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『ガードレールの痕跡は未だに残っていて』


父の一周忌は母と姉と僕の三人だけで

ほんとうに軽く済ませた


当たり前だけど

ガードレールの痕跡は未だに残っていて


沿道の紫陽花は一年前と同じように

深く色付いている


「俺は出ていくからな、家なんてくれてやるからお前らも好きにしろ」


恐らくはオンナのところに行くつもりだったのだろう

あの風体からは想像できないが

意外な一面があるもんだと

妙に感心した


妻と

娘と

息子を置いて

文字通り飛び出していった


警察からの報せがあったのは

その後まもなく


搬送される間に

息を引き取ったという


父を轢いた犯人はまだ見つかっていない


幸か不幸か

家のローンはチャラになった

姉も働いているし

僕も就職が決まっていた


だから母は

ひとりの時間をゆっくり過ごしている


強がりかもしれないけど

寂しい素振りは全く見せない


ことし

母の日には姉と一緒に

深い意味はないけど

カーネーションではなく紫陽花を贈った


母には幸せになってほしい




ところで父が家を飛び出した

あの晩あの時刻


普段は見かけないクルマが

うちのすぐ脇にアイドリングして

暫く停まっていたのを

僕はなんとなく覚えている


色は

何色だったかな













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