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ITエンジニアはどう定年まで完走するべきか:技術サイクルから見た定年と従来型働き方の綻び

 定年の延長と平均寿命の延長の2つがなされた結果として起きた、技術やトレンドの「サイクル」との狭間について触れていきます。

IT業界ではようやく一期生が定年を迎えはじめた

 私の恩師はインターネットの父と呼ばれる慶應義塾大学村井純名誉教授です。先の3月に定年を迎えました。(これまで計算機の専門家の定年はありましたが)インターネットの創成期の人達がようやく定年を迎え始めたと言えます。

 特にWEB業界の先頭集団は40代です。誰もロールモデルが居ないからこそ、今からキャリアチェンジ、ジョブチェンジも踏まえた定年までの完走の仕方を想像しながら生きる必要があります。

従来型産業とIT業界の違いは技術サイクルにある

 従来型の産業とIT業界、もしくはDXが達成された後の違いは何かを考えていくとその違いの一つは技術サイクルにあると考えています。このサイクルの違いを説明する際に私が好んで引き合いに出すのは自動車です。

湾岸ミッドナイトから読む従来型技術サイクル

 湾岸ミッドナイトにて自動車評論家である城島氏が語るのは特にわかりやすいのですが、「ほぼ20年サイクルで車はガラリとかわる」というものがあります。1970年から1990年に産まれた車と、1990年以降に産まれた車はスタイリングも技術も大きく違うという主張です。日産車で考えていくと1969年S30型フェアレディZ(機械制御)、1989年 R32GT-R(電子制御)、2007年GT-Rを挟んでの2010年リーフ(電気自動車)と考えると納得の行く説だと思っています。

 実際は20年経ったからといって旧サイクルの技術がぱったり無くなることも、旧サイクルの技術で作られた車が直ちに廃車になることはないので、これらの技術を習得した技術者のサイクルも長くなります。加えて新しい技術を緩やかにキャッチアップしたり、現場の管理者などに昇格できれば60歳の定年までの完走は可能と思われます。

ユーザーの目に見えるところほど早いITの技術サイクル

 問題はITです。こちらも私の持論ですが、IT技術の変遷速度はOSI参照モデルネットワーク層を中心に同心円状に展開され、遠くなるほど早くなります。一般ユーザの意思決定に近づくと激しくなり、目につかなくなると緩やかになります。

 これは新規プロトコル(QUICのような既存プロトコルのオーバーラップを除く)が誕生した場合に途中経路に存在するノードをすべて更新せねばならず、コスト的に高く膨れがちであり、ユーザーに対して訴えかける(財布を開かせる)に十分でないと拡がらないことに起因します。一般ユーザーから近いUI部分や、ユーザーが契約するモバイルネットワークなどの進化は起きてきた一方、一般ユーザーが普段意識しないネットワークを抽象化しているネットワーク層などはIPv4からIPv6への更新などは20年以上経過していますが、ようやく普及率が30-40%に達したとのことです。余談ですが、限定的な地域で5G対応端末のみが存在するNIDDのような物理層込のパッケージでのアプローチは斬新ですね。旧知の仲間も関わっていますが暫く手を付けられなかったパートを研究者達が全力で着手している印象もあります。

生き急ぐ高級言語プログラマの技術サイクル

 これに対し、サーバサイドで使われているプログラミング言語は概ね5年周期です。金融関係などで何らかの事情によりアップデートを拒む現場もありますが、セキュリティの兼ね合いから半ば強制的に更新を強いられる(学習も強いられる)現場が一般的でしょう。

 更にシビアなのはフロントエンドでしょう。市場で価値を出すためにはいずれかを業務経験していることが望まれますが、このフレームワーク・ライブラリのサイクルが極めて短いです。流行も含めると1年程度じゃないでしょうか。若いうちはキャッチアップも可能ですが、職域が拡がったり家族を持ったりして学習時間が限定的になると厳しくなってきます。 

※4/14 フロントエンドについての表記更新

定年まで完走するには

 平均年齢の高まりを考えると、退職金がない企業がほとんどのWEB業界では70歳や80歳までは何らかの収入を得る術を考えねばならないでしょう。

 従来型の働き方であれば大学(入学できたという地頭と、卒業できたという最低限のまじめさ)があれば定年まで完走できました。しかしITがここそこにある現在は勉強を続けないと、数年で旧型の知識に分類されてしまいます。そしてこの流れはエンジニアであれば、かつレイヤが高ければ激流となって労働者に覆いかぶさってくるのです。

 従来型の働き方を健歩大会だとすれば、トライアスロンのようにスキルを変え、ハイペースでゴール(定年)を目指さねばならないと言えるでしょう。できる・・・?

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