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メソッド07 外の動きと、内の動き

あまり興味をもたれない……、骨と関節のこと
マジシャンは、鏡の前で「秘密の動きが、観客にどう見えるのか」の練習が大好き。いわゆる、外側から見える動きです。それについては、みんな一生懸命に考えます。やっぱり、マジックのタネに関わる部分ですからね。

でも、内側についてはどうでしょう。たとえば「指や腕が、どんな骨と関節で構成されているか?」とか、「この関節の可動範囲はどれくらいか?」など。もちろん、外見も大事なのですが、内側のことは、もっと大事。僕は、そう思っています。

言葉による誤解
僕らが使う言葉による誤解もあります。たとえば、「親指の付け根」と聞けば、多くの人は「人差し指との間の肌のV字付近」だと、思うかもしれません。しかし、骨格図などを見るとわかるように、親指を構成する骨の出発点は、「第1中手骨」と呼ばれる、手首にかなり近い場所にあります。

指だけではありません。腕も同じです。医師やスポーツの専門家でなければ、ほとんどの人は「腕の付け根は肩」と信じています。(部位に付けられた名前を別とすれば、)腕全体の機能をつかさどる骨群は、脊椎(背骨)に近い、肩甲骨と近くの筋肉からスタートしています。

余談ですが、武道を鍛錬している人の中には、肩甲骨が上手く動くことを「肩が抜ける」と表現して、上達の目安にすることがあります。腕を使うときに肩甲骨の動きがいかに大切であることの証かもしれません。

こうした名称の誤解は、動きにもあります。「手首を返す(回転させる)」という慣用句もマジックの解説にはよく登場する表現でしょう。もし、骨格図や骨格模型を見たことがなければ、その表現通り、手首に回転する関節が存在する気がしてしまいます。手首が回転してるように外側から見えますが、実際には、前腕にある橈骨と尺骨が捻れるだけです。手首が回転しているように錯覚しますが、手首より離れた、肘に近い関節が動くことでそう見えています。

こんな誤解は、効率のいい関節の使い方を混乱させ、「動く範囲が狭くなる」「力が入りすぎる」「動きが固くなる」などの悪影響を生み出すこともあります。その結果、動きがギクシャクして不器用そうに見えます。

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オリンピックなどで、運動選手の身体の動きが美しく見えるのは、筋肉トレーニングによる肉体美だけではありません。競技中、身体全体の関節を効率良く使い、淀みなく動くいているからでもあります。

考えてみれば、可動する部分が2つのアームと3つのアームがあったとき、どちらがより繊細で、複雑な動きができるは想像できるはず。可動する部分の数、そして、それぞれの可動範囲、それが大切なのは、スポーツの競技だけではなく、マジックも同じです。

関節のセットは、ジグザグにならないように使う
下の写真、2つは、同じようにトランプの上面を観客に示すシーンです。腕を構成する関節(肘、手首など)が、1ではジグザグになっています。2は関節が弓状です。骨群は、基本的に、ジグザグに使うより、弓形(曲線)に使うほうが動きやすく、筋肉に無理がかからず、美しくリラックスした動きに見えることがほとんどです。

弓

文章で読んだり、写真だけだと少し難解に思われるかもしれません。しかし、こうした身体の使い方は、マジックに役に立つだけでなく、健康でケガを防止できるという副作用もあります。ですから、どれだけ時間と手間を使っても惜しくはないと僕は思っています。

まとめ
○外見も大事だけど、内側(骨や関節)はもっと大事

○セットになる関節郡はジグザグに使わない
○関節を効率よく使わないと、ギクシャクして不器用そうに見える
(つづきます)

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