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一人旅、あるいは仲間旅のリスク (一人旅と仲間旅・その3)


一人旅は「善意で人が声をかけてくれる」と言ったが、訂正しよう。すべてが善意とは限らない。そう、当然「悪意」もあるということを。

たとえば詐欺だとか、ドラッグ、買春、さらにナンパは、一人のほうが断然声をかけられやすいよね。説得するのはたった君一人だけなので敵も攻略しやすいと思うはず。さらに、どこかに強引に連れて行くにも、一人のほうが自由を奪いやすい。

そしてとりわけ男性は、一人だろうが仲間とだろうが、ドラッグや買春にとてもよく誘われる。繁華街を歩いているだけで、日本のティッシュ配りに出会うよりも多い確率で声をかけられることもある。

しかし、ドラッグだけは興味本位で手を出さないでほしい。
ドラッグに関しては所持しているだけで死刑にされる国もある。現に日本人が毎年40人前後、まだ刑が確定してない人たちを入れれば80人近くの邦人が麻薬犯罪で逮捕されている。そのうち半数以上が禁固5年以上、終身刑、最悪の場合は死刑に処せられた人も複数いる。

そこまでは厳しくない国もある。「合法だから」「依存性はないから」。旅の土産話を作るノリでドラッグに手を出そうとしている日本人から、よく聞くセリフ。
しかし、そのクスリに「依存性がない」って本当なのか。売りたいだけの売人が言っていることを鵜呑みにしていいのか。売人を信じるに値する人物だと思っているのなら、とんだオメデタイ話だ。

確かに、大麻が合法化されている地域もある。
合法と言っても、規制が追いついていなかったり、罰しても一向に効果がなく、完全追放は無理として非犯罪化(違法であるのだが罰則規定がないもの)として扱ったりしている場合がほとんどだ。
しかし勘違いしないで欲しいのだが、日本人が「大麻合法」の地域で大麻に手を出した場合。それは罰せられるのか否か。答えはチーン。罰せられます! 「国外犯処罰規定」というのが制定されたので、たとえ合法の国にいたとしても、日本人の君には違法なのを忘れないこと!

そもそも慣れない大麻を吸っている間、君は大変無防備だ。ドラッグを決めこんでいる間に、有り金すべてすっからかんに盗られても、どこか知らないところで目が覚めても、男だろうが女だろうがレイプされてしまっても、まったく不思議なことではない。慣れない体には、たとえ大麻でもバッドトリップが起きるかもしれない。前後不覚になる確率は否定できないということだ。
そこは海外なのだ。興味本位のドラッグにトライしたせいで、身ぐるみ剥がされて日本へ帰れる手段を無くすかもしれないのだ。違法麻薬をやった身で、大使館に助けを求めに行く。最悪だ。

なぜ日本で、あるいは世界中の国々でドラッグについて議論になっているのか考えて欲しい。なぜ、ほとんどの国でドラッグ所持は罰せられるのか。それは誰かが不幸になるからだ。法は不幸を止めるためにある。
買春だってそうだ。その国の少女たちを不幸に貶めている。彼女たちに一時的にお金は入るかもしれないが(入ればいいが)、そこは彼女たちが望んだ状況ではないかもしれないし、婚外子やエイズなど、長い目で見れば不幸になることが多いから禁止しているのだ。
お互いハッピーならば、何も国は止めはしないのだ。
もちろん、ドラッグは誰かではなく、自身の体と精神に大変不利益で不幸を呼ぶ。その家族や友人も苦しめる。不幸になるのは、リスクを負うのは何も自分だけではない。
大きな金が動く裏で、どこかで誰かに不利益が起こる。誰かが泣いている。誰かが死ぬほど苦しむ。誰かが法外に儲けている。これらは決してWin-Winのビジネスではないのだ。そこを想像してみてほしいと思う。
そして、お邪魔しているその国を汚さないでほしい。旅人が持ち込んだジャパンマネーで。


こんなことを読んでいると、やっぱり一人は不安。仲間と旅するほうが安全だと思うかもしれない。確かにそんな一面もあるのだが、リスクの点で言うと、一概に大勢ばかりがいいとは言い切れない。

なぜならば。「危ない目に遭ったことはない」という私だが、トラブルに巻き込まれそうになったときはある。それは北アフリカでのこと。
ある街で日本人の女性に、道を聞かれている最中だった。そのとき、私に話しかけてきた女性が、私との会話中にひったくりに遭ったのだ。私も彼女に説明している際、現地の少年が近づいてきているのに気がつかなかった。「きゃっ!」と彼女が叫んだと思ったら、10代前半ぐらいの少年が、彼女のポータブルプレイヤーの入ったカバンを強引に引っ張っていたのだ。

犯人がパッと見、普通の少年だったのと、幼さの残る彼の目が挙動不審に動いており危険な香りがしなかったので、私もついとっさに加勢してカバンを引っ張って無事に取り返した。けれども、それは良い判断だったかはわからない。単にラッキーだっただけだ。少年が刀物を持っていないとも限らないし、仲間が加勢に来たかもしれない。

その土地で、そんな高価そうなヘッドフォンを首から下げるなんて、そもそも彼女は不用心すぎた。そんな素敵なものは一般の市民に普及していないことを、街を歩き回っている時点で気がついておくべきだった。今回狙われなかったが、大粒のパールのピアスも、ブランドのサングラスもとても危険だ。
彼女はショックのあまり「日本へ帰りたい」と泣き出し、そもそも話を聞いてみると、ちょっとまだアフリカに一人で来れるスキルなどはない様子だとわかった。その旅行計画も、あまりに無謀過ぎた(1週間ほどかかる土地に、1日で行こうとしていた。ムリー!)。
彼女を放り出す訳にもいかなくなり、仕方がないので予定を変更して、超お高いホテルのラウンジに連れて行き(身の安全と彼女の安心のため)、何時間もかけて旅の心得を一から教え込んだのだった。

しかしここでの一番の問題は、我々は「隙」を突かれたということだった。隙、つまり私が話に夢中になっていのだ。

一人きりだと、視野が広い。常に180度見通している。自分だけが頼りなので、一つひとつの判断がとても慎重だ。周囲にも常に目を配る。自ずと緊張感が漂う。悪意のある人から見ると、要するに「隙がない」。

しかし、やっぱり話し相手がいると少し気が緩んでしまうのは否めない。緩むというと語弊があるかもしれないが、要するに注意が分散されるのだ。
相手の顔を見ながら喋ると視野は狭まるし、腹を抱えて笑うことも相手へのツッコミに夢中になることも、もちろんある(私なら、ある。めちゃくちゃある)。
どこへ行くにも相談を重ねて、分かれ道ではお互いの顔を突き合わせて立ち止まる。よほど意識して表情を保たないと、話している内容、つまり不安や迷いが顔に出てしまう。つまり「隙」が生まれる。
一人旅だと「ここはやばいんじゃない?」と思っても、声に出さないぶん、仲間に相談しないぶん、自分の胸の内に不安をしまい込んで、比較的たやすく表情に出さないでいられる。

仲間旅だと「そこは危ないんじゃないかな……」と第六感が動いても、「ダイジョウブじゃない?」と仲間に言われると、そうかな……とほだされてしまうこともありうる。先ほどは自分の主張を貫いたので、今度はつい相手の意見に従ってしまうこともあるかもしれない。仲間旅では喧嘩も避けたいところなのだ。
旅の同行者もかなり慎重な人ならいいけれど、あまり旅に向いていない人だったら、なおさら自分も危険に巻き込まれやすい。

まぁ、つまりは、一人でも複数でもいろいろな危険はあるということだ。
このような複数人でのデメリットを念頭において、仲間旅でもしっかりさえしてればいいのだし、隙がないよう気をつければいい話ではある。


(次は仲間旅について! 続く)


ここまで読んでくれただけで、うれしいです! ありがとうございました❤️