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【アジア横断バックパッカー】#56 10ヵ国目:イラン-テヘラン→タブリーズ 勘違いで意図せず旅が動き出す

 部屋はなんと階段の途中にあり、どうやら広い踊り場を仕切って部屋にしたらしかった。広さは2畳あるかないかほどしかなく、ベッドと小さなテーブルしかなかった。シャワーは別の空いている部屋のものを使っていいらしい。
 だが居心地は悪くなかった。久しぶりの個室だからかもしれない。窓も大きく、空調はなかったが夜は涼しかった。

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 タブリースの街を少し歩き、見つけた店でビーフサンドイッチを食べた。店のテレビではちょうどロシア・W杯の日本戦をやっていて、店員は僕が日本人だとわかると画面を指さして教えてくれた。
 ちなみに例の日本好きのパパオーナーにも会った。宿に戻って洗面所で洗濯をしていると、物置のようなところから現れたのだ。僕が洗濯をしていることに気付くと、柔軟剤のような液体をどぼどぼ入れてくれた。

 翌日はタブリーズにもう1泊し、次の日アンカラへ向かおうと思っていたが、昼までタブリーズを見物した後、夕方のバスでもうアンカラへ向かうことにした。月曜日なのでアンカラ行バスはある。帰国の日が迫っているので、もうのんびりというわけにはいかない。イスタンブールで十分に時間を使いたかった。

 翌日、荷物を宿で預かってもらい、グランドバザールを見物した後荷物を引き取った。バスターミナルまでの路線バスを見つけて乗り込む。
 イランのバスは前方が男性、後方が女性に分かれていると聞いていたが、実際にその通りだった。黒いヒジャブをまとった女性がバスの後方に固まっている。乗り込んできた僕を乗客が興味深そうに見つめてきた。
「チーニー?」
 近くに立っていた女性が恐る恐ると言った感じで僕に尋ねた。いや、日本人だと答えると納得したのか周囲の乗客に伝えていた。

 昨日の夕方到着したバスターミナルに再び降り立った。アンカラ行は夕方5時発で、まだ3時間ほど時間があった。
 チケットカウンターへ行きアンカラへ行きたいんだと言うと、スタッフが驚くべきことを言った。
「今日アンカラ行はないよ」
「えっ…」
 腕時計で曜日を確かめる。今日は月曜日だ。
「だってほらここに…」
 僕はカウンターに貼ってある時刻表を指さした。アンカラ行は「Sunday-Tuesday」となっている。
 そこで気付いた。日曜から火曜日ではない。日曜と火曜日なのだ。よく見るとほかの個所では「Sunday~Wednesday」のように表示されている。勘違いしたうえ、確かめた時もちゃんと伝わっていなかったのだ。
「イスタンブール行きならあるよ。イスタンブールに行きなさい」
 考えていた、アンカラから鉄道でいよいよイスタンブールにゴール!という計画はからくも崩れ去った。もう一度タブリーズの街中に戻って1泊すれば、明日のアンカラ行に乗れ、計画は遂行できるが…。
「わかった、じゃあイスタンブール行きを買うよ」
 
 バス会社が出発まで荷物を預かってくれた。身軽になった僕は遅い昼食をとるためにターミナルの2階に上がった。
 次第に可笑しくなってきて、自然と笑いがこぼれてきた。もうイスタンブールについてしまう。旅は終わりなのだ。ドラマティックな旅の終わりを想像していた自分と、それを自身の勘違いでふいにした事が可笑しかったし、なんだかあっさりとした旅の終わり方になんだか拍子抜けしてしまったのだ。
 
 夕方の6時、1時間遅れでバスは出発した。広めの1列シートである以外、長距離に対応した設備は特にない。それどころか大音量でイラン・ミュージックを流していた。頭上にスピーカーがあったのでこれには参った。途中で立って運転席に文句を言いに行った。海外を旅するうちに、状況を変えたかったら自分で何とかする癖が身についていた。

 途中で休憩をはさみつつ、すっかり夜も更けた10時過ぎにバスはイランとトルコの国境に到着した。夜に国境が開いているのか疑問だったが、ここの国境は24時間開いているらしい。荷物を持って降り、歩いて事務所へ向かった。
 同じバスの乗客はイラン人なのかトルコ人なのか、はたまた違うのかそれは分からなかったが、みなが記入している書類は僕は必要ないようで、1番乗りでトルコに入国できることになった。

 ところがすんなりとは行けなかった。スタッフはいるのに荷物検査の機械が動いていない。理由ははっきりしている。スタッフがみなテレビでロシア・W杯を見ているのだ。レストランならまだしもここは国境である。そもそもなぜテレビがあるのか。

 だが苛立ってもしょうがない。スタッフが仕事を再開するまで待った。試合がハーフタイムに入り、やれやれという感じでスタッフが仕事を再開した。出国審査はあっさりしたものだった。一旦外に出る形になる。柵で囲まれた通路を通り、トルコの入国管理事務所へ入る。

 こちらは人気がなく、薄暗かった。制服を着た男性が5人ほど、たむろする感じで待っている。にこやかに出迎えられ、話しかけられたが、英語ではなかった。トルコはあまり英語が使えないと聞いていたが、本当らしい。
 ついにトルコ入国のスタンプが押された。陸路入国だから車の形をしている。かわいらしいデザインのスタンプを見つめながら、事務所を出た。(続きます)

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