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新卒(学士・修士・博士)・第ニ新卒 ITエンジニアになるための就職活動の傾向と対策 #技育祭

去る3月19日、サポーターズさん主催の技育祭(ぎいくさい)に登壇させて頂きました。これからプロフェッショナルなエンジニアになりたい学生さんが数多く参加されるオンラインイベントです。ちょまどさんchokudaiさんと言うスター性の高いお二人に囲まれてのイベントでしたが、参加者の方に「5時間は聞ける」「1年前に聞きたかった」とのお声も頂くことができました。登壇者の皆様、関係者の皆様ありがとうございます。

今回は技育祭でもお話したITエンジニアになるための市況感や、起こすべきフェーズ別の対策についてお話します。

ITエンジニア新卒を取り巻く層構造

2015年以降に見られる新卒を取り巻く層構造について大まかに分類したものを以下に示します。就活の開始時期と自走する姿勢によってどの程度売り手市場に食い込めるかが変わって来ます。誤解がないように先にお伝えしておくと、B-Fのスキル差は精進さえすれば1-3年で埋まるので就業後の挽回は可能です。次にそれぞれの層について触れていきます。

2022年3月現在の新卒・未経験の層構造

(A)上位数%

学部生のうちから有名どころのメガベンチャーで就業しています。そのまま就職したり、GAFAMと比較して進むため、新卒就活イベントで見ることはほぼありません。

スキルレベルとしてはシニアエンジニアも一目置くレベルです。ライバルは海外人材です。

(B)上位15%

情報系学部の上位層や、在学中からアルバイトプログラマーなどをしている層であり、有名企業からも熱心に勧誘される層です。ハッカソン慣れをしている方も多く、実装も発表も手慣れているため無双状態になったりします。

単体でのプログラミングスキルは高いのですが、商用でのチーム開発経験はこれからのため、企業側としては実務を重視したインターンで成長イメージを付与をしたり、入社時研修を組み立てたりする必要があります。

(C)サマーインターンで目覚めた層

学部3年生、あるいは修士1年生のサマーインターン時にプログラミングの楽しさに目覚め、学習を開始した層です。

この時期に目覚めたことによって本選考期には順調な成長を見せる方も少なくないというのがポイントです。企業側としてはサマーインターンの設計で悩むところなのですが、サマーインターンの母集団形成期である4-7月はこの層はまだ駆け出しであり、特にプログラミングスキルが形になっていないので「ハッカソンや就業形インターンに呼んでも他の人とのスキル差から候補者体験としてかわいそうなことになるのでは?」と思ってお断りすることがあります。しかし本選考期にもなると順調に成長しており採用対象になるというジレンマがあり、このタイミングで再度声を掛けたとしても「お祈りされた企業」として認識され、今度は学生からお断りされてしまいます。2021年にはfreeeさんが未経験を対象としたサマーインターンを実施されていますが、このあたりが狙いなのではないかと推測しています。

(D)駆け出したが自走に自信が無い層

属性としては(C)に似ています。サマーインターンに参加し、(C)層と同様にITエンジニアに目覚めるのですが、手厚い研修を求めて大手SIer に決める方が少なくありません。自社サービスの人気どころの企業は自学自習(自走)を求めますし、多くの企業は長くて2-3ヶ月の研修の後はOJTです。OJTが怖い、抵抗があるとなると自社サービスは厳しいです。企業の上下という話ではなく、自走の姿勢の有無で入れる企業が異なるため区分して考えたほうが効率が良いというお話です。

(E)準備無しでなんとなくITエンジニア就業

特に就活前の期間にプログラミング経験を経ることなくITエンジニア就職をする層です。

文系単科大学の就職課の方にご相談頂いたことがありますが、「ご時世的にITエンジニアを志す方が多いが就職課にノウハウがない。就職課が助言ができない状態で学生が就職活動を進めている状態。その後受け取った進路届の企業名で検索するとブラック企業と出てくるので苦々しい。」というお話でした。

2018年以前であれば予備知識が乏しい状態で雰囲気だけで就職しても確率の問題でホワイト企業に入ることがありました。しかし年々プログラミングの心得がある(B)(C)(D)方の割合が増えているため、準備無しで挑んだ際のホワイト企業の椅子は相対的に減っています。

(F)他職種に就職後、未経験でエンジニアにキャリアチェンジ

一度他職種で就職した後、思うところがあってITエンジニアになる層です。

企業からの評価が高いプログラミングスクールであれば、社会人経験がプラス評価され年収が400万円〜となるそうですが、そうでない場合は230万円〜というのが一つの目安になっています。また、ITエンジニアの枠で入社したら家電量販店に立たされたという「家電系SES」や、入社後に適性検査にかけられITエンジニアではなく事務職に配属されるケースも耳にします。

私自身、オーバードクターで博士を終えた頃には「こいつは新卒?中途?」という持て余しから入ったこともあって羨ましく感じるのがいわゆる新卒カードです。現在は第二新卒という言葉も20代に拡大されるなど間口は拡がっているように思われますが、それでも新卒カードの威光は強いです。

就活中の方に意識していただきたいのは、ITエンジニアになりたいというのであれば、ストレートにITエンジニアになったほうが良いということです。私の知る例でも国立大情報系学部を出た後に営業職になるも、やはりITエンジニアが良いように見えて転職活動をしたところ未経験の相場である230万円で提示された方が居られます。ストレートに就職をしていたら待遇は100-200万円の差はあったでしょうし、業務内容も全く異なってきます。これが新卒カードの差です。買い手市場が続いいているうちに優位に振る舞い、新卒カードを有効活用しないともったいないです。ちなみにこの方については社内のキャリアチェンジでなんとかなりました。

階層をハックする

ポイントとしては、最初のスタートラインの違いによってイニシャルの年収や労働条件は異なるという事実がある一方で、本人が腐らなければ挽回可能であるということです。自暴自棄にならず、粛々と実績を積みながら将来に向かって積み上げて頂きたいところです。

技術力の差とは?

(A)の領域はスポーツの分野でいくとオリンピック選手のような側面があるので追いつくことは中々に難しいですが、(C)や(B)の人たちに1-3年後に並ぶことは可能です。

20年前から「幼稚園からBASICをやっていた」「中学から企業から業務委託でシステム開発をしていた」という人たちは少数ではありますが居ました。そうした方々と、大学から始めた人たちの差が開いたままかというとそうではありません。スタートラインが早かった場合であっても個人で進められる学習範囲は限定的であるため、ビジネスで必要となる要件を満たす経験や、グループで商用開発する経験は学生のうちに経験できるケースは少ないものです。

就業先の中で最大限の経験をし、スキルアップすることで挽回可能です。ポイントは繰り返しになりますが腐らないことです。腐らずに精進すれば待遇アップ、スキルアップを重ねて大抵のメジャー企業への転職も可能です。

修士という選択肢

理系に関してはオススメできます。特にAIエンジニアを志望する場合、研究領域でAIやデータサイエンティスト領域で論文誌を通しておくと(A)(B)が狙えます。逆に言うと競争率が高くなっているこれらの分野を、研究実績の乏しい学部卒で好条件を狙うには厳しいものがあります。

研究室についてはどこでも良いわけではありませんので下記コンテンツを御覧ください。私の繋がりのある先生方にもご評価いただいているコンテンツです。

博士という選択肢

止めはしません。

しかし修士もそうですが進学予定であっても就活はしておくことをお勧めします。私がそうでしたが学術分野でキャリアが断たれた際、ビジネス転向の選択肢がでてきた時に問題になりやすいのが、博士人材の多くは学部の頃から博士を意識しているため就活をしたことがない傾向が強く、業界を知らなさ過ぎるということです。一朝一夕に業界研究はできるものではないので、そのアタリを付けるためにも就活をしてどんなものなのかを知っておくことは後々で楽になります。

一点追加しておくとすれば、オーバードクターはお勧めできません。学術に残ることができれば勲章みたいな捉え方をする方が居られますが、ビジネス領域において20代を消費してしまうのは機会損失に繋がります。生涯年収に影響する可能性も高いです。3年で速やかに卒業する、オーバードクターが見えたら極力短い期間で卒業するに越したことはありません。+3年は在学中以上に就業後のディスアドバンテージを感じました。

就職活動対策 

徐々に元気の良いベンチャーを中心に新卒に拘らない採用を実施し始めていますが、今はまだ過渡期です。かれこれ博士の研究テーマから数えて10数年何かしらのマッチングをテーマに研究している身としては、時として雑なお見合いパーティーのような就活シーンは無駄が多く苦々しく感じます。元大学人としても、当面やりたいことを見つける行動は結構ですがスマートに行き先を決めて研究活動に打ち込んで欲しいという思いがあります。

いくつかフェーズ別のポイントとして残しておきます。

学部1-2年生

プログラミングを始め、未経験でも受け入れ可能なアルバイトプログラマをやりましょう。専攻を問わず十分に(B)が狙えます。

問題はアルバイト先です。いきなり未経験で(A)が居るようなメガベンチャー長期就業インターンやアルバイトは採用されないので、小規模な会社を狙うことになります。しかしPHPを使いますと言って入社するも実際はHTMLとCSSの手直しで終わりというケースは沢山あります。先輩などの紹介も活用しつつ、しっかりと身につくアルバイトをしましょう。

個人的に会津大学に興味関心があり実際に行ったこともありますが、コンピュータ理工学に特化したこの大学の周りにはSIerが複数あり、学生アルバイトが多く出入りしています。作っているものがチェーンの蕎麦屋の券売機などでして非常に企業受けする経験が積めます。こういう企業に入ることをお勧めしたいです。

学部3年生以降は業界研究、企業研究を並行して進める

かつて新卒逆求人のイベントで「話はとても参考になったが、会社名を聞いたことが無いので検討に値しない」と有名ではない大学の学生さんからフィードバックを頂いたことがあります。学部3年生以降で必要なのは業界研究であり、このような「社名を聞いたことがないから受けない」という姿勢は危ういです。

会社とは概ね下記のものが満たせていれば数年は不満がでることは無いでしょう。

  • 売上が堅調

  • 十分な粗利

  • 複数の黒字化している事業の柱がある

  • 真っ当なエンジニアが居てサポートが期待できる

  • 殺伐としていない社内チャット

  • 平均と同等かそれ以下の年間離職率

当該企業がどういうものであるのかフラットに業界研究をし、上記のようなことに注意しながら選ぶことをお勧めします。

学生生活の棚卸し

コロナ禍も長く、就活で王道だった分かりやすい経歴である留学経験、ボランティア経験、サークル副部長が推しづらくなりました。学生時代に何をしたかの棚卸しをしましょう。

例えば昨今流行りのDXですが、数年前まではとりあえずデジタル人材を確保することが重要視されていました。しかし実際にDXが進むに連れ、企業全体のアップデートが必要であることが分かると、エンジニアにもリーダーシップが求められるようになっており、その人に将来的にプロジェクトを任せることで改革が進むイメージが湧くかどうかが鍵になっています。

リーダーシップと言ってもサークル副部長やバイトリーダーである必要はなく、研究室、授業のワークショップ、アルバイト先の新人教育などの経験で十分です。下記のポイントを抑えることができれば申し分ありません。

  • 何をしたのか

  • 何故それをやろうと思ったのか

  • どのようにやったのか、どう工夫したのか

  • その結果どうなったのか

  • 周囲の反応はどうだったか

たまに純粋に「YouTubeを見ていたら学生時代が終わった」人が居られるのですが、何かやっていたと信じたいところです。

就職活動の方向性(軸)、志望理由

「無い内定」という言葉もありますが、競争率が高いところを数十社受けても少子化であろうが売り手市場であろうが厳しいところは厳しいです。私がよく見かけるパターンとしては数を多く応募することで一社一社の対策がなされず、汎用的な志望理由を書き、面接対策本に従ったどこの会社でも通じるような面接応答をしてしまうというものです。質問に対してICレコーダーが再生するかのように話はじめる方も少なくありません。こうした汎用的な対策を講じて複数社受けるという行為は「ガチャを回している」状態です。

特定の領域に特化している自社サービス企業(ア)を受ける場合、その事業や業界に対する共感や興味が求められる傾向にあります。

逆に領域が多様であり、配属先がどこのサービスになるか不明な企業(イ)であれば、サービスへの共感よりミッション・ビジョンへの共感が求められます。これらの企業では志望理由や企業選びの方向性が候補者と企業で合致していないと厳しいものになります。

「なんでも良いからできる人が欲しい」という会社(ウ)では純粋に作業者としての参加が期待されています。

こうした志望理由や企業選びの方向性を話す際に例としてだすのが「千と千尋の神隠し」です。千尋が湯婆婆に対して「ここで働かせてください!」と5回目で雇われるシーンがありますが、実際の(ア)(イ)の就活ではそんなことはまずありません。建設的に経歴の差まり、雇うことによるメリット、志望理由を伝えなければまず通りません。それでも通してくれた湯屋は(ウ)の企業群と言えます。

同じく「ハクという人に言われて来ました」というのもカジュアル面談では許されますが、最終面接ではまず落ちます。こう話す人は新卒採用シーンで増えています。逆求人イベントや新卒スカウト媒体の台頭に伴い、志望理由が「スカウトされたので来ました」となりやすくなっています。これは志望理由ではありません。

親や大学教授のために就活をしない

親は多くの場合、スポンサーです。しかし親の知識はベンチャー投資家でない限りは古く、更にその上の世代から価値観を引き摺っていることがあります。親が責任を取って人生の面倒を看てくれるのであれば従えば良いのではないでしょうか。私が就活に対して親の干渉を受ける立場だったとしたら、1) 親が駅近のまとまった地主の場合であり、2) それを相続できる条件であれば言うことを聞こうかなと思います。

また、某旧帝大の就職担当の教授とお話した際、「我が大学の卒業生には確固たる企業に入ってほしい」「楽天はスタートアップ」というお話がありましたが、これも価値観が20年前なので論外です。私が学部4年生だった2004年、学校推薦の花形は東芝でしたが、そういうことです。偉い人は誰も責任は取ってくれません。

今後の階層の変化予測

プログラミング教育が小学校から始まったり、習い事としてプログラミングをしてきた層が台頭してくるとこのピラミッドは変わるでしょう。サマーインターンでプログラミングに目覚めた(C)層は今でこそもてなされていますが、ベースラインが引き上がってくると(B)層が増えるため、年々厳しくなります。

この様相は現在のフィリピンの若手エンジニア市場に近似していくのではないかと考えています。フィリピンの場合、情報系の大学を出てITエンジニアになると平均年収の2.5-5倍を得ることが可能になります。そのため、親族で頭の良い子にお金を集中させて家族ぐるみで進学させ、次の世代を扶養家族にしたりするなどしています。そのため親族の期待や背負っているものの重みが違います。日本のIT教育は2022年現在はそこまで重みがあるとは言えませんが、新卒の待遇が年収にして100-数百万円以上開きつつあるため、今まで以上により早期からのプログラミング教育をさせたくなる親というのは増えていくでしょう。

そして既にITエンジニアになっている経験者層各位については、そうした優秀な若年層が立ち上がってくることを想定しつつ、商用プログラマとしての知見を活かせるようなポジショニングをしたり、自身のキャリアに経験を載せながら独自性を出していく必要があるでしょう。買い手市場なのでスキルアップなしで胡座をかけている方々が厳しくなっていくことが予想されます。

「ネズミの嫁入り」な側面があるキャリアパス

渋谷六本木界隈で中間管理職をしていると、必ず大手メガベンチャーと比較した際の待遇差、福利厚生差について社員からなじられるという悲痛な声が聞こえてきます。

しかし当の大手メガベンチャーのVPoEの方に言わせると「待遇を巡ってGoogleと比較されて辛い」とのことです。皆がGoogleに入れるのであれば入れば良いのでしょうがそうでもない難しさが香ばしいです。

更にGoogleの友人に話を聞くと「良くも悪くも大企業なんですよ」と言って仲間内でスタートアップを起こしました。

流れが早く、他者他社比較も容易なIT業界ではキャリアのゴールというものは恒久的には存在し得ないものです。誰しもが満足するキャリアというのもまた無いのでしょう。再度繰り返しますが、腐らずに前を向いていれば後からでも何とかなります。そして世間的に良いとされている企業に入ったからといって満足行くかと言われるとそうでもないのがキャリアの妙味です。

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