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『村長の家系』


外の世界も知っておけという

父の言いつけのとおり


俺は国立大学を出て

東京の総合商社で働いている


三十路になるくらいに

戻ってきてほしいと

そう言われている


俺は村長の家系の

ひとり息子


そのうち地元で父に代わって

村長になるんだ


他に選挙に出るものもいないから

必然とそうなるわけ


しかし

どうしたものかな…


いや別に

都会暮らしに未練はないんだ


遊びたいってわけじゃないし

仕事もやりがいはあるけど

それはそれ


何が俺を踏み留まらせているかって


それはカレー




うちの村は

ド田舎のくせに

カレーが名物で


いわゆる日本的な

カレーライスはもちろんのこと

インド風

タイ風

キーマカレーにスープカレー


ありとあらゆるカレーを

村人は好む


村内にはいくつも

カレー屋があるし

各家庭ごとに

その家のカレーがある


いまやふるさとの村のカレーは

マスコミにも取り上げられて

一大産業になっているわけ



そこまではいい

俺だってカレーは大好物だ


何がイヤってさ


めっっっっっちゃ辛いんだよ!


めっっっっちゃ辛いの!

めっっっっちゃね!


俺マジで苦手なんだよなあ


どの店のメニューも

どの家のレシピも

とにかく辛さだけは

共通していて


村長ともなれば

カレーを食べる公務とか

そういうのあるでしょ?


まさか激辛カレーが売りなのに

甘いのにしてくれなんて

ヨーグルトと福神漬けどっさりなんて

頼めないでしょ?


いまのうちに

なんとかしておかないと

都会Uターン激辛苦手ボンボン村長って

あだ名になっちゃうからさ


幸いなことに

いま俺が商社で担当してるのは

アジア諸国からのスパイスの買い付け


だからなんとか

辛くなくて

なおかつおいしいレシピが

作れるようなスパイスを

流行らせようと苦心している


村長の家系

楽そうに見えて

大変でしょ?












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