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「圧倒的成長」と早過ぎる「卒業」:表裏一体の「飽き」「燃え尽き」

月末になると増える「卒業」こと退職報告。SNSで見ているとベンチャー所属の方のほうが多く、新卒から1-2年で卒業報告される方が多い印象です。特に総合職は多いです。

卒業報告をされている方々の元所属企業を見ると「圧倒的成長」など成長を謳っているケースが多いです。近年では求人票などに「圧倒的成長」と書こうものなら長時間労働が連想されるとして揶揄の対象となりますが、依然として何らかの「他社より早い成長」を謳い文句にするケースは少なくありません。観察機会が多かったこともあり、今回はこのあたりについてお話をしていきます。

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成長しなければならないシンドロームと「成長教」

そもそも成長とは何でしょうか?オンラインサロン界隈でもよく目にしますし、多くのプログラミングスクールも成長と密に結びついています。その実、明確に成長が定義されていないのではないかと感じています。

例えばプログラミングスクール。2018年〜2019年はプログラミングスキルを身につけるという成長の結果として現職年収+100万円や、フリーランスで1,000万円が挙げられていました。早々達成できるものではないという認知が広まってくると時間や就業場所についての「自由」を謳うようになりました。成長の結果としていつでもどこでも自由に働く契約できる自己実現といったところでしょうか。厳しい現実がありますが。

では企業は成長をどう定義しているかというと、よくあるパターンとしては出世があります。成長事例として1年でリーダーになったとか、最年少◯◯就任などのシンデレラ・ストーリーがあり成長の象徴となるケースです。多くの場合は「こういう人もいる」というのが正しい表現でしょう。

ただ過去コンテンツでお話してきたように、個人尊重教育を受けた世代では出世が目的の人は減っています。そのため出世に意義を求める少数の人達を積極採用する、採用過程で煽る・教育する、もしくは独立心を煽るかになります。もっとも、独立心を煽る方法はフリーランスや起業の敷居が非常に下がっている今だと即座に出ていきます。

しかし出世も訴求できない、独立心を煽るのも抵抗があるとなると漠然と"Something new"になれるくらいしか言ってない企業もあります。

元来「成長」というものはそんなに重いものではなかったはずなのです。社会的には大人たちの間で過度に成長の意味合いが膨れ上がり、一つのプレッシャーのようになっている側面があります。その結果、下記リンクのような「成長しなければならないシンドローム」があります。

圧倒的成長と「たまたま到達した外れ値」

企業が成長を謳って求人する場合はどうも下記のような候補者を集めたい狙いがあるようです。

・元気が良い
・素直に会社の方向性に従う
・地頭がよく早期に戦力化する
・自走する

この人物像自体はどの企業も欲しがるもので個人的にも違和感はありません。ただこうした人物像に対して各社が「うちの方がより成長できるよ」と言うのが「圧倒的成長」というウリ文句に繋がると捉えています。

企業が求める社員の「圧倒的成長」とありがちな傾向をプロットしてみました。Y軸が何を指すかは企業に依ります。出世、営業職なら売上、ITエンジニアだと専門性のようなケースもあります。

圧倒的成長 (2)

まず赤線の圧倒的成長。これは自社にすでにいる社長・役員・役職者がゴールイメージとして選考過程で紹介されるケースが多いですが、先のように特に社内にゴールイメージが不在のSomethingなケースもあります。ただ全体で見ると外れ値のただの凄い人であり、圧倒的成長路線にもれなく誘ってくれる研修があり、みんなでその到達点を目指せるということはまずないです。「圧倒的成長」は概ね外れ値を目指す再現性の低い線路を勢いで目指していく行為だと捉えています。そしてこれが歪みに繋がります。

業務内容のバリエーション限界と飽き

次に紫線。地頭よく、立ち上がりも良く、モチベーションも最大に高まっている若手の吸収力は早いです。

多くの総合職の場合、一人前と呼べる状態になるには一年が目安としてあるように思います。仕事を一通り覚えるのに早い人で数ヶ月、通年で業務フローを覚えた2年目にやってくるのは業務に対する既視感です。

こうなるとソーシャルゲームの曜日クエストみたいなもので「このままの業務フローが生涯続くのでは?」という不安や、「この業務は極めた」という驕りが産まれます。

ここで上長が意味合いや業務の深さを見せていかないとタイムパフォーマンスを重要視する若手は「卒業」します。私も退職を卒業という風潮には学位も出ないことだし何を言ってるのか?と思っていましたが、どうやら「学ぶことはなくなった」という意味で「卒業」を使っているケースもあり、企業側のメッセージ不足が卒業を助長しているように思います。

しかしそれでも2-3年が経過すると「飽き」がやってきます。従来の終身雇用制度であれば、ゆっくりと職責が変わることで飽きない工夫があったり、配置転換するだけの事業バリエーションがあったり、ぶら下がった方が長期目線で得だったりする分けですが、ベンチャーには企業サイズ的にバリエーションがありません。事業が複数あっても似たようなビジネスモデルだと飽きるようです。

同様の理由で仕事の幅が狭い中でのジョブ型採用と、圧倒的成長は相性が悪いように思います。

結果、タスクの深さについての解説や、上位職種への意味付けと魅力付けを日常的に発信し、唱えていかないと企業が望まなくても人材輩出企業になります

急ぐ成長と燃え尽き

「圧倒的成長」を信じ、妄信的に走る際に起きるのがオレンジの集団の燃え尽きです。数年に一度のたまたまの外れ値を再現しようと何者でもない人が0から走るので当然です。全く結果に繋がらずに心が早期に折れる。

また、ポテンシャルのある人が外れ値を再現するために頑張っていても、フェーズなどが噛み合わないので空転することもあります。

あるいは傍から見ると十分な水準に達しているものの、本人の頭の中で醸成された神の領域である圧倒的成長路線に乗れていなくて「自分には才がない」と退場してしまう。

うつ病になったり、突然南の島に行ったりする。随分な社会的ロスだと思うんですよ。

内定者インターンによる成長と飽きの先取り

卒業前に内定者実施するインターン。内定者インターン自体は業務を早く覚えてスタートダッシュをかけるということをメッセージとして出している企業があります。それ以上に内定承諾後辞退がかなりカジュアルになっているので、その繋ぎ止めのために接触時間を増やすというのは一定の効果があります。安い労力だという定義がある場合は論外です。

ただこの内定者インターンですが正社員の業務と近ければ近いほど、熱意の前借りになる傾向があり注意が必要です。

私の観測範囲では2年は在席できたであろう人達が、内定者インターンを入社半年前に実施することで正社員になってから1年半で辞めていたりします。

企業視点でトータルで支払うコストは下がるとも言えますが、それで良いのかは何とも言えません。

持続可能な成長と人材の一定の定着

SDGsが叫ばれて久しいですが、キャリアにとっても持続可能な成長(青線)という概念があって然るべきではと考えます。

労働者としては残念ながら時代の流れが早すぎるため、高みを目指す必要が本人になくても何かしらの転身をしないと金銭を得られない可能性があるのが近代です。成長の意味合いが大きすぎてプレッシャーに感じても、せめて変化はしなければなりません。

また、企業としても一人前以上のパフォーマンスを発揮する人がどこかへ旅立つのは後進が育つまでの一時期的なものであっても辛いものです。また、成長のための踏み台となるのも看過し難いものがあります。つまるところ常に意味付けをしつつ、飽きないようにキャリアや事業に変化や多様性を持たせ続ける。そんな内側に向けての企業努力が無いと、意欲のある成長を目的にした人達が留まってくれるとは言い難いのです。

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