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メソッド09 共感されるキャラ

キャラって何なの?
「キャラクター」という言葉、日本では、いろいろな意味で使われています。たとえば「テーマパークで売られる人形」とか、「漫画の登場人物」、「知っている人の性格」もそう。

なので、ここでは「キャラクター」を「マジックの演技が始まって、終わるまでの間のマジシャンの個性」に、とりあえず定義したいと思ってます。

ですから、(マジックをやっていないときの)マジシャン本人の性格は含ませないことにします。言い換えれば、生活していたら、自然に身についたものは、ここで語られる「キャラクター」ではありません。

でも……、もしかしたら、こんな反論があるかもしれません。

「しかし、僕は普段のキャラと同じキャラでマジックをしてるんです」。

なるほど。もし、そうなら、マジックのときと同じように、普段の生活でも「人の心を透視」したり、「未来を予言できる」と言って生活するのでしょうか。「マジシャンが持っているはずの不思議な力」と「普段の自分」と、どうバランスをとるつもりでしょうか。

キャラクターをマジックと私生活で共有する難しさは「インタビューを受けたときに相手を悩ませる」「家族にマジックを見せるときの弊害」など、いろんなことが想像できます。

キャラクターを共有する悲劇
ハリウッドで、こんな話を聞いたことがあります。

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劇場で超能力のショーを演じているマジシャンが、若いダンサーを口説こうと、バックステージで「僕は、本当に透視ができるんだ…」と小さなウソを言いました。ダンサーは、うっかりそれを信じてしまい、目がハートになります。「それなら、ショーの後にお酒を……」と劇場から二人でデートに向かいますが……、マジシャンは駐車場で、車の鍵がポケットにないことに気がつきます。鍵はいくらさがしても見つからず、ダンサーは彼がニセモノであることに気がつき、彼の不誠実さにショックを受けて彼女は怒って帰ってします。

話はこれで終わりません。しばらくして、タブロイド紙に「超能力ショーの〇〇、デートで自分の鍵を透視できず立ち往生!」の見出しで掲載されることに……。
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この話、古き良き時代の「笑い話」なのかもしれません。しかし、ネットやSNS全盛の今なら、マジシャンの道をあきらめるほどの、スキャンダルで炎上しそうな怖い話でもあります。

ここは、19世期のフランスのロベール・ウーダンの名言「マジシャンは魔法使いを演じる役者にすぎない」に少し寄り添ってみることにします。

じゃあ、どんなふうにキャラクターを作るの?
キャラクターが決まれば、どんなセリフがどんな口調で言われるのか、どんな表情をするのか、どんな衣装を選ぶか、いろんなことが決まります。

逆に、まずマジックの全体の構造が決まっていれば、どんなキャラクターにしたら良いかを決める指針になります。つまり、全体の構造を決めてからキャラクターを決めてもいいし、キャラクターを決めてから全体の構造を決めてもいい。たとえるなら、家を建ててから家具を選んでもいいし、持っている家具が似合うような家を建ててもいい。そんな関係です。ちなみに、僕はマジックの全体の構造を、最初に決めちゃうタイプです。

しかし、ここではわかりやすくするために、キャラクターにスポットを当てて説明してみますね。

キャラクターの役割を知るために、まず僕の創作のプロセスの例を挙げてみます。

キャラクターを作る例:アンビアシャスカード
アンビシャスカードとは、「指を鳴らすとサインされたカードが上がる」トリックのこと。僕はマジックの全体の構造をこんなふうに作りました。

全体の構造「アンビシャスカードの面白さは、同じことが繰り返される、「連続性」と、いつも上にくるという「普遍性」。そして、エフェクトの明快さ。52枚しかないトランプの中のサインされた1枚を見失う。それが人間の社会と個人の運命のメタファーにも見える」。

そんなふうにアンビシャスカードをとらえました。

そうした構造を引き立たせるために僕が選んだキャラクターは以下の通り。

キャラクター「あえて愚直で真面目な(美術館で作品の横に座っていそうな)解説員。そんな人が効果的。エキセントリックな人物である必要はない。ただし、その作品をハンドリングするときは、長年の経験があるように。作品の解説は、クールに振る舞いつつも、生きがいのすべてを感じている」。

こんな設定です。

だとすると、セリフや振舞いは……。

セリフや台本「解説調で真面目、愚直。同じことをいろいろな角度から説明する。だからこそ、最後にサインされたカードを曲げるという(真面目さと正反対の)イレギュラーさ、大胆さ、を観客は意外に感じる」。

観客に見せない目標「混乱と秩序。アインシュタインが言った『ものごとはできるかぎりシンプルにすべきだ。しかし、シンプルすぎてもいけない。』を観客が何となく感じる」。

以上は、僕が頭の中で勝手に考えたことです。なので、全てのマジシャンが「アンビシャスカードはこう演じなければならない」という意味ではありません。

キャラクターが決まれば セリフ、口調、衣装などが決まります。僕の場合なら、黒いスーツに白いシャツにネクタイ……、解説員を少しドレッシーにした感じの、そんな組み合わせにしました。

そのキャラクター、全体の構成、マジックを演じる場所とタイミング、雰囲気(空気感)が混ぜ合わさって、それが観客に共感……「腑に落ちてもらう」こと。それが目標です。さらに、チェーホフがいったように、視覚的、もしくは潜在的な「美」を含ませれば「観客に好きになってもらう」確率がぐんと上がりますが、上の例では「観客に見せない目標」などがそれにあたります。

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