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1型糖尿病に起因する低血糖により「分別もうろう状態」となり、責任能力が否定された事例。〜刑法39条〜

刑事責任能力といえば、一般的に誤解に塗れた概念だと思います。一番よくあるのが、「精神疾患に罹患している者は罪に問われない」という誤解でしょう。

このnoteの別記事で、その誤解を解く一助として、責任能力の構造や具体例(過度の飲酒による病的酩酊や「ねぼけ」の状態での行為も刑法39条の守備範囲の内にあるということなど)を書いてきました。

今回の記事では、1型糖尿病に起因する低血糖による「分別もうろう状態」での行為について責任能力が否定された裁判例をご紹介いたします。それをもって、「精神疾患に罹患している者の行為のみが責任能力の問題になるわけではない」「責任能力の規定(刑法39条)は、すべての人に向けられている規定なのだ」ということをお伝えしたいと思います。

では早速、事例を見てみましょう。

★事件名: 道路交通法違反被告事件(横浜地判平24.3.21)

★判決要旨:
「被告人が普通自動車を運転中に被害者運転の自転車に衝突させ傷害を負わせる交通事故を起こし、道路交通法違反の罪に問われた事案につき、交通事故当時、被告人は1型(インスリン依存型)糖尿病に起因する低血糖により「分別もうろう状態」に陥っていたことから、救護義務違反については故意を認めることはできず、報告義務違反については故意はあるが責任能力を認めることができないとして、無罪が言い渡された事例。」

★以上、「判例INDEX 刑事責任能力」(第一法規、p.166)より引用

このように、1型糖尿病に起因する低血糖による「分別もうろう状態」に陥っていたケースについても、心神喪失と判断され、責任能力が否定されました。

これをみて分かる通り、精神疾患に罹患している者のみが刑法39条の対象になるわけではありません。そして、精神疾患に罹患している者の行為は全て犯罪に問われないというわけでもありません。この点の誤解は、どうしても解いていきたいものです。

先ずは知ることです。正確な知識がない状態では、賛成も反対もできません。

このテーマはこれからも書いていこうと思っています。



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