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日本を席捲する採用バブルと、海外動向を踏まえた際の危うさ

先立ってえらぶゆかりさんが下記のようなコンテンツを投稿されていました。日本に居たとしても海外エンジニアを意識しないと厳しいというお話です。

私自身、日本人採用についてあまりにも難しくなっていることに疑問を感じて人材紹介会社からLIGに転職し、国内だけでなくフィリピンやベトナムのエンジニアとの協業にシフトしました。

今回は海外を視野に入れた未来予想について見聞も踏まえてお話していきます。

【企業から見た海外人材】10年前のオフショアとは違い、スキル的にはイーブンか日本が負けている

10年前にブームがあったオフショア拠点というのは安かろう悪かろうの世界でした。当時安いという認識だけで投資してみて失敗した企業やプロジェクトは多く、LIG以前に私が関わったものも成功と言えるのは35%といったところでした。よくあるパターンはブリッジエンジニアが優秀で一人で奮闘し、その他大勢はHTMLの微修正くらいしかできないというものでした。

あれから数年、普通にモダン言語を開発できるよう人が大半になっているという現実は知る必要があります。React、Vue、node.js、Swift、Kotlinなどをリードできる人材も多く、情報系の素養もあるのでキャッチアップも早いです。フィリピンで学歴が高い人達は問題なく英語を流暢に使えるため、公式ドキュメントやコミュニティにもするすると入って情報収集してきます。このような人が求人を出して1ヶ月〜1.5ヶ月もすれば内定承諾まで行けます。

こうしたことができる日本人エンジニアは居なくはないですが、ごく一握りです。日本において非採用強者の企業では数年掛かっても一人も採用できないレベルです。

家族という概念が強いフィリピンでは、優秀な子供に対して投資をし、優秀な情報系大学に行かせ、年収の良いIT企業に行かせ、扶養家族をぶら下げるというループが出来上がっていますので、個人の知識レベルは十二分に高いです。卒業後は外資を中心にオフショア拠点に入社することが多いため、基礎的な実務スキルもあります。

日系企業との協業で課題があるとすれば、日本のBizサイドがやりたいことを明文化し、認識齟齬なく伝達することです。これができれば問題はありません。

【企業から見た海外人材】海外から日本に連れてくるのは難しい

コロナ禍以前、ITメガベンチャー各社では海外採用が流行ったことがあります。

私自身、2018年頃にインド人採用を実施したことがありますが、インド人コミュニティの中で「日本は物価が高いので年収+200万以上で締結しないと渡日は危うい」という情報が回っていました。核となるリーダーポジションを募集しようとしましたが、希望給与で行くと最低で800万円、最高で1,200万円でした。現在の日本人エンジニアもジョブホップは激しいですが、それ以上にフットワークが軽いので、定着も踏まえると来日前提の採用は厳しいと結論づけました。

当時海外人材の来日を前提とした採用を実施していた複数社に話を聞いてみるとかなり反省点が多いようです。成功事例は今のところ聞いていません。

また、インドの日本語教育担当者から聞いたお話では、ある日系大手企業の場合はインドで採用後に日本への出発一ヶ月前にホテルに集め、日本語と日本の文化についての教育を施していたそうです。しかし家族を重んじる国であるため、当面会えないであろう家族と引き離されての研修はメンタルを害する人達が多かったそうです。

コロナ禍に限らず、物価や生活費を踏まえると海外人材には現地で家族と共に暮らしながらコミットしてもらうのが適切なのだろうと考えます。

【海外企業から見た日本人】日本での日本人採用は時間がかかりすぎる

先のコンテンツでも触れましたが、日本というのは少子化の影響もあり、非常に採用コストが高い状態です。

海外が求人票を出したら面接ができるのに対して、日本はブランディングから始めなければなりません。

開発部隊を集めてさっさと事業を開始したいのに、それに到る前にまずオマツリゴトをしないと母集団形成すらままならないというのは控え目に言ってかなり面倒くさい国です。例え年収が相対的に低くても、海外から見た日本は採用の観点で新規参入障壁が高いと言えます。

【日本がオフショア先になる可能性】時差

オフショア拠点を運用していてよくある質問は時差です。近しい時間帯で働かないとコラボレーションが難しいというのは真です。フィリピンは1時間、ベトナムは2時間(かつ現地時間8時始業なのでズレなし)なので問題は起きません。

よくあるのはEU圏の企業はアフリカをまず開拓します。その先に24365体制で案件を回したくなると異なるタイムゾーンに行きます。最初から異なるタイムゾーンに行くとコラボレーションは難しいです。

時差を理由にオフショア拠点として日本を選ぶ場合、選ぶ側となる可能性としてはオーストラリアの企業が挙げられます。既に一部大手外資系で実現されていますが、アメリカ本社の下にアジア・オセアニア担当としてオーストラリアの支社があり、その下に日本が来るというモデルになるでしょう。

また、台湾やベトナムの企業が日本に進出するという話もあるでしょう。ベトナム発企業のFPTは日本にも進出済みですし、フィリピンでも採用強者として名を挙げています。

【日本がオフショア先になる可能性】需要と供給

海外人材の台頭の話をすると「日本がオフショア先になってしまう」というコメントを頂きます。こうした恐れは理解できるのですが、私が懸念しているのはオフショア先にすらならない可能性です。

あるアメリカのスタートアップから開発拠点を日本で作りたいと相談を受けたことがありますが、下記の点で諦めていました。

・人材紹介利用時の紹介フィーが高い
 海外では20%程度だが、日本では35-40%
 年収の差を鑑みてもアメリカ本社の稟議が降りない
・求めるスキルレベルを満たす人が居ない
・TOEIC900点越えの人材でもディスカッション相手としては不足している

言語の壁は厚いです。日本人エンジニアの中には「自動翻訳が優秀になるので英語を勉強しなくても問題ない」という人が居られます。翻訳者や翻訳機を挟んだコミュニケーションフローというのは下記のようになります。

日本語話者(A) → 翻訳者/翻訳機(B) → 他言語話者 (C) → 翻訳者/翻訳機(B) → 日本語話者(A)

一度翻訳者を挟んだミーティングを経験すると、翻訳待ちの時間がストレスであることが分かります。翻訳ミスやQAズレも発生することから、ミーティング時間が3倍になることもあります。

言語の壁がある状態で海外企業が日本に居る日本人をパートナーに選ぶ理由に何があるのかがポイントになります。その翻訳時間を割いても尚、開発を依頼するメリットをエンジニアは提供しなければなりません。

技術的に日本に優位性がありそうな技術提供だと、ピクセルパーフェクトであったり、かっちりした仕様に基づいた開発、QAやテスターなどであれば可能性はあります。メリットが「安価である」というのだけは避けたいところです。

日本語が世間的にはマイノリティである上に、ビジネス上のメリット提供も難しいので海外人材が日本語を話してくれるというシチュエーションに期待するのは自傷行為です。

【日本国内の内需】生存戦略としての視座、BizDev

先細りはしますが日本国内の内需で頑張る場合、メンバー層は採用難を理由に海外人材へのシフトが進む可能性が高いです。実際にベトナムやフィリピンへの進出を始めているベンチャー企業の話も多く聞きます。

メンバー層としての生き残りではなく、上流工程でBizと対等に話ができるというのが差別化に繋がり、キャリアの生存戦略となります。

キャリアの序盤で契約上メンバーとしての振る舞いしかできないフリーランスをやってる場合ではありません。

注視するべき外資系企業の日本市場縮小、撤退シナリオ

今でこそ採用強者に必ず上がる外資系企業ですが、彼らが日本を見限って撤退するシナリオがあるのではないかと注意をしています。理由があるとすれば次の2点でしょう。

一つは市場としての見限りです。日本という市場が魅力的でないと判断されれば発生しうるお話です。先のコンテンツでも紹介したこの記事では、ソフト開発費が安いことで日本企業との取引を敬遠する動きがあるというものです。ソフト開発費の安さは間に挟まっている企業が多いからという可能性もありますが、予算が渋いことも原因の一つです。中国を顧客にした方が良いと判断されるシナリオはありえます。

二つ目は日本でエンジニア組織を作ることに対する見限りです。これまでお話してきたように、「日本人って単価は薄ら高いし、人数も集まらない。日本語しか話さないからコミュニケーションが面倒だし、スキルも高くないよね。」と判断される可能性は低くはないでしょう。今はSIerからの圧倒的吸引力を見せている外資コンサルですが、社会的にフリーランスや自社サービスの志望者が増えている中で、今後も継続して吸引し続けられるのかは注視しています。外資コンサルが日本での採用を絞った時、それは採用強者が弱体したという吉報ではなく、日本が見限られたという凶報の可能性も疑う必要があるでしょう。

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