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株式会社イノP(熊本県宇城市・戸馳島)


今週は熊本に。宇城市三角の戸馳島(とばせじま)にある株式会社イノPを取材してきました。

(株)イノP代表取締役の宮川将人さん (左)と取締役の稲葉達也さん(右)と私。3人とも同い年

社名のイノPはイノシシプロジェクトの意味です。熊本の若手農家130人で組織される任意団体「くまもと☆農家ハンター」の活動が発展し、設立された会社です。

くまもと☆農家ハンターは「地域と畑は自分たちで守る!」を合言葉に農作物に被害を及ぼすイノシシ等の鳥獣からの防護、捕獲、止め刺し(電気などでとどめを刺す)までを農家自ら行う全国的にも珍しい団体です。

現在、イノシシや鹿など野生鳥獣による農作物の被害額は年間155億円と言われています。また、農業従事者の平均年齢は約67歳と高齢化が進み、鳥獣被害により特に中山間地域の重要な担い手である農家が離農し、地域が活力を失うという悪循環に陥っています。

行政から鳥獣対策の補助はありますが、当事者の負担は大きく、猟師の減少・高齢化も著しいため、十分な対策は難しい状況にあります。これが「くまもと☆農家ハンター」が立ち上がった背景です。

農家ハンターが仕掛けた箱罠 
箱罠にかかったイノシシ 

鳥獣対策は行政に任せるのが普通ですが、農家自ら学んで行うところがすごいです。

最大のポイントはICTを活用していることです。地域の200カ所以上に仕掛けた箱罠にイノシシが入るとセンサーが感知し、中継器を介してサーバーに情報が送られます。そしてサーバーから各農家ハンターのスマホにメールで知らせてくれるという仕組みです。

右上にセンサー
ミカン畑に置かれたセンサーの中継機 太陽光パネルで発電
箱罠の状況が一目で分かる3Dマップ。イノシシが箱罠に入るとピンの色が変わる
箱罠周辺の映像も確認できる

ICTの効果は絶大です。2018年、農家ハンターは結成からわずか2年で、ゼロから年間1000頭のイノシシを捕獲するようになります。ただ、あまり多く捕獲するようになると、土に埋葬をすることに限界が出てきます。

そこでイノシシの命を無駄にしないよう、食べられる部分は食肉として、皮などは財布などに加工することを思いつきます。そのために、ジビエ施設を建て、その運営会社として(株)イノPが生まれます。2019年のことです。

イノPの拠点「ジビエファーム」。日本でもトップクラスの設備を誇る
イノPは楽天市場に出店していて、そこからジビエが購入できる

驚いたのは、食肉にならないイノシシは堆肥にしていることです。写真はありませんが、イノシシをまるごと機械に入れて、堆肥化できるのです。イノシシの堆肥なんて聞いたことありません。これには驚きました。

しかもその堆肥は地域の耕作放棄地を再生した畑で使われています。この畑は都市で働く人の農業体験・農村交流の場になっています。本来、獣害であるはずのイノシシが様々な価値を生み出すなんて、まさにイノシシプロジェクトです。

航空会社ソラシドエアが社会貢献活動としてイノPと共同管理する「ソラシドファーム」

くまもと☆農家ハンター、イノPのサステナブルな事業は令和4年度「ふるさとづくり大賞」の優秀賞を受賞されたほか、国連の公式HPにSDGsの優良事例として紹介されています。国連の公式HPに紹介されるなんて、他に聞いたことがありません。まさに本物の活動です。

もちろん、課題もあります。それは赤字経営であることです。社会活動と経済活動のバランスをどう取るか。これはイノPだけでなく、地域の課題解決を事業としている企業は必ず直面する課題です。

イノPの場合はジビエ肉の販売拡大がポイントであるように思います。日本ではジビエの認知度が低いことがネックとなっています。学校給食でも使われるようになるといいですね。

イノシシの問題は里山だけではありません。近年、イノシシがまちに出て、自動車と接触する事故が多発しているからです。自動車がひっくり返されます。ドライバーの命を守るためにも、里山でなんとかイノシシを食い止めなければなりません。

イノPのビジネスモデルが成功するかどうかに中山間地域の未来はかかっていると言っても大げさではないと思います。

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