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オヤカク:「10人に1人が親の言うことを聞く」状況下での親と企業の折り合い

 入社承諾時に「親御さんは内定承諾について承諾してくれていますか?」という確認、つまり親への確認でオヤカクという1イベントがあります。

 オヤカクという言葉自体は2019年頃から拡がり始めましたが、その事象そのものは以前から存在していました。個人的には親ブロックなどと表現していました。この親ブロックの末の内定辞退を防止するのがオヤカクのはじまりなようです。

マイナビは「(オヤカクは)内定辞退者の中に『親の反対』を理由にする人が目立ってきたことがきっかけで始まったが、どちらかというと、新卒採用に苦戦している企業が、新卒者に気持ちよく入社してもらうために、できるだけの手段を検討しようとした結果なのではないか」と分析している。

 エンジニアの傍らでリクルーターに関わり始めて丸9年が経過しようとしていますが、最初のミッションが「世間的に出会い系と区別がついていない黎明期のマッチングサービスでの採用」だったため、それはそれは色々な親ブロックからの辞退連絡がありました。あまりに親ブロックが多くて厳しかったので、2012年には既に「弊社への入社・転職についてご家族にはお話されましたか?ご理解頂けていますか?」と面接で実施していました。期せずしてオヤカクを先取りしていたようです。そんなオヤカクとの対峙経験、及び入社後に至るまでのオヤの影についてお話します。

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不景気、大手・安定志向

 私は12年ほど大学に居ましたが、私の周りの場合で行くと2000年代前半は起業や当時としてはまだ挑戦的な選択肢であった新興のISPやIT関連企業に進む方が多かったものの、リーマンショックや震災の影響を受けた2010年前後は公務員、都市インフラ、交通インフラ、伝統的金融業への人気が高まりました。

 コロナ禍の22新卒も例外ではないようです。私が見ている範囲でも大手は堅調ですし、弊社のようなベンチャーでも大手併願の方は多いです。

コロナ禍にあって学生は大手志向を強めている。従業員1000~4999人の企業を希望する学生は前年比29.1%増、5000人以上の企業は51.0%増えた。茂木研究員は「学生は企業の財務面などの持続性を重視するようになっている。

 2022年卒​ブンナビ学生アンケート調査では口を出すオヤは減っているという結果になっていますが、一方でオヤから何か言われたときに「意向に従う」人は10人に1人という結果になったとのことです。

​「就活について親から何か言われたか」に「はい」44.3%と、昨対比-7.5pt で減少となった。​​一方「親から何か言われたときどうするか」について、「親の意向に従う」9.2%は昨対比+3.8pt の微増となり、約10人に1人が親の意向に従うという結果に。

 そもそもオヤの言うことをどうして聞いてしまうのか、これまで私がヒアリングをしてきた結果浮かんできたのが下記の2点です。

オヤは何故強いのか: スポンサーとしてのオヤ

 育ててもらった、学費や生活費を出して貰った。スポンサーとしてのオヤを考えると、スポンサーの意向に沿わない意思決定(良い大学を出したのに知らない会社に行く)は無視できない側面は実際のところあるとは思います。このタイプは後述しますが、就職後に弾けて明後日の方向に飛んでいくことが一定数あるので企業も注意が必要です。

オヤは何故強いのか: 信仰対象としてのオヤ、思考の放棄の結果

 高度情報化社会にあって多過ぎる情報を前に意思決定を他人に丸投げする方が少なくありません。ある方はインフルエンサー、ある方はオンラインサロン主、そしてある人はオヤです。詳細は下記コンテンツに譲ります。

 その一方で「オヤに意思決定を委ねて良いのか?」と問うて回るのがオヤと対峙しがちな私を含めたベンチャーのリクルーターです。主な言い分が次の3点です。

オヤカクとの対峙:いつの何の情報を元に話しているか

 転職をしたことがないオヤの場合、余程業界を見渡せる職業についているオヤや、ベンチャー投資を積極的に実施しているオヤでないと業界研究の知識がオヤ達の新卒の時代で止まっている可能性が高いです。

 ざっくりとした計算で25-30年近く前のアベノミクスも震災もリーマンショックもIT革命もない時代のオヤ世代の就活情報・体験談を参考にしようという試みです。例えるなら株臭い倉庫から出てきた90年代の新聞を元にこれからの意思決定をするでしょうか?

 更に元高校教師である向井さんとお話していたときにハッとさせられたのが「親の意見は二世代古い」という説です。親に従う子供の親もまた、その親(祖父母)の言うことを来ているという説です。こうなると半世紀以上の前の情報である可能性も高く、現在との乖離が目立っていきます。

オヤカクとの対峙:企業認知

 私が面倒を見ていた九州出身の学生は、オヤが「どこそれ?知らない」という理由で業界トップクラスの独立系大手SIerの内定辞退をして就職浪人していました。

 一方で何を作っているのか分からないけど企業名を連呼するCM。一説にはこれらは就活生対策であり、オヤに向けて「名前は聞いたことがある」状態にするためのCMと言われています。

 オヤが知らないだけ。そのことを想定して意思決定を促さなければなりません。

オヤカクとの対峙:地域差

 オヤが地方在住の場合、その地域に存在しない職種や、メジャーではない職種の場合にはオヤの壁は高く存在します。

 こちらは私自身の経験ですが、人材紹介事業の会社に入った時に四国の両親にその旨を伝えたところ「人を紹介することでお金になる、そんな異世界があるのか」とキョトンとされました。よくよく周囲を見てみると親戚の多くは公務員か自営業であり、製造業を中途退職した人は稼業を継ぐ状態でした。そんな環境なので転職事態が珍事ですし、それを仲介することで生計を立てるなんて想像もできないニッチな業種だったのです。

 オヤの知識は環境差異も大きく影響します。現在の自身の立ち位置と、オヤの立ち位置を把握し、オヤに従った進路でコケた場合でも、オヤに文句を言わない人だけがオヤの言うことを受け入れましょう

オヤ以外の壁

 実情としてはオヤと大差がなく、オヤに区分して良かろうと考えているのがパートナー(配偶者、恋人)です。これは時として親より強いですね。

 例えば国家公務員を数年続けているケース。国家が転覆しない限り大丈夫なはずで、その安定感もあって隣りにいるケースはあり、その安定感が無くなったときにどうなるかは知りません。かつて未経験エンジニアとして転職したいという国家公務員中堅の方が来られた時は、可能な限りの異動願いを試みることをオススメしました。

 大手商社、証券会社などからベンチャーという方の中には「どうせ家族には反対されるのでこっそり転職活動しています」という方も少なくないのですが、家庭内を不穏にすると良好な精神状態で業務に当たることも困難なので「先に家族と折り合いをつけてから来てください」とお話しています。転職が理由の離婚とか報告されたくないですからね。

企業のオヤ対策

 ベンチャーの中には、入社時に本人に内緒でオヤからビデオレターを集めて入社式で流すようなことをする企業もあります。入社時にこのように企業とオヤが敢えて交流することにより、オヤに好印象を持ってもらった上で送り出して貰うというのは価値があることと思われます。

 このような関係性を構築する企業がある中で、オヤと企業が対立の構造になってしまうのは避けたいところです。私が実行したり見聞したのは下記のようなオヤ対策です。キーワードは「企業の確からしさ」ではないかと考えています。

 まず社長や管轄役員にオヤに電話してもらう。誠実さをアピールできるので有効です。事業の将来性と潔白さ、企業の確からしさ、そして対象者本人に対する評価や期待を盛り込む形です。

 コロナ禍以前はオフィスツアーなども有効でした。視覚的に会社の確からしさを証明するのがオフィスです。まだ綺麗なオフィスが残っている会社さんには有効な手段かと思いますが、感染対策は忘れずにどうぞ。コロナ禍の現在にフル出社ですし詰めになっていたり、マスクせずに団子になっていたりしていると逆効果でしょう。

 余程変な会社でない限りは、このようにオヤに対して誠実さを直接示すことで案外理解して頂ける傾向にあります。ただこれらは最終手段です。根本的には候補者本人に自身の言葉で身内を説得し、気持ちよくジョインして頂きたいものです。

オヤカクがあっても安心はできない「オヤへの義理果たし卒業」

 オヤカクの心配がない大企業も安心できないのがこのポイントです。「オヤの言うことは一旦聞いて(1-2年)大手で働いた。これからは自分の道を歩こう」と急に目覚めて退職していく方々が居ます。体感では増えている気がします。

 学術から転身してきてベンチャーを回遊している私ですら(残った方が良いと思うが)というケースも少なくなく、我慢の度合いが高ければ高いほど極端にギャップがある選択肢(準備なしで友達と起業とか、正社員が一桁前半のスタートアップとか、UberEatsなどのギグワークとか)を選んだりします。

 別にベストな選択肢なんてのは存在しません。誰のせいでもない、自分自身が都度都度納得したキャリアを選ぶ。これを節目節目でしないと職歴が拗れる傾向にあるようです。

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