大羊春秋~羊務執筆者党史~(8)
この「大羊春秋」(だいようしゅんじゅう)とは、私 前多昭彦が主宰していた同人誌サークル「羊務執筆者党」(ようむしっぴつしゃとう・略称SSP)の活動を振り返る「回顧録」です。
GELBE SONNE 1
平成元年(1989)年の4月か5月のある日、I上と私は散策(本の物色)のため神田神保町へ向かっていました。
交通手段はI上の好みで渋谷駅東口から都営バス「茶81系統」を利用しました。ちなみに、この系統は平成12(2000)年12月12日に廃止されています。
そのバスの車内でI上が語ったのが、「SSP」で発行する同人誌の名を新しくするというものでした。
その新しい誌名が
「GELBE SONNE」
です。
「GELBE SONNE」(ゲルベゾンネ)とはドイツ語で「黄色い太陽」という意味です。
何故、I上が誌名を変えようと思い立ったのかは分かりません。バスの車内で彼は熱く語っていた印象があるので、その中で述べていたのを私が聞き逃したのかもしれません。
ドイツ語を採用したのは私の好みに合わせてくれたのでしょう。
男性向同人誌の名が「黄色い太陽」とは、意味深で面白味があります。
この本は“夏コミ”へ向けて製作がスタートし、無事に初頒布を迎えました。
詳細は次の通り。
『GELBE SONNE 1』(ゲルベゾンネ アイン)
◎入稿日:平成元(1989)年7月15日(土) ※領収証の日付による。
◎発行日:平成元(1989)年8月13日(日)
◎B5判・40頁・本文用紙70kg・無線綴じ・100部印刷(見本誌10部)
◎頒価350円
◎表紙:ミラーコート・2色刷り
◎ジャンル:男性向
◎内容(ほぼ掲載順)
・表紙イラスト/七条治臣〈レイアウト/渡瀬良彦〉
・表紙2カット/七条治臣
・中表紙イラスト/七条治臣
・目次カット/七条治臣
・アニパロ漫画「LINDA」真慧多昭彦(4頁)
・オリジナル漫画「羊教授の逆襲」七条治臣(26頁)
※扉には原作:渡瀬巽坎堂、作画:七條亂雄齊と記載。
・イラスト集「Verrat und Anreizung」(3頁)
※真慧多昭彦(2点)、七条治臣(1点)
・「Nachschrift von den Redakteune」(1頁)※編集後記に該当。
・表紙4イラスト/真慧多昭彦
「Nachschrift von den Redakteune」によると本誌に参加したメンバーは、上段から真慧多昭彦、七条治臣(七条たみのりを改名)、渡瀬良彦となっています。
本誌で特筆すべきは本文の一部のタイトルに写植を使用したことです。
これは当時、私の高校の同級生であるA藤がDTP関連の職に就いており、彼の厚意で使用させてもらいました。
彼はスタッフとして編集後記に寄稿していませんが、ベーカー街221Bというペンネームで写植担当として目次に記載されています。
表紙のオレンジとグリーンを組合せた、「湘南カラー」は気に入っています。これが誰の発案だったかは今となっては分かりません。
初陣でなかなかの頒布成績を残せたのは、このカラーリングも要因でしょう。表紙の色合いの大切さが分かります。
目次を「GEHALTE」、奥付を「KOLOPHON」という具合に私のこだわりでドイツ語が多用されています。
『四面楚歌 -第弌号-』がI上による本だったのに対し、この『GELBE SONNE 1』は私が主宰するサークルの本なので、編集は私が担当しました。ただし、私は“面付け”ができなかったのと、同人誌製作の経験が浅いためI上のアドバイスは必要でした。以後、製作(編集)はこのカタチで行われます。
今でこそ、男性向同人誌は連絡先と印刷所名を明記することが義務付けられていますが当時は逆で、「こんなエロ同人誌を印刷してもらったことを公開するのは失礼にあたる」という訳で、どの男性向同人誌も印刷所名を伏せていました。
本誌も例外ではなく、入稿した「しまや出版部」の名は伏せ「西京河南府印刷」と誤魔化しています。これは私の趣味で、中国の歴代王朝の主要都市名を流用しました。以後、『GELBE SONNE 9』までこれが定番となります。
奥付記載の連絡先は当然「羊務執筆者党」の発行物なので私の家になっています。
オリジナルキャラを描けないという画力の問題が大きいですが、男性向同人誌において私のこだわりはパロディ、特にアニパロでした。
よって当然ながら自ら執筆するのもアニパロ作品となります。
「LINDA」は“アニパロ漫画”と記しましたが、厳密にはカットを連ねただけの“漫画モドキ”ですね。本作はTVアニメ「機甲戦記ドラグナー」( 1987.2.7~1988.1.30・全48話)のヒロインであるリンダ・プラートが題材です。
イラストは「らんま1/2」で早乙女らんまと天道あかねを描いています。これはアニメではなく原作漫画に魅せられてのものでした。
ちなみに、七条治臣による1点のイラストも早乙女らんまです。
表紙4は「超音戦士ボーグマン」(1988.4.13~1988.12.21・全35話)のメモリー・ジーンを描きました。
初頒布は「コミックマーケット36」です。
【コミックマーケット36】
◎開催日:平成元(1989)年8月13日(日)・14日(月)
◎会場:東京都中央区晴海「東京国際見本市会場」
◎配置場所:13日「V-38a」
◎売り子:I上・真慧多昭彦
なんと新館1階の壁際でした ……と言っても当時は現在のように壁際には行列ができる人気サークルを、という配置法が確立されていなかったのです。
納品は印刷所から会場への直接搬入でした。が、私が印刷所で書類に記入する配置場所を間違えてしまい、現品が数スペース離れた所に置かれていたという、ヒヤリとしたことがありました。
今も残る「コミックマーケット36 羊務執筆者党 販売成績表」によると、この日頒布できたのは47冊でした。
当事、この頒布結果についてどのように思ったか記録はありませんが、今振り返ってみると、無名サークルの初陣の本でこの成績は悪くないでしょう。現在のようにネットに前宣伝を流す、なんてことは無かったのですから。
『GELBE SONNE 1』の以後の頒布結果は次の通りです。
◎同人誌即売会
・「コミックマーケット37」31冊
・「コミックマーケット38」6冊
◎通信頒布(広告の掲載誌)
・COMICアットーテキ1990年7月号=7冊
※光彩書房発行。A5判・平綴じの成人向漫画雑誌。
・コミックコッペパンVol.12=11冊
※発行元不明。B5判・中綴じの成人向漫画雑誌。
これらの通頒は、次の『GELBE SONNE 2』が上記の雑誌の同人誌紹介コーナーに掲載された際、申込み者にバックナンバーも有りと紹介した結果、頒布したものです。要は昔のガンプラと同じ“抱き合わせ商法”ですね。(笑)
私もI上も原稿執筆自体は大変でしたが、全体的には大過無く製作は進行したと記憶しています。
今回の「大羊春秋」執筆にあたり改めて本誌を読み直しました。レベルが高いとは言えませんが、私とI上ふたりで活動していくうえでは、頁数など理想的な作りと言えるでしょう。
「SSP」の活動を振り返るといろいろな思いがありますが、後のような拡大路線をとらずにこの本のカタチを維持し、のんびりと行きたかったという後悔のようなものがあります。
《第8回「GELBE SONNE 1」おわり》
※文中敬称略
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