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"アリモノを再活用する生存戦略" 金谷勉「小さな企業が生き残る」

読書メモ#16です。今回は低迷する地方の伝統的な技術や産業を現代的な視点でリデザインし、多くの企業を危機から救ってきた金谷勉さんの著書「小さな企業が生き残る」を読みました。

そういう意味でいうと以前読書メモも書いた中川政七商店の中川さんのビジネスにも非常に近いものですが、中川さんのやり方はどちらかというと既存の製品そのものをなるべく維持したかたち(焼き物は焼き物、布製品は布製品のような)で製品デザインや売り方などのポイントで大きな変革を起こして売上を蘇らせたのに対し、金谷さんは製品そのものから違うものにしてしまうようなリデザインを得意としています。

※どうでもいいですが本のタイトルも似ていますね
しかし、それは何もないところからいきなり全く新しい商品を生み出すようなものではなく、むしろ逆にその企業にある技術を大事にしながら新たな設備投資なしに全く新しい商品を生み出すことを得意としています。

金銭的にも人員的にも非常に制限の多い地方の中小企業に対して、鮮やかにウルトラCを決めまくる金谷さんの手腕に興奮しながらも、信念をもとに地方の企業を再生させ続ける姿勢にとても学ぶべきものがある一冊でした。

技術の"見せ方"を変えてイノベーションを起こす

非常に優れた技術がありながらも地方で息絶え絶えとなっている企業は日本中に数え切れないほどあります。

金谷さんはそのような企業の、その企業自身も気づいていないような強みを見抜き、その強みを活かした全く新しい製品の商品化を数々手掛けました。

例えば福井県の鯖江市のメガネ素材の輸入販売業の会社では、メガネフレームに使われる素材と設備を利用した高級耳かきを開発したり。

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熱海の建具屋ではそこにあった木材と機材をフル活用して表裏リバーシブルのまな板兼盛り付け皿を開発したりしました。

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いずれも"既存の技術や設備、調達できる素材を活用"しながら"全く別の市場へ向けた商品開発"をしており、このイノベーションこそが金谷さんの手腕によるものです。


"速さ"と"手間"で大企業と戦う

地方の小さな企業は大企業に比べて意思決定まえのプロセスがシンプルで速いというメリットがあります。人数が少ない上、家族で経営しているような会社も少なくなく、非常に意思決定のスピード感があると金谷さんは語ります。

ただ、そんな小さな企業にはもちろん資金力がないため、世にある正攻法で大企業と真っ向勝負しては資金力で勝る大企業に勝つことができません。

そこで金谷さんは小さな企業に対しては一貫して大企業がやらないような手間(面倒)とコスト(時間)をかけた商品開発を行い、少数のロットで贈呈用など高級価格帯の市場へ投入することで差異化を図っています。この大企業が嫌う手間とコストこそが小さな企業のが生き抜くための生存戦略だと言います。


市場ニーズから逆算し、買い手の心に残る"商品"を

(中小企業に限らず言われていることではありますが、)技術(できること)起点でのものづくりでは顧客の心を掴む製品開発はできません。

しかし、どうしても地方の職人が経営をするような小さな企業ではそういったノウハウが特に乏しく、技術ベースでのものづくりを行ってしまっている現状があります。そういった思考で出来上がったものは技術を集約した"製品"でしかなく、お客様に受け入れてもらえる"商品"になっていないため、金谷さんはこのギャップを埋めるために奔走しました。

お客に販売していくための「商品」にするにはどうしたらいいのか。
まず製品の状態ではすぐに商品になりません。製品がいろいろな要素や情報をデザインされ、設計されていくことでようやく商品となる。それがやがてブランドとなって買い手の間で知られ、支持され、ファンを作っていくのだと思います。
 <本文引用>

上記にも表れていますが、金谷さんの商品開発の最も大きな目的は利益を上げることではなく、そのものづくりを支持してくれるファンを作り、ブランドを作ることにあります。

もっと言うと、金谷さんの目的には依頼主である特定の企業の業績回復・ファン獲得だけではなく、"地方にある高い技術に対してのブランド"を創造するという壮大なビジョンも感じとれます。


ひとつのブランドをみんなで支え合えるシステムを

そんな金谷さんは、立ち上げたブランドを一つの企業に属するものとするのではなく、ライセンス化して共有し、様々な町工場がお互いを支え合えるようなものにしていきたいと語ります。

金谷さんの手腕で、地方の小さな企業が様々な商品を世に送り出すことができていますが、そもそもそれぞれの企業の設備や技術は特定のニッチな分野に偏っているものなため、汎用性が乏しくまた次の商品を開発しようとしても中々生まれづらいという問題があります。

しかし、地方の技術を支える小さな町工場はそれぞれに持っている設備や技術、得意分野が異なっているため、立ち上げたブランドをライセンス化させて同じ地方の別の町工場でも同じブランドでの下でものづくりをすることができる仕組みを作りたいと語っています。そうすることで同じブランドの中でも様々な技術を取り入れた新しい商品開発が可能となり、ブランドが存続し続けられるようになると言います。

このようなブランドを共有し、支え合う仕組みと言うには地方のブランド牛や今治のタオルのようなものにも近いものだと感じますが、こういった動きは今後地方の様々な業種で起こっていくものなのかもしれないと感じました。


感想:デザイナーも職人に見られがちな現状

この本では繰り返し職人のビジネススキルのなさへの危機感が語られていました。また、そういった産業の将来を担う美術系大学の学生に対してもそのような教養を教える機会がないことも金谷さん自身非常に危惧していました。技術を高めたり、技術に関する教養は会得できても、それをビジネスに繋げるまでを学校では教えてくれない。
そのため、「職人はビジネスができない」という構造が現代までずっと続いており、そういった認識が世間にも広がっているように感じます(もちろん例外はたくさんあるかと思いますが)

ただこの構造に近いものをデザイナーも背負っているように感じます。世間的に「デザイナーは表現はできてもビジネスはできない」と認知され続け、実際デザイン教育を受けた私ですが、大学で金谷さんのようなビジネスを展開するための教養を授けてもらう機会はなかなかありませんでした。
先日、ある企業の方と話をする機会があったのですが、「デザイナーってビジネスがわからないからねぇ」と言っていたのが印象的でした。「そうやってデザイナーをひとくくりにしないでよ!」と言いたくなりましたが、自分の過去や現状を踏まえてもそう言った印象持たれてもまだまだ仕方ないよなぁとも感じました。

以前読書メモを書いたTakramは今後クリエイティブを生業にする人間は技術(テクノロジー)やビジネスなどにも明るくなる必要がある、ということを繰り返し提唱しています。

実際自分の学生時代も工学系の学生とチームを組んでプロジェクトを行ったり、デザイン系の学生が実装まで行うような技術面でのサポートというのは大学に存在していましたが、それをどのように売るのか、それがどうすれば売れるのか、と言ったビジネス的な側面はなぜか全く勉強できなかったように思います。

そんなこともあって今は頑張って本を読みながらビジネスを勉強している私ですが、今後ともお付き合いいただけたら幸いです。

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@やました
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読んでいる本のメモをつぶやいています。
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