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前田知洋の種明かし、またはメソッド

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マジック論とプロフィールに書かなかったストーリーのまとめです
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もくじ

前田知洋の種明かし、またはメソッド メソッドには今まで書かなかったマジック論が、ストーリーには「プロフィールにはないサイドストーリー」が書かれています。別々に読んでいただいても幸せです。でも、両方を読んでくださると、もっと幸せです。 まえがき 00 ここに書かれていること メソッド 01 違う山の登山ガイド ストーリー02 マジシャンのゴールって? メソッド 03 マジックは芸術か? その話、もう何周目? ストーリー04 「マエストロ」と僕が呼ぶ人 メソッド 05 動きの美

ストーリー12 マジックを続けさせてくれた人

僕はお葬式が嫌いです(←好きな人なんて、たぶんいませんが……)。 なかでも、一番嫌いなのは、故人が生きているうちに「お世話になりました」とか「すごい人でした」と本人に直接言えないところ。そして、帰りぎわに、糊のききすぎた(涙の吸わなそうな)白いハンカチ、小さな塩の袋とかを渡されるのも、なんだかなぁ……、と個人的には思っています。小さな袋に入っているのが、クレイジーソルトなら料理につかえるのに……。 だから、僕は白いハンカチじゃなく、トランプのセットを「自分の葬式のお礼」と

メソッド11 コドモのマジック、オトナのマジック

トリックに血をかよわす マジシャンの大切な仕事のひとつは、トリックに血を通わせること。そう僕は考えています。 たとえば、「マジシャンなのにオーラがない…」とか、「失敗なくトリックができたけど、観客があまり感動しない」、「大きな拍手喝采が起きない」のは、トリックに血が通っておらず、マジックが生き生きとしていないことが原因のひとつ。 それは「動かないヌイグルミ」と「血の通った、本物の動物」の違いにも似ています。 もちろん「ヌイグルミ」や「人形」でも、それを所有する子供にとっ

ストーリー10 良いニュース?悪いニュース?

ヴィクトリア王女にマジックを披露したけれど… 横浜の老舗ホテルのディナーショーでのこと。トークセッションで「最近のニュースはありますか?」と質問され、「そういえば、スェーデンの皇太子、ビクトリア王女にマジックを……」と、うっかり答えてしまいました。 この「うっかり」というのは、ウソやホラという意味ではなく、「話すのに良いタイミングなのかなぁ」という、ちょっとの気の迷い。ボールルームのテーブルに並ぶ、豪華なシルバーや数々のワイングラス、ビックリするような値段のチケット料金に押

メソッド09 共感されるキャラ

キャラって何なの? 「キャラクター」という言葉、日本では、いろいろな意味で使われています。たとえば「テーマパークで売られる人形」とか、「漫画の登場人物」、「知っている人の性格」もそう。 なので、ここでは「キャラクター」を「マジックの演技が始まって、終わるまでの間のマジシャンの個性」に、とりあえず定義したいと思ってます。 ですから、(マジックをやっていないときの)マジシャン本人の性格は含ませないことにします。言い換えれば、生活していたら、自然に身についたものは、ここで語られ

ストーリー08 資本主義とアーティスト

今から30年くらい前、原宿で不思議な女性に声を掛けられたことがある。「あなた、何をやっている人なの?」と、ちょっと迫力のある声だったから、「マジック…、少人数向けのマジックをしてるんです」と、うっかりと答えてしまいました。 なんとなく、『お茶にでも誘われるかなぁ…』と思っていたら(←その頃の原宿はそんな空気感でした)、「明日はヒマ?そうなら、ココに来てくれない?朝の10時ね」と言って、住所のメモを渡された。 次の日、とりあえずジャケットを着て、向かう車の中で「もし、ベット

メソッド07 外の動きと、内の動き

あまり興味をもたれない……、骨と関節のこと マジシャンは、鏡の前で「秘密の動きが、観客にどう見えるのか」の練習が大好き。いわゆる、外側から見える動きです。それについては、みんな一生懸命に考えます。やっぱり、マジックのタネに関わる部分ですからね。 でも、内側についてはどうでしょう。たとえば「指や腕が、どんな骨と関節で構成されているか?」とか、「この関節の可動範囲はどれくらいか?」など。もちろん、外見も大事なのですが、内側のことは、もっと大事。僕は、そう思っています。 言葉に

ストーリー06 ダイヤモンドとマジック

磨かれた宝石のようなマジック 日本に帰国したとき、WINDSというJALの機内誌でインタビューを受けた。英語と日本語で書かれていて、右から開くと英語のページ、左から開くと日本語の別々の記事が読める、面白いレイアウト。 そのインタビューの中で、記者が「磨かれた宝石のような、前田のマジック」と褒めてくれていた。クロースアップマジックと宝石の共通点…、キラキラした感じとか、希少性だとか。この仕事を始めた頃だったから、「そんなマジックができたら……」と、目標にもなった。 偶然か、

メソッド05 動きの美しさ

バレエやダンスの体の動きが「魅せるための美しさ」だとすると、マジックは「用の美」……、何かをするための動作だと言えます。たとえるなら、伝統的な職人の手さばき、武道の達人の技でしょうか。ネコの動き……(必要最小限のエネルギーで、しなやかにジャンプする姿)に「用の美」を見ることができるかもしれません。

 マジックなら、トランプを取る、シャフルする、テーブルにカードを置く…、そんなマジシャンの所作(振舞い)のことです。 05-1 最短は直線にならない 幾何学で考えれば、出発地

ストーリー04 「マエストロ」と僕が呼ぶ人

ユーリ・テミルカーノフさんのことを、僕は「マエストロ」と呼んでいます。「サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団」の芸術監督/首席指揮者で、前はソビエトの革命家、レーニンにちなんで「レニングラード・フィルハーモニー交響楽団」と呼ばれていました。 僕は大人になってから、マジックのことで精一杯。だから、クラシック音楽やシンフォニーについてあまり知らないことを、ちょっとだけ後悔しています。マエストロを僕に引き合わせてくれた、英国丸紅の社長だった紿田英哉さんや、ソニーを作った

メソッド03 マジックは芸術か? その話、もう何周目?

「マジックは芸術か?」という話。ここには、たくさんの地雷が埋まっています。たとえば、「芸術の定義」や「マジックの定義」。マジックは夢に近いから、意見が違うと怒る人もいます。そのうえ、定義が曖昧になりやすく、論の入り口でウロウロしがちです。たぶん、地雷だけでなく、迷路にもなっていそうで厄介なテーマです。 もし僕が、波風を立てたくないSNSやブログではなく……、誠実に話す義務がある学校だったら、こんなふうに、この議論をスタートすると思います。

まず、マジックの定義を 「不思

ストーリー02 マジシャンのゴールって?

あらためて考えてみると、芸能…、エンターテイメントの世界のゴールって、本当にわかりにくい。権威ある「○○賞」をとったら…、「テレビに出て、日本中に知られるようになった」とか…、「海外でも有名にならないと…」と、いろんなゴールの話を耳にします。 誰かが指差す、そんなゴールを信じて向かい、しばらく走り続けてみると、面白いことに気が付きます。たとえば、コンテストで優勝すれば、周りは祝福してくれますが、すぐに「まだ、まだ先があるよ…」とか、「次はアレを狙わないとね」、「じゃあ、次の

メソッド01 違う山の登山ガイド

いままでいろいろなマジック論を読んできました。もちろん海外の書籍も含んでの話です。 そんなマジック論には、役に立つこと、知らないことがたくさん書かれています。「へぇー。そうなんだぁ」なんて、感心して納得することもあります。 でも、読みながら「あれ?僕が求めていることと、何か違うぞ…!?」と違和感を覚えることがよくあります。言葉にするには難しいのですが「キリマンジャロに登るつもりで登山ガイドを読んでいたら、『高尾山の登り方ガイド』だった……」、そんな期待外れな感覚でしょうか

00 まえがき ここに書かれていること

あるとき、マジックが上手くいく秘訣のようなモノを見つけて、その秘訣にずっとお世話になっています。でも、これは、僕にピッタリな方法ですが、すべての人に役に立つわけじゃない。なんとなく、そう思っていました。 その秘訣をすぐに明かしてしまうと、「これが人生で最後のショーだ」と思いながらマジックをすること。ただ、それだけ。テレビに出演するなら「これが最後の番組出演」、ディナーショーなら「人生最後のディナーショー」って思いながらマジックをする。そうすると、ほど良い気持ちで準備ができ、