jeffrey Ma, and Steven W. Cole「A functional genomic perspective on human well-being」PNAS | August 13, 2013


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