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メソッド05 動きの美しさ

バレエやダンスの体の動きが「魅せるための美しさ」だとすると、マジックは「用の美」……、何かをするための動作だと言えます。たとえるなら、伝統的な職人の手さばき、武道の達人の技でしょうか。ネコの動き……(必要最小限のエネルギーで、しなやかにジャンプする姿)に「用の美」を見ることができるかもしれません。



マジックなら、トランプを取る、シャフルする、テーブルにカードを置く…、そんなマジシャンの所作(振舞い)のことです。

05-1 最短は直線にならない
幾何学で考えれば、出発地点からスタート地点まで、最短の直線がムダの無い動き。しかし、人間には関節があり、それを正しく使う必要があるので、機械のような直線的な動きにはなりません。人間が目的をはたすとき、関節や筋肉にとってのムダのない動きは、幾何学的な直線でないことを、まずそれを覚える。そこから、僕はスタートしました。

観客が、何かに気になって、マジックに集中できない。そんなムダな動きを「視覚的ノイズ」と呼ぶ人もいます。たとえば、緊張すると顔を触るクセがあったり、セリフをいうたびに手を上下に動かすクセ、、自分が納得するように「うん、うん」と、うなづくクセ……。こうした動きはマジックだけでなく、いろいろな場所…、慣れない人のプレゼンなどでも見ることができます。

まるでラジオのチューニングがズレて、ノイズ(雑音)多くてメロディが聴き取れない。そんな状態です。もし、観客がそんな視覚的ノイズが気になり、マジックやプレゼンに集中できないなら、まず「ムダな動き」=「視覚的ノイズ」を減らすことです。

しかし、そんな動きをすべて排除したらよいかというと、そうではありません。アンドロイドのように人間味がなくなってしまい、観客の印象に残らないCGのような演技になるかもしれません。

たとえば、マジックの演出で「失敗したフリをする」ときは、多くの観客にとってわかりやすい「緊張する動き」をあえてすることがあります。動きとセリフを止めて視線を不自然に動かしたり、片方の二の腕を神経質そうにつかむなど。

こうした「人間のクセの再現」は観客から見るとノイズにも見えますが、マジシャンにとっては、「失敗した」と観客に誤解させるための「必要なノイズ」です。これも演出上に必要な動きで、あえて言うなら「観客からはノイズに見えるが、本当は必要な、ノイズじゃない動き」とでも言うのでしょうか。ギャンブル用語にならって、これを「ブラフ」と呼ぶことにします。

05-2 ピッタリなブラフの選び方
失敗や緊張をお客さんにあえて伝えるとき、どんなブラフが最適なのは、09のセクションで説明する、「共感されるキャラ」と密接にかかわっています。

ブラフの選び方は、質の良い俳優の演技や日常の街の中の人々の人間観察などを参考にするといいでしょう。ただし、他のマジシャンのブラフをコピーしない(盗まない)こと。それは、自分の才能に対しても、そのブラフを使っているマジシャンに対しても冒涜だからです。

その理由は、iPhoneをはじめ、多くのApple製品をデザインしたジョナサン・アイブの「アイディアを盗むことは、アイディアだけでなく、そのアイディアを見つけるまでの苦労や時間も同時に盗んでいる」という言葉で十分なはずです。

05-3 姿勢、スタートの身体のありかた
武道やスポーツの経験者なら、力みがない身体のほうがスタート時に素早く動けることを知っています。力のぶつかり合いに見える、アメリカンフットボールでさえ、注意深く観察すると、ヒットする前まで選手たちは適度に身体の力を抜いているのが見られます。

だらしなく見えず、見る人をリラックスさせて存在感がある……。そんな姿勢を学ぶには、文章は不向きかもしれません。なので、ここで時間をかけて説明するのはやめておきます。しかし、習得方法は難しくなく、他のジャンルのレッスン、たとえば、スポーツ、武道、クラシックバレエ、ボイストレーニングから「ムダな力を入れない」ノウハウを学ぶことことができます。正しい先生につけば、始めてすぐに効果が実感できますが、役に立つようになるためには数年〜十数年かかることもあります。でも、マジックと並行して勉強できるので、とにかく、焦らないこと。それが肝心です。

05-4 手足、身体を動かしているときの感情
言葉と同じように、手足を動かしているとき、その人の心の中の感情が見えてしまうことは、あまり知られていません。

つまり、マジシャンが経験をつんで「安定のある動き」をしたとき、「オレの技はスゴイだろう!」という傲慢さがチラリと見えて観客に嫌われることがあります。

逆に「いつでも一生懸命な…」、「使命感に満ちた…」「慢心のない、謙虚な振舞い」を観客が察して感動が生まれることもあります。

つまり、言葉ではウソをつけたとしても、動作は本心を現しやすい。

マジックがウケなかったとき、自分が傷つかないように、心の中が無感情になってしまう防衛的なケースもあります。街でたまに見かける、勤務時間が終わるのを待つだけの労働……、といったらイメージしやすいでしょうか。

そんな気持ちの根本には「自分と社会との関係性」「自分のマジックの役割」に整理がついていないから。でも、この話は「身体の動き」と違う話なので、別の章であらためて説明したいと思います。

まとめ
○身体がムダなく動きとき、最短は直線にならない
○伝えるのを妨げる、視覚的なノイズを少なくする
○視覚的ノイズをなくしてしまうと人間味がなくなってしまう
○素早く動くためには力まない
○良い感情も悪い感情も身体の動きで伝わってしまう

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