『夕立』
オフィスビルの中にいても
その雨音が聴こえるほどの夕立
部下の激川さんが
悔しそうに窓の外を見つめる
「あぁー洗濯物、びしょびしょになっちゃう」
彼女は独り暮らしと聞いている
それは洗濯物ひとつとっても
苦労なことだろう
「課長のお宅、洗濯物大丈夫ですか?」
うちが共働きなことも知っているからか
私が同じ状況にあるのではと
彼女なりに心配してくれているようす
「課長のお宅、干しっぱなしじゃありません?」
「心配ありがとう、うちはだいじょうぶだよ」
「奥様がきょうはいらっしゃるとか?」
「いや妻も仕事だけど」
「えっそれなのに?」
「うちは浴室乾燥を使っていてね」
「えぇっ!?浴室乾燥を!?」
「うん、とても便利だよ」
「わたしの部屋にはそんな便利なものありません…」
「まぁ…小さいながら建てたばかりの家だし…ね」
「課長、もういちど問います」
「ん?なにを?」
「ほんとに浴室乾燥なんて、使ってるんですか?」
「使ってるけど」
「そんんんなっ!課長はこの夕立こそ、温暖化の成れの果てだと思わないんですか?えぇ?どれだけエネルギーを無駄遣いすればいいんですか?そうでしょう?乾燥なんてとてもとても電気をたくさん使うんですよ、わかってらっしゃいますか?」
「なになに、とつぜん」
「わたしのワンルームに浴室乾燥がついてないのはいいんです!むしろそんなものいらないんです、環境のことを真剣に考えてください、洗濯物なんてお日様で干せば充分じゃないですか!ねぇ課長!」
「あ、あのさ、わかったから」
「ぜんぜんわかっていませんよ!課長あした電気代の明細もってきてください!どれだけ課長のお宅が無駄遣いしているかわたしが確認しますからっ!」
「お、落ち着いて、な、うちは共働きだし」
「わたしも独り暮らしで、日中は家にいないのに、ちゃんとベランダに干しているんですよ!おかげで今は多分びしょびしょですけどねっ!」
「そうじゃないんだよ、激川さん」
「そうもなにもありませんよ、往生際が悪いですよ課長!課長のお宅はエコじゃない!クリーンエネルギーとかそんなことみんなが頑張っても、課長のせいで台無しですっ!」
「あのね、激川さん…」
「なんなんですか!」
「あのね、激川さんの言うことはもっともだよ」
「ならぜったいに浴室乾燥なんて」
「でも仕方ないんだ」
「そんなことありますか?課長のお宅、戸建で広いベランダがあるんですよね?」
「そうだよ」
「なら干しましょう!ベランダに」
「いや待って、待ってな」
「課長これ以上なにを?」
「そ…そのベランダに…」
「ベランダがどうしたんです!?」
「こないだ下着泥棒が入ったんだよ」
「…」
「こんなこと言いたくなかったけど…」
「…」
「だから…ね…?」
「っと、セクハラでぇーすっ!課長セクハラァー!」
さきほど夕立が降ってきた時点で
私は詰んでいたようだ
あとがき
本稿に際して、クリーンエネルギーなのかグリーンエネルギーなのかわからなくなったためにググったら、どっちもあった件。