見出し画像

【アジア横断バックパッカー】#54 10ヵ国目:イラン-テヘラン こまごまとしたイランの文化について イランはとてもいいところ

 「マシュハド・ホステル」は旅行者に有名な宿なので、日本語の情報ノートが置いてあった。古き良き旅文化だが、あまり有益とは言えないような情報も多い。そもそも情報が古かったり、これこれこんなことがあった、ここでどこどこ行きのチケットが買えます、などの情報をもとに実際に現地に行ってみても、情報通りに事が運ばないことが往々にしてある。

 考えるに、理由はふたつある。ひとつには書き手の主観が入りすぎていること(あそこの料理がどうのこうの…)、もうひとつはたまたまその時はそうだっただけなのに、それがいつもそうであるかのように書いてしまっていることだ。だが、これは情報ノートだけでなく、ネットの情報も変わらなかった。媒体が紙からネットに変わっただけで、本質は変わっていないのだ。旅中そのことを何回も身をもって知り、いつしか僕は「旅行者の経験に基づいた情報」をほとんど信じなくなっていた。実際にどう思うか、どう感じるか、それは実際に現地に赴いて、自分で感じるしかないのだ。予想できない困難に見舞われたら、自分で考えて何とかするしかない。旅はそんなことの連続だった。

 ケバブ屋で夕食をとった後、宿へ戻りながら通りに立ち並んでいる商店をのぞいた。買わなければならないものがあった。コンセントの変換タップである。
 イランのコンセントはCタイプ、2本の棒が刺さるタイプで、日本のAタイプを差すことができなかった。変換タップがないと充電ができない。
 
 雑貨屋の1軒くらいあるだろうと思ったが、宿のある通りに並んでいるのはなぜかほとんど車用品の店だった。似たような商品を売る店が何軒も続いているのだ。
 これは雑貨屋は無いのではないか、そう思い始めたころにスマートフォンのアクセサリーを売る店を見つけた。変換タップもちゃんと売っている。
 こっちのほうが性能がいいぞと高い方を勧める店員を断わり、簡素なつくりのものを購入した。
 宿に戻り、スマートフォンをコンセントにつないだ。ちゃんと充電される。ひとつ問題が解決できてほっとした。

 翌日は快晴で、日差しは強いが空気が乾燥しているので過ごしやすかった。午前中に洗濯を済ませ、昼をとりに外へ出た。店を探しがてら街をぶらつく。
 当てもなく歩いていると、自然と笑みがこぼれてくる。不思議な、名付けようのない満足感に包まれるのが分かった。日本から遠く離れたイランという国を当てもなく歩いている…。その事実に満足しているのだろうか。特に何かが起こったわけでもない。だが僕は楽しかった。
 
 イランには名物料理はあまりないらしく、その代わりバーガーやホットドッグ、サンドイッチを売る店が多かった。バーガー屋を見つけ入ってみる。日本にもありそうな洒落た内装で、若い男性スタッフが働いていた。
 メニューを広げて思わず笑ってしまう。品名から値段に至るまですべてペルシャ文字なのだ。全く分からない。
 適当に頼んでみるか…そう考えていると隣のテーブルに座っていた青年が近寄ってきて、これはハンバーガー、これはサンドイッチ、と言う風に教えてくれた。親切なお客さんだなと思ったら、この青年もスタッフだった。
 
 チーズバーガーとポテトのセット、ファンタを頼んで14万リエル、約340円だった。結構安い。
 出てきたバーガーは日本のものよりひとまわりほど大きかった。イラン滞在中、僕はすっかりバーガーやホットドッグにはまりしょっちゅう食べたが、どれも大きかった。ホットドッグは肘から手首くらいの長さがあった。イラン人は大食漢が多いのだろうか。

画像1


 スタッフは僕のチーズバーガーを作り終えると、チャイを飲みながらテレビでロシア・W杯を見始めた。
 バングラディシュからチャイの文化が始まるが、それまで甘いミルクティーだったのに比べ、イランはストレートティーである。飲み方が独特で、チャイとは別に角砂糖のような砂糖菓子と一緒に飲む。直接チャイに入れて溶かすのではなく、まず砂糖菓子を口に入れ、それからチャイを飲むのだ。一杯のチャイを飲むのに大体3個から4個の砂糖菓子を食べる。チャイを出す店のテーブルには銀色のポットがあって、中には砂糖菓子がぎっしり入っている。これを好きにつまんでチャイを飲むのだ。ほかに木の棒の先に飴細工がついていて、それでチャイを混ぜる場合もある。なぜイランで急にストレートティーになるのか、なぜ砂糖菓子を口に入れチャイを飲むのか…。世界のチャイ文化は不思議だった。

 食事を終えた後、また街をうろついた。バザールを見つけてあちこち店をのぞいて回り、路上でサクランボとスモモを買った。

画像3

 翌日、タブリーズまでのバスチケットを買いに出かけた。タブリーズはトルコの国境に近い街で、最古のバザール「グランドバザール」がある。結局、イランで立ち寄るのはテヘランとタブリーズだけになりそうだった。
宿でバスターミナルへの行き方を訊き、メトロに乗った。
 
 目的の駅で降りると、すぐに広々としたバスターミナルが広がっていた。だが停まっているのは近距離のバスばかりで、長距離バスは見当たらない。うろついていると若い男に捕まった。タブリース行きのチケットを買いたいと言うと道を案内され、途中で別の男性にバトンタッチされ、少し先でまた別の男性…と言う風にバケツリレーのように運ばれた。最後に案内してくれた男性がバス会社の職員のようだった。明日午前中発、8時間ほどでタブリーズに到着する。夜の8時ごろ到着予定だが、イランは夜9時ごろまで明るいので大丈夫だろう。

 その日の夕食後、チャイハネに行ってみた。イラン人のように砂糖菓子を口にいれ、チャイを飲む。後から来た男性がシーシャ(水煙草)を喫い出したので頼んで一服させてもらった。煙を吐いた時に少し香る程度だった。もっと深く吸い込むものなのだろうが、普段から煙草を喫わないのでその辺はよくわからなかった。(続きます)

画像2


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?