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『今夜にでも』


高校時代の同級生から

一枚の絵葉書が届いた


久々に目にする名前


都会の会社を辞めて

念願だった夢を叶えましたと


瀬戸内海の小さな無人島を買って

そこをギャラリーにして

絵画や写真の展示をしながら

併設するカフェでのんびりできるって

そんなことが綴られていた


古民家がありその庭先で

眼下の島々を見渡して

談笑する人々の絵が

葉書には添えられている


コーヒーをサービスしますから

ぜひ遊びに来てくださいだって




行くわけないじゃん


なんであたしがこいつのところへ


こいつは高校のとき

先生に媚びをうって

それどころか

成績のよかったあたしを貶める

そんな噂を吹聴して

自分が良い大学に行ったんだよ


そもそもなんであたしの

現住所を知っているの


あぁ思い出した

こいつのママとうちのママが

仲良かったんだ

いまも交流あるってことね


こいつの悪巧みは

ママたちにはバレていないし

あたしが告発したところで

妬みやなにかだと思われて

あたしが損するだけ


まったく平等じゃないよね


仕方ないか




大学の受験に挫折したあたしは

絶望を覚えて首を吊ったの


それでいまだに

地元や都会を彷徨いながら

この世に未練を垂れ流していて


こいつのところへ

コーヒーなんて飲みに行く気には

とてもなれないけど


せっかく念願だったカフェを

オープンしたっていうなら


葉書の返事のかわりに

化けて出てやろうか


えぇっと瀬戸内海だっけ?


今夜にでも

そっちに駆けつけるよ

楽しみに待ってな









(あとがき)
瀬戸内海は悪くありません。穏やかな海の象徴として捉えたまでです。










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