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いのせんとわーるど #2000字のホラー

 駅は人で溢れていた。ホームでは「人身事故の影響により電車が遅延している」というアナウンスが流れている。私はスマホをいじりながら電車の運行が再開されるのを待った。近くに別の駅があれば勿論そっちに行っているけど、最悪にして歩いていける距離にはなかった。学生の自分にはタクシーを使うという選択肢はないので、こうやって待つしかなかった。

 それにしても、何故この時間を選んだのだろう。どうせ死ぬならこの時間を選んでほしくなかったし、「別の場所で他人に迷惑をかけない方法で自殺してほしいのに」と、決して声に出来ない本音をこうやって心の中で吐き出す。口に出すなんて勿論しない。だけど、現に学校に遅れてしまうという迷惑を被っているのだから、ここだけは吐き出させてほしい。

 誰かが死んだのは確かだけど、誰が死んだのかは興味がないし、どうでもいい。きっとここで待っている人たちも同じなはず。誰でもいいからはやく電車よ来ておくれ。

 亡くなったのはクラスメイトのサキだった。   
 どうでもよくなんかなかった。

 駅のホームに飛び降り、特急電車に轢かれて即死した。それをサキの親友のアカリが目撃していた。アカリはひどく混乱していて、いつものアカリではなかった。話を聞くだけで頭の中がぐちゃぐちゃになった。信じたくないし、信じられない。しかし、ネットニュースの亡くなった人の年齢と性別が報じられた記事を読み、担任が詳細は言わないものの、サキが事故にあった事をみんなの前で言ったことが結びつけたくないのに繋がってしまった。自殺するそぶりなんてなかったし、自殺から一番遠い存在だと思っていたサキが死んだ。

 グループLINEで複数で会話をしていたけど、学校に来ていないアカリが心配で、私とユミは早退してアカリに会いに行った。

 会うなりアカリはその場で泣き崩れた。涙が止まらないので私達はカラオケボックスに入った。ここならいくら泣いてもいいし、叫んだっていい。自分も泣きながらそう思った。

 泣いた。泣いた。泣いた。泣いた。ひたすら3人で泣いた。そして泣いた。泣いた。泣きながらアカリが話してくれた。「無理して話さなくていいよ」と言ったけど、「ううん、大丈夫。来てくれてホントありがとう」と今日目にした光景を話してくれた。

自分が見ていたらもっと錯乱しているに違いないと思った程、アカリが目撃したそれは地獄であった。地獄だ。続いて、サキの自殺をした理由の話題になった。友達の中でもとくに明るくて前向きな性格をしていたのはここにいる全員が知っていた。成績も優秀で、彼氏ともうまくいっているのも知っている、そんなサキは自殺から一番遠い存在の人であったはずなのに、サキはもういない。
「どうして自殺しちゃったんだろう、サキに限って、自殺する理由なんてないよね」
「ちょっと、これ見てほしいんだ」
 そう言うと、アカリがサキとのLINE履歴を見せてきた。画面の中にはスタンプの掛け合いが続いていた。いつものサキのノリだ。
 指で履歴の最新の所まで戻すと、「ねえ、面白いゲームを彼氏が見つけたみたいでさ、これ知ってる?」とサキが聞いた後に、【イノセントワールド】というURLが貼られていた。
「何それ?全然知らない!面白いの?」
「なんか、すごいゲームみたい!夢が叶うゲームらしいんだけど、彼氏と今日やってみようと思うんだ。面白かったらまた言うね」
 「OK!」とユカリのスタンプでやり取りは終わっていた。

「これがどうしたの?」
「ここで終わってたんだね」
「信じたくないけど、サキが死んだのは、このゲームが原因なんじゃないかな?と私はちょっと思っているの」
「え?何言ってるの?そんなの嘘でしょ」
 意味がわからない。笑えない冗談。しかしユカリはこんな冗談ほ言わない子だ。
 「私もそう思うよ。けどね、実はサキの彼氏も今日自殺しているの、別の場所で」
 「え?どういう事?」
 一気に背筋が凍った。
 「2人の共通の悩みだったら一緒にすると思うんだけど、ほほ同時刻に亡くなったみたい。だからどっちも後追いとかでもないらしいし、私はこのゲームが原因としか思えないの」
 まさか。しかし、彼氏も亡くなった事を知ると、その「イノセントワールド」という文字が不気味に見えた。
「ゲームをしたら自殺をするって、まさか。そんなゲームなんてあるの?」 
「ユカリはこのゲームやった?」
「ううん、まだ私はやってないよ。だから、サキが彼氏に紹介されたのと、夢が叶う?ということしか知らない」
「そっかぁ、このゲームって有名?」
「私は聞いた事もないかな」
「わかった、とりあえず私にこのゲームのURL送ってよ」
「どうして?危ないよ」
「1人ではやらないよ。色々と調べてみようと思うんだ」
 1人てはやらないと、みんなで決めてこの日は解散した。まあ、まさかゲームが理由ではないと思うけれども。

 そして

 次の日、ユカリも自殺をした。


ほかにも小説書いています。


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