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あなたはいないのに桜は咲くのです【エッセイ】

※人が亡くなった話がお辛い方は見ないことを推奨します※

(約730文字)








「ひと月前は」と思い返しながらの、ひと月だった。


「もう2月も終わりになりますね」
「あっという間に年度末です」

流れてくる月末の挨拶が

とても怖かった。


その日 その日

生きていてくれることを祈って


生きていてくれることが

毎日 奇跡だった。

もう1日

もう1日

終わりを感じながら


もう1日

もう1日

覚悟を後ろに追いやって


「おはよう」

「おやすみ」

「また来るね」

言葉は返ってこなくなってしまったけれど

いくらでも声を掛けることはできた。





「ひと月前は  生きていたのに」

明日から

もう

そう言えなくなってしまう。


初めての、月命日。


これから毎月、

私はこの寂しさをどうしたらいいのだろう。


前に進まなくてはと

目に付いた衣類をまとめ

捨てきれずに抱きしめて


もうあなたがいない部屋に

「おやすみ」と声を掛け

あなたの声をまだ覚えているかを

自分に確認して寝床へいく


大丈夫
これからは私が支えていくから
安心してください

そう大見得を切ったのに

本当はとても心細い

本当はとてつもなく寂しい


もう会えないなんて

ちっとも受け入れられないのです




全部の数字がゼロになって

音が止まった

あのあと


私は受け止めきれなくて

部屋の隅で

うずくまってしまった



ごめんなさい

今だけ

泣かせてくださいと


これから立ち上がって

最前線でがんばるから

今だけ

ただただ

泣かせてくださいと


何もかもに背を向けて

泣いていた


その瞬間に

時折戻ってしまうのです




あなたを見送ってから

ひと月


思い出しては泣いてしまう日も

そのうち

思い出しては微笑むような日が

やって来るのでしょうか



桜が 咲き始めました。

あなたはいないのに

季節は

時は

変わらず進みます。


ひとつ

季節を迎える度に

私は

あなたと見た景色を

かならず

かならず

思い出しましょう




End


2024/3/29
大好きなお父さんを思って。

もしも この文章を声に出して読んでみたいと思ってくださった方がいらっしゃいましたら、
是非お声をお聞きしたいので、お知らせいただけるとありがたいです。

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