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刑事責任能力(刑法39条)〜計画的な犯行だとしても、それが常に完全責任能力であることを意味しない。

責任能力(刑法39条)を論じる際に、よく聞かれるのは「計画的な犯行なので、責任能力に問題があるわけがない!」という言説。しかし以下に紹介する裁判例では、「その被告人が罹患している精神疾患の影響が大きかったゆえに、計画的な犯行が行われた」という判断がなされています。それはこのような事案です。

【双極性感情障害(Ⅱ型)に罹患し、うつ病状態に起因する希死念慮及び拡大自殺願望の影響を受け、心神耗弱の状態にあった被告人が、無理心中を企て、実子2人を次々と包丁で刺したが、いずれも殺害に至らなかったという、殺人未遂及び銃刀法違反の事案について、心神耗弱と認められた事例(名古屋高判平19.4.18)】

この事案において、名古屋高裁は以下のように判示しました。即ち、「(原判決が述べるように※筆者注)被告人が、強い希死念慮や拡大自殺願望に基づき、自己の死及びその一環としての実子の殺害という目的を実現するために、合目的的かつ合理的な殺害方法を選択し、論理的かつ臨機応変に判断をし、その際に意識障害がみられなかったとの点についても、本件犯行当時、被告人が、自殺念慮や拡大自殺願望の影響を受けていたからこそ、そのように合目的的かつ合理的な対処の仕方が可能となったと考えられるのであり、これらは被告人において、是非善悪の弁識能力や行動制御能力が減退していたことと何ら矛盾するものではないといわなければならない。」

ということです。

「本件犯行当時、被告人が、自殺念慮や拡大自殺願望の影響を受けていたからこそ、そのように合目的的かつ合理的な対処の仕方が可能となったと考えられる」

上記の判示は言われてみればその通りだなと感じます。この選択肢一択の状態になること自体、責任能力が減退していたことを伺わせますし、ましてやそのような目的に向かって周到に準備するという行為に関しても、責任能力の減退を認定させうる事情だといえるでしょう。

ということで、合理的な計画性があったということが常に完全責任能力につながるとは限らないという点で、重要な裁判例です。

★引用・参考★
「責任能力を争う刑事弁護」(現代人文社、p.371〜)



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