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ITエンジニア35歳定年説のその後: 実際に達者でやってる人達のキャリア事例

 ITエンジニア35歳定年説。今でも時折語られるワードですが、文脈としては「35歳定年説なんて嘘だよね」という形で使われがちです。現在LIGで年齢制限無しで採用活動をしていることもあり、改めて市場を調査中です。私自身も38歳で転職してきたので、今回は35歳以上のミドル層、主にエンジニアがどこで活躍しているのかついてお話します。今はまだ20代で怖いものなしの方にも加齢は不可避な事情であるため、現在のミドルの状況は知っておいて損はないでしょう。また、30代未経験エンジニアの方々についても触れていきますので参考になれば幸いです。

ITエンジニア35歳定年説とは何だったのか

 この話が出てくる度に少し調べてみるのですが、この説は詠み人知らずなようです。IT業界の黎明期から言われていたとも言われています。

 次に出版物について調べてみたところ、2005年に2冊ほど見つかりました。いずれも著者自身の経験が書かれた本ですが、2005年にSEに何かあったのかも知れません。

 興味深いのが2006年11月22日のリクナビNEXT Tech総研「Dr.きたみりゅうじの"IT業界の勘違い"クリニック22 SEのしごとは、35歳が限界ラインだよね?」です。関連注目キーワードは「SE 35歳 限界 体力」。

 つまりは00年代まで一般的だったブラックな職場環境を前に、能力より先に体力の限界が来ていたというのが古の35歳エンジニア限界説の実態と言えそうです。当時の新卒一括採用、終身雇用型のSIerなどでは35歳を境に営業や上流工程に行くという流れに繋がっていたこともあり、特にプログラマとしては35歳までという風潮ができていたと言えます。

 2020年にゲーム会社人事のねじおさんがITエンジニア35歳定年説について書かれていますが、財団法人デジタルコンテンツ協会のH22年の調査研究やCEDECのアンケートに触れながら「体力や能力的な限界は35歳では来ない可能性が高い。ただ、個人に依存をすることも多い。」と結論付けられています。

 現在は多くの職場ではホワイトになり、リモートワークも一般的になり、随分とIT業界はクリーンになりました。体力が原因だったエンジニアの定年はいくらか後ろ倒しになったと考えられます。

 もう一つ、こちらは私の仮説ではありますが、ITエンジニア35歳定年説が言われなくなってきた要因として、ITエンジニア35歳定年説を唱えていた人とそれを信じていたボリュームゾーンが35歳を優に超えたために興味を失って言わなくなったのではないかということがあります。さしずめ「ITエンジニア35歳定年説提唱者年齢超過説」といったところでしょうか。

もう1つの35歳を取り巻く話題:35歳転職限界説

 一方で「35歳を迎えるので最後の転職だと思って」と言いながら転職活動をされている方は多く見かけます。38歳の私が転職したときも「勇気をもらいました!」というお声を業界を越えて多数頂きました。職種を問わずに確認されるこちらの限界説は先の体力的な限界とは別のところに原因があるようです。

 一つはキャリア。プレイヤーとして転職するには35歳に一つのハードルがあります。詳細は後述していきます。

 もう一つはプライベートにおけるライフイベントとの兼ね合いです。一つは結婚です。結婚を見据えて給与を上げたい方、もう少し映える会社に行きたい方、先方のご家族に訝られるので正社員になりたいフリーランスの方も居られます。次にお子さんが産まれたり、小さかったりもする年齢で転職どころではないという方も居られます。人によっては祖父母や両親の介護問題も見え始めます。

 無視できないと感じるのがフラット35です。35歳に組むと支払い終わるのが70歳なので、前倒しで払うか将来延長されるであろう定年にギリ間に合うかという塩梅。ローンを支払うために現職に残る方、ローンを組んでから転職、ローンを組むために正社員化するフリーランスとパターンはいくつかあります。

 多様化が進む各人の人生ですが、岐路を考えやすいマイルストーンの一つが35歳であり、その前後は多感な方が少なくありません。

妙に厳しく扱われる1975年以前産まれ

 2020年現在45歳以上の方々です。僭越ながらこのあたりの年齢の方々に対する風当たりが妙に厳しい。

 大手SIerでリストラが始まっている対象年齢としても上がりやすいというのが一点。ただこれは昔から定期的に観測されることなので、景気の動向に対してたまたま45歳が重なる生まれ年かどうかと考えるのが適当に思われます。

 5歳刻みで存在しがちな求人票でも、1メンバーとしての募集は45歳で途絶える傾向にあります。ここまでには何かしらのマネージメント経験やスペシャリスト要素が暗に求められています。

 事情が特殊で厄介なのはWEB系ベンチャーです。WEB系の場合はベンチャー各社の社長の年齢が1976年前後に集中しているという事象が多く見られます。00年代前半に社会人を少し経験した後に30歳になる前に起業した人達です。

 ベンチャー企業社長にありがちなパターンなのですが、無意識レベルで異常なまでに自分よりも年上を警戒する人達が少なくありません。反対に同学年だと妙に打ち解ける。こうした企業において社長より年上の人が採用されることは難しい、つまり1975年以上の人は多くのベンチャー企業において厳しい見えないフィルタによって阻まれることが多々あります。ただしVCや懇意にしているヘッドハンターからのCXOの紹介であれば別です。

 何故このように強く当たってしまうのかという点について3つの仮説を抱いています。1つは年上に対して指示しにくいという体育会系的な発想が根底にあるという説。1つは自身は社長なのに年齢に対して相応の役職につけていない人に対して色眼鏡で見ている説。もう1つは2000年代前半に企業されたIT社長の方々は何かしらの規制と戦ってきたため規制を維持する側だった年上が許せない説です。エンジニア採用担当としてそのフィルタの厳しさを幾度となく感じてきましたが、親の仇か、流行りの鬼かと思うほどです。

 彼らより若い起業家がどう年齢を捉えていくか、これから気になるポイントです。いずれにせよ、入社前に社員の年齢の分布は確認したほうが良いです。

 では続いては実際に各社で活躍したり、転職市場で活発に動いている方々に注目していきたいと思います。

キャリア例1:需要が激化するプロジェクトマネージャー(PjM)

 ヘッドハンティング界隈だと活況だと回答される方が居られます。年齢は40代でも50代でも転職市場では引っ張りだこの状態だそうです。

 一方で紹介会社のDBについては偏りが見られます。おそらく紹介先企業のラインナップに左右されていると考えられます。登録の際はこのあたりを見極めつつ、いくつかのエージェントを利用してみるのがオススメです。

 30代前半までの本来であればPjMになる頃合いの方々が2019年までにことごとくフリーランスになったため、育成できていない可能性がありそうです。想定より早く中間管理職不足が到来しそうです。

 もっとも先にご紹介した年齢フィルタの強い企業は採用しませんが、PjMを目指すというシナリオは引き続き十分な需要が予想され、ミドルのキャリア層においても王道と言えそうです。

 弊社でも募集していますのでPjMの方、是非お声がけください!もちろん年齢不問です。

キャリア例2:明暗が分かれるコンサル

 PjMと同じく年齢不問で採用を強化している会社があるのがコンサル業界です。弊社でもコンサルを募集していますので何卒。

 年齢も不問ですが、ダイバーシティの名のもとに女性の積極採用が他職種より活発に打ち出されているのも特徴的です。

 尚、コンサルというと激務で有名な企業が多いですが、ここに来て変化が起きています。リモートワークの導入によってプライベート時間が捻出可能になり、現職への不満が減少傾向にあるところが出てきています。元々仕事ができれば待遇が悪くない企業が多いため、従来の転職理由の筆頭になっていた激務によるライフワークバランスが緩和されたことで、定着の傾向があります。

 一方で、成績下位者に対しては削減する外資系もあり、油断のならないところです。

 コンサルから転職する場合、年齢を問わず事業会社に行きたいというケースです。某クラウド事業者でもよく耳にするパターンなのですが、顧客の課題解決を続けると自社の課題を一人称に近いところで取り組みたくなり、突然スタートアップに転職する方が居られます。これはミドルでも同じようで、後述する企業に流れている模様です。

キャリア例3:盤石な基盤で定時退社と経営層とのギャップ

 時折、特にゲーム会社OBを集めた集落のような企業が存在します。往年の著名ゲームタイトルを手掛け、不眠不休で戦った人達が年収を下げ、定時退社を条件にWEBサービスに従事している企業です。退役軍人感があります。

 転職活動時にいくつかこうした企業とお話をしたのですが、興味深い特徴として下記のような共通項があります。

・上場している
・顧客数やデータ量などで他社に対して圧倒的なアドバンテージがあり、当座の事業は盤石に見える
・経営者には将来を見据えた危機感がある
・エンジニアトップは別に危機感はない
・経営者は優秀なエンジニアが集まっていると思っているが、なんだか実力を発揮してもらえていない気がしている
・エンジニアはこのまま穏やかに定時ダッシュしたい

 数年後にどうなっているかは分かりませんが、少なくともここからの転職はギャップが大変そうです。

キャリア例4:まったり起業

 こちらも転職活動時に何社かお会いしたのがミドル中心のスタートアップです。大きめのサービスを0→1のみならず1→10、10→100まで一通り経験した手練が揃っています。面接は濃厚で輪を乱さないか人柄チェックを濃厚にされますが、基本的に経験者だらけなので安定感があります。この点は例3と重なりますが、イノベーションをもう一度という意気込みが違います。

 個人的にダブるところがあったのは車のコミュニティでした。がむしゃらに全財産を突っ込む20代とは違い、ある程度のお金と気持ちに余裕があり、一歩引いた感じで紳士的に熱中する感じ。

 こうしたコミュニティなのでEMは要らなそうです。しかし事業が長く続いた場合、組織の若返りをどうするのか気になりました。

キャリア例5:互助

 ある意味例4に似ているのですが、集まってSESで起業する形も確認されています。00年代からSESの企業からスピンオフし、新規にSESの企業をエンジニアが作るケースがいくらか有りましたが、ここでもまた動き始めているようです。

 詳細は別の機会にお話しますが、90年前後に勃興したソフトウェアハウスなどにおいて社長が定年を意識して会社をたたむケースが増えており、M&Aが盛んです。そのまま他社に合流するケースもあれば、このようにスピンオフして集合するケースもあるようです。

 他の例にも言えることですが、横のつながりというのは一つのキーワードになります。会社が同じだった、現場が同じだった、更には現場で同じだった人の知り合いからの紹介。人のつながりを大切にするというのはこれからも重要になってくるでしょう。「元気にしてる?」とFacebookあたりで連絡が取れるような状況と、ほどよく近況を書いて生存をアピールしておくというのはバカにできないと感じます。

キャリア例6:業務委託・独立

 究極的にはこの選択肢でしょう。1エンジニアとしてフリーランスになるのもありますが、若い人達と競り合うのはなかなか大変ですし、45歳を越えると実例も少ないところです。ただ前回コンテンツで紹介したような少子化とWEBプログラマの人気に立ち込める暗雲を前に、1エンジニアとしてであってもこれから増えていく可能性はあります。

 ここ数年はスポットのCTO・VPoEを紹介するサービスも人気です。週1くらいでSlackを返すだけの技術顧問もあったりします。このスタイルの課題はどっぷりと当該企業に入るわけではないので直接の問題解決にコミットしにくいというところです。私の転職活動でもスポット技術顧問の方が出てこられたことがあるのですが「○○らしい(伝聞)」という回答が多く、「コミットできないので、あまり近寄らないようにしている」ともあり微妙さを感じていましたが、致し方ない契約時間なのかなとも感じています。

企業の皆様へ

 採用に難航していて、どうしても経験者でなくては駄目で、日本語が達人でないと駄目で、内製しないじゃないと行けないのなら年齢の枠は取っ払いましょう。取り敢えず会ってみましょう。どうせZoomじゃないですか。

転じて未経験エンジニアの参入年齢

 スペシャリストにせよ中間管理職にせよ業務委託にせよ、35歳までに何者かになっておいた方が良いでしょう。

 逆算すると30代から0スタートのエンジニアというのはなかなかに厳しいものがありますし、年収は200-300万円台スタートになってしまいます。ここはやはりリセマラ的なアプローチではなく、それまでのキャリアにプログラミングやシステム知識を追加する形で価値を出していくのが順当な戦略だと考えます。

まとめ:5歳刻みで差別する日本の市場は油断ならない

 アメリカでは40歳以上の個人に対する、年齢を理由とする雇用に関する差別を禁止しています(アメリカの雇用における年齢制限禁止法について(厚生労働省PDF資料))。

 国内でも雇用対策法の改正で年齢制限の禁止が義務化されていますが、実際の採用現場だと年齢は重要な要素になってきます。

 残念ながらこの風潮が変わるのを待つより先に、我々自身が年を重ねるのが早そうです。長期的に考えた場合、直近では例1〜5を歩んでも、いずれは例6の独立を目指すことになる方は増えていくことが予想されます。そのためには何をするべきかというと、下記の4点に絞られていくと考えています。

・柔軟性
・声掛けしてもらえるに十分なブランディング(何を相談すれば良いのか)
・人脈
・(年下からも)話しかけやすい雰囲気づくり(にこにこした感じ)

 個人で広告代理店をやって居る年上の友人が話してくれたのは複数のお財布を持つことの重要性でした。メインの入金経路が不慮のトラブルで塞がった場合でも、他の経路が繋がっていればすぐには死なないというお話です。今後例6のような柔軟性が高いキャリアパスとセットで求められる思考ではないでしょうか。

 少子化でWEBエンジニアの供給が鈍化していることに加え、WEBエンジニアが加齢により平均年齢が上昇することでミドルの労働市場というのはおそらく好転していくものと思われます。継続して観察し、情報アップデートをしていければと思っています。

 尚、本noteはどことも利益関係にないので企業名や媒体名・紹介会社名は挙げていませんが、気になる方はDMでも頂ければ紹介します。

附録:ミドルの転職についてのオススメ本

 今回お話したのは私が観察できた範囲のものですが、参考図書として2冊ご紹介しておきます。

 まずは黒田真行氏の40歳からの「転職格差」。エンジニアに限ったものではありませんが十分に応用可能な内容です。前職で人材紹介事業の教育担当をしていた際にも、ミドル層への接し方として推奨図書としていました。良い例だけを取り上げていないため、深さがあります。

 2冊目は更に年齢層を上げて50歳をターゲットとしています。バブル期に量産されたSEのその後を取り上げています。成功事例ばかりではありますが50歳SEをターゲットにしたものは少ないため、事例集としてオススメしています。

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