『「ねぇあなた、踊りましょうよ」』
時計の針が二本とも
まんなかを越えた
「ねぇあなた、踊りましょうよ」
妖艶な
イイ女
断り切れるはずがない
踊り方など知らないが
「ねぇあなた、リクエストは?」
俺にその答えを求めるのは酷だ
それを知っていて曲を尋ねてくる
革靴の底は擦り減っていて
まるでダンスなど似つかわしくない
そもそも居抜きで造られた“うなぎの寝床”の店
ステップを踏む余裕などないだろうと
素人の俺でもわかる
なんだかジャズっぽい曲から
ラテン調に変わった
「ねぇあなた、いつまでそこでぐずぐず…」
これだから困る
ネットもだいたい一回りして
活字に流れて
ちょっとまたテレビに戻る
そうやって俺はメディアを巡回し
深夜映画に
淡い
否
ドドメ色の
期待をしてみたら
案の定これだ
なにが「ねぇあなた、踊りましょうよ」だよ
いいかげんにしろ
眠れなくなったじゃねぇか