キャリア初期に進んで下げ止まる若年層の「意識低い系エンジニア」の動向が気になる
エンジニアの採用だけでなく、定着・活躍といった内容で情報発信させていただいていると、色々なご相談を頂きます。今回はその一例で意識高い系とは反対の意識低い系エンジニアについてお話します。
これまでSNS界隈を中心に「意識高い系」の人たちは揶揄されてきました。意識が高いのは結構なことなのですが、こじらせて生きづらくなっている人たちが居るというお話です。
ベンチャー界隈ですと職種を問わず、「圧倒的成長」に「意識高い系」の人たちが参画しがちなのですが、体力・気力の問題や期待値が違ったりすると「飽き」「燃え尽き」が問題となります。
ではここで言う意識低い系は何が問題なのかと言うと、エンジニア経験数年未満にして低水準で能動的にステイしてしまっている状態です。
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意識低い系エンジニアの特徴
私が対峙してきたり、ご相談いただいた事象をまとめると下記のような傾向があります。
年収のところについて所謂社会の格差問題かというと、チャンスがあるのにも関わらず自主的に動いていないので違うと思います。
各社の人事や経営者の方からご相談頂く内容は下記のようなものです。
従来型「ぶら下がり人材」との違い
大手企業やある程度年数が経ったベンチャー企業などで「ぶら下がり人材」として揶揄されるミドルが一定数居ますが、それの若年層版にも見えます。
従来型「ぶら下がり人材」との特異点を先のリスト内からピックアップします。
従来の「ぶら下がり人材」は30代後半に多く見られました。また年収レンジも200-300万円代前半よりは高い人が多いです。受け身ではありますが残業はそれなりにする傾向にあります。
ある程度のキャリアを経て諦めが見えるのが従来型の「ぶら下がり人材」だとすると、キャリアの序盤から納得して留まっているのが意識低い系エンジニアと言えます。
意識低い系エンジニアはどこに居るのか?
エンジニア採用に不慣れな企業が未経験エンジニアを採用した際、一定数紛れ込んでしまう傾向があるようです。
エンジニア採用に不慣れということは扱いも不慣れなので、特に企業から評価をされることも無ければ期待されることもないという状況ができやすいです。言われた守備範囲だけやることになりますが彼らにはこれが心地よいようです。
また、下記のような特徴と共に自社サービスの奥地に生息しているため、どの程度居るのかは不明です。企業によっては多数派であるという話もあり、意外と多いのではないかと思います。
日本固有の問題でもなさそう
この話は新興国である東南アジアでも耳にします。私が見聞したのはベトナムの事例です。
社内公用語を英語にしようと働きかけたところ、「なら辞めます」という声が複数上がったそうです。よくよく話を聞くと下記の要点だったようです。
特に向上心が無かったり、待遇アップを求めないという点で共通しています。共通することとしては総合職とは違い、手に職はあり、現状では需要があるように見えるタイプの専門職なので多くを求めなければなんとかこのままの水準で生きていけそうだというのがあるようです。
恐らく日本の意識低い系エンジニアについても英語が強要されたり、スキルアップが強要されたように見えたり、出社が強要されると今の環境が変化してしまうので転職する可能性はあるでしょう。
流され型キャリアドリフトとの違い
キャリアデザイン、そしてその対語としてのキャリアドリフトというものがあります。
自らのキャリアを主体的に設計し、実現するのがキャリアデザインです。ただこれは不確実性の高い現代社会ではデザイン通りに行かず、非常に苦しい展開になりがちです。
それに対し、神戸大学大学院 金井壽宏教授が提唱するキャリアドリフトというのは節目以外はキャリアをデザインしないという概念です。柔軟性が高く、節目で内省しながら方向性を決めていくというものです。私自身も研究員→インフラエンジニア→エンジニアリングマネージャー→今とドリフトしてきているので非常に親近感があります。
こちらの本、「科学的な適職」でも紹介されています。帯に抵抗がありますが、客観的なデータが豊富で良い本なのでご紹介しておきます。
そんなキャリアドリフトですが、中でも特に方向性を設定しない状態でさまよったり、吹き流される流され型と漂い型というものもあると分析されています。
神戸大学 鈴木竜太教授の組織内キャリア発達における中期のキャリア課題(リンク先PDF)では主にキャリア中期(30歳代中盤から40歳代)のキャリア転換期についての言及がなされています。
こうしたキャリアドリフトと意識低い系エンジニアの違いというのは下記があると考えています。
池田先生の投稿でいうところの流され型キャリア・ドリフトに近いのですが、流された先で積極的にエンジニアメンバー層への沈殿をしてしまってあまり動いていないというのが意識低い系エンジニアの特徴だと考えます。
次にどのようにしてこうした意識低い系エンジニアが居るのかを考察していきます。
【背景】エンジニアになるのがゴールだった
2018年からのプログラミングスクールの勧誘合戦では「エンジニアになって手に職をつければ安泰」というウリ文句が叫ばれました。
他のウリ文句であった「エンジニアになれば今の年収より100万円アップ」は大嘘だったわけですが、そこを期待していなければリモートワーク、フレックス、私服などの要素は比較的達成しやすく、(狭き門ではありますが)自社サービスに入ってしまえば当初設定した人生のゴールと言えなくはないです。
私自身、先のコンテンツでは受講者の期待値が一部オンラインスクールの煽りによって高いことを問題視していましたが、期待値が低い場合も意識低い系エンジニアの輩出に繋がってしまったということだろうと捉えています。
【背景】リモートワークの台頭によるライフコストの削減
私自身、博士取得後に額面15万円の高学歴ワーキングプア時代があったのですが、都会でクラスには厳しすぎる条件でした。
しかし収入が低かったとしても、それをリモートワークが解消してしまっているようです。都内近郊に出社が必要で家賃補助を利用しているケースは少ないです。
選択肢の一つとしての実家。これは最強ですね。
しかし一人暮らしの事例も多く、物価が安い土地への移住や、自治体の補助がある土地に移住することで低い年収でも生きていける状況を作り出すことができます。
地方に住まなくとも、シェアハウスでコストを下げている方も居ます。
一人暮らしであっても埼玉の奥の方や三浦の方など、「いざ出勤を命じられたら行けなくはないが、毎日は厳しい。ただし安い」場所に住んでリモートワークをすることで意識低い系エンジニアのままでも問題ない状況が完成してしまっています。
【背景】空いた時間に特に何をするというわけでもないらしい
現在の50代はバブルの兼ね合いもあり、物を買うということがステータスになります。その背中を見た40代はバブルを直接経験していないものの、何かしらの物を買うことに対する憧れがある傾向にあります。
しかし物心がついたころには不景気だったさとり世代(一般的には1987年以降)は欲がない人が増えていきます。
これを後押しするのが暇の潰し方の無償化だと考えています。
【背景】エンジニア需要増による「きっと大丈夫」
現在の転職市場を見ると、35歳定年説も少子化や人材不足と共に40代であれば問題なく転職できつつあります。(フリーランスで1-3ヶ月で現場を転々としている人は案件獲得に苦戦する傾向はあります。)
少子化も人材不足も解消されることはなさそうなので、正社員でメンバー層を真っ当すれば路頭に迷う可能性は低そうな空気があります。それ故に多くを望まなければ焦る必要は感じていないのだろうと思われます。
意識低い系エンジニアの今後
冒頭で述べたようにエンジニア採用に不慣れな段階で採用するケースが多く見られます。採用KPIを設定し、無理に達成しようとした際にもこうした人材を採用するケースがあります。
純然たるメンバーとして扱う分には辞める可能性が低いです。ただしイノベーティブなことを求めるのは難しいです。正社員エンジニアに期待することが「メンバー1人月の働きを満たすこと。以上。」であればスピードや品質が低くとも達成できる可能性があります。
詳しくは別のコンテンツでお話する予定ですが、デジタル化・DX化にしてみても、経営層がエンジニアに期待する役割としてDX化のリーダーシップを取るというものがあります。それ故に指示待ちの意識低い系エンジニアをこの枠で入れてしまうことで、「デジタル人材を入れてみたのだけど何も起きなかった」という落胆に繋がっているようです。
新規事業・施策のような能動的に調べたり提案したりする必要があるものではなく、意識高い系が苦手な傾向にある保守運用に割り当てると活きますが、自主的な勉強は好まないのであまり難しいものはできない可能性があります。
本人の面白みを焚き付けることができれば改善することはできるかも知れませんが、多くの場合は本人がそれを望んで居ないので難しいと思われます。
彼らに転換期があるとすれば守ってくれていた企業の倒産か、海外へのシフトでしょう。特に世間的に海外へのシフトが進んでいくとライバルは意欲的だったり、数が多い海外人材となるため、かなりきつい代償を払わなければならなくなると考えられます。
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