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物件探すならスピリチュアル不動産屋で

【日々はあっちゅーま】
#6 ,スピリチュアル不動産屋


始まりがあるところに必ず終わりあり。

大好きな漫画の連載も、夏休みも、初恋のときめきも、いつかは必ず終わる時が来る。


当時、ずっと続くかに思われていた友人達とのルームシェア生活も、例外なく終わりの時を迎え。


一人暮らしを余儀なくされた私は、仕事の休みを見つけては、物件探しに出かけていた。

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物件探しと一口にいっても、トイレと風呂は別が良いとか、オートロックが良いとか、ロフト付きが良いとか、人によって好みはまちまちだ。


私はといえば、どうせ気ままな男一人暮らし。
雨風しのげればそれで良い。

ボロかろうが、駅から遠かろうが、一向に気にしない。



ただ一点だけ、懲りないようだが、やっぱりどうしても、楽器が弾ける物件が良い。



その頃、私が勤めていた保育園は千葉県八千代市というところにあって、日本で2番目に高い東洋高速鉄道という線路が走り。


ベッドタウン化を目指し、新しいマンションが竹の子のようにニョキニョキと生え。

イオンがあり、映画館がありの、比較的新しいニュータウン風の街だった。

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そんなこざっぱりした街なだけあって、むさい男が一人で暮らすようなボロアパートは、なかなか見つからず。

音楽可能物件も無かった。

(一軒家や鉄筋のマンションなら良いのだろうが、ちと高い)


かといって、適当に決めて、入居した後に隣人と揉め事になっては困る。


何か良い手はないかと、熟考を重ねた末、川のそばの物件を探す事にした。


アパートのそばに川が流れていれば、ちょっと楽器を練習をしに、出かける事が出来るし、散歩するのにも楽しそうだ。

そうと決まれば話は早い。

職場の近くのセンチュリー21(不動産屋)を訪ねてみた。

 
「いらっしゃいませー。どのような物件をお探しでしょうか?駅の近くがよろしいですか?ご予算は?」

「えっと…、別に駅は近くなくて良いです。しいて言えば川チカ。川のそばのアパートをお願いします。」

「…か、川ですか?」


怪訝な顔をしながらも私の担当に付いてくれたのは、ウェーブがかった髪と、明朗な笑顔が好印象の40代半ばくらいの女性Nさんで、

もちろん制服は黄色いカラーが特徴的な、センチュリー21のジャケット。

楽器の練習をするというと、厄介がられそうだったので、そのあたりは隠しつつ。


何はともあれ、物件を見て回ることにした。

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Nさんと社有車に乗り込み、合鍵を手に物件を回る。

誰も住んでいないアパートを見て回るというのは、なかなか楽しいものである。

「へー、友達とルームシェアしてたんですかー?楽しそうですねー。」

「埼玉出身なんですねー、私も大宮の営業所にいたことがあって。」

さすが接客業、車中気まずくならないよう、会話の切り出しも上手い。

 

ガチャリ

「どうですかー?この物件。築浅ですし、お値段も手頃ですよー。ただ川は遠いんですけどねー。


ガチャリ

「この物件は南むきだから日当たりが良いんですよー。ほら、収納もこんなにたっぷり。ただ川は遠いんですけどねー。

「あの…。川が近い物件はないんですか?」



「うーん…、実は川の近くの物件っていうのががなかなか無くて…。やっぱり川の近くが良いんですね…。分かりました!今日はこのあたりにしておいて、また次回しっかり探しましょう!」



初日は全く収穫なし。

確かにNさんの言う通り、後日一人で河川敷を散歩してみたら、周りは田んぼや畑ばかりで、建物自体あまりなかったのを覚えている。


(ニュータウンといっても、一歩歩くとまだまだ田舎なのだ。)

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日を改めて不動産屋さんを訪ねるも、やっぱり川から遠かったり、オートロックの高級マンションだったり、収穫はなかった。


ただ、ずっと行動を共にしているNさんとは無駄に仲良くなって来て。


お互い漫画好きと判明すると、手塚治虫作の漫画「火の鳥」に出てくる「輪廻転生」について熱く語り合ったり、道中楽しく過ごした。


そうして物件を回った帰り際、どうしても聞きたかったようで、少しためらいながら、Nさんが切り出して来た。


「あの…。ずっと気になっていたんですけど、前田さんは、なんでそんなに川のそばに住みたいんですか?


「心おきなくギターをかき鳴らしたいからです」
とは言いづらかったので、お茶を濁す。



「うーん、何ていうか川のそばが好きなんですよね〜、気分も良いし。散歩も出来るし」

「でも、そんなの理由にならないですよね〜。」


「いえ…、わかります。」


え?

一体、何がわかるの?

と横を見ると、なぜか真剣な表情でハンドルを握るNさん。


「前田さん、気の流れの事を言ってるんですよね。私、ずっと思ってたんですけど、前田さんってスピリチュアルな人なんですよね?

え?

何、スピリチュアル?


突然のスピリチュアル認定に内心びっくりしつつも、


確かに昔、インドでサイババの偽物に騙されて祈祷を受けたことがあるなぁ。とか、

チベットの高僧とツーショット写真撮った事あるなぁ。と思い直し、答えた。



「よく分りましたね、実は私はスピリチュアルな人間なんです。」


「わぁ、やっぱり。良かったー。実は私も、スピリチュアルな人間なんです。」


スピリチュアル不動産屋



街中でスピリチュアルな人間同士が出会う確率とは、一体どれぐらいなものなのだろうか。


スタンド使いは引かれ合う、ということわざが指し示すように、遅かれ早かれ、スピリチュアルな人間同士は出会う運命の下にあるのかもしれない。


何はともあれ、百年の知己と出会ったかのように顔をほころばせたNさんは、堰を切ったかのように、延々とスピリチュアル話を話し始めた。




幼い頃、何度も幽体離脱を繰り返して、霊体となって彷徨った話。

竹林で迷子になった時に、未来のビジョンが視えた話。

新潟のとあるパワースポットで、高次元の存在から啓示を受けた話。

霊的な不和から、前の旦那と別れて千葉へとやって来た話。



逆に、なんで今センチュリー21で働く事になったのか、喉から出かかるぐらい聞きたかったけれども、そこは我慢した。

兎にも角にも、思いの丈を吐露してすっきりしたNさんは、見違えたように清々しい顔で言った。


今日は、前田さんの本当の想いが聞けて良かったです!私、前田さんが絶対に川のそばで住めるようにサポートしますね!」

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それから、Nさんはまるで人が違ったように、物件探しに情熱を注ぎ始めた。

近々退去者が出そうなアパートの大家さんに直接問い合わせたり、より広範囲に細かくリストを見直したり。


そしてある日、電話がかかって来た。


「前田さん、見つけました!これ以上無いくらい、川のそばの物件です!」


早速、物件を見にいく。


クリーム色の外壁がまだ新しい、綺麗な築浅のアパートの2階で、窓を開けると気持ちいい風と共に、のんびりと流れる新川の流れが一望できた。


川まで歩いて3分もかからないだろう。


南向きに取り付けられたベランダからは、暖かい日差しが降り注いでくる。

収納もたっぷりで、キッチンは広々、1Kの間取りでお値段4万4千円と、びっくりするぐらい手頃。

まさに、この日のために用意されたような理想的な物件だった。

Nさんと握手を交わし、即決した。

「あー良かった、じっくり探した甲斐がありましたね。新しい生活も頑張ってくださいね。あっ、そうだ、アパートの1階はテナントになっているので、生活音とかも気にならないと思いますよー。」


どれどれ、何のテナントが入っているのかと、階段を降りて見てみた。



ガラス張りの店舗を覗くと、びっくり。

所せましと墓石がずらり並んでいる。


遥かなる魂のふるさと、〇〇セレモニー

安らかに過ごす悠久の時間、〇〇霊園

メモリアルな永代供養、〇〇墓石店


…いや、別にここはスピリチュアル要素無くて良かったんだけどな〜。

と一人苦笑。


最後の最後まで良い仕事をする、スピリチュアル不動産屋さんの話である。

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おしまい 



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