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00 まえがき ここに書かれていること

あるとき、マジックが上手くいく秘訣のようなモノを見つけて、その秘訣にずっとお世話になっています。でも、これは、僕にピッタリな方法ですが、すべての人に役に立つわけじゃない。なんとなく、そう思っていました。

その秘訣をすぐに明かしてしまうと、「これが人生で最後のショーだ」と思いながらマジックをすること。ただ、それだけ。テレビに出演するなら「これが最後の番組出演」、ディナーショーなら「人生最後のディナーショー」って思いながらマジックをする。そうすると、ほど良い気持ちで準備ができ、ほどほど、真剣になれる。適度な諦めもできるし、後悔がほとんど残らない。不思議なことに、他人の批評も感想もまったく気にならなくなる。僕には、ありがたい方法でした。

そんなふうにマジックをしていると、偶然か、必然か、身の回りに起きる、いろんなことに気がつきます。たとえば、縁のあった人たちが、いきなり他界したり、自分が軽い病気で入院したら、手術が決まって、何枚も同意書(「死んだりしても文句はいわない」みたいな)にサインしたり……。自分がある日、突然に消えてしまうことが、他人事でもなく、ごく自然なことのように感じてくるから不思議です。べつに深刻な病気が見つかったわけではありませんので、心配しないでくださいね。

だから、僕が大切にしていたマジック論みたいなことを少しでも書き残そうとと思いはじめました。上で紹介した秘訣の過程でもあり、延長でもあります。こっちのほうは、たぶん誰かの役に立つ気もしています。

ただ、世の中には、何故かフリーランスや起業家のハウツーみたいな情報が溢れているのも確かです。

そんな理由から、マジック論だけでなく、僕の人生で起きた(プロフィールに書かなかった)出来事も含めて書くことにしました。これは、僕の半生でも、自伝でもなく、自慢話というよりも、友人とファンでいてくださった人に向けて書くお礼状みたいなもの。意外に思われるかもしれませんが、僕はマジック論や自分のことを、断片的にしか言わないタイプだったことに気がついたせいもあります。

たぶん、「男は黙ってサッポロビール」という時代に育ったからか、そんな美学、または強迫観念がある世代だからかもしれません。



それでも、同業者やライバルから見れば、そんな話は自慢に誤解されるかもしれません。なので、生き急ぐ、若きマジシャンは、奇数のセクションだけを読めばマジック論の部分だけを知ることができ、半分の時間で済むようにしました。

マジックの世界に住んでいない、ファンの方や友人は、偶数のストーリーだけを読んでいただければ嬉しいです。タイトルどおりではなく、トリックのタネは、ほどんど書かないつもりですので、マジックの夢を壊すことはないと思います。僕の話に付き合ってくださる貴徳な方は、奇数と偶数ページを一緒に読んでくださると幸せです。

令和 3年 2月 1日
前田知洋

タイトルは、日経マガジン(日本経済新聞社)で記事にしていただいた表題をお借りしました。ここと同じように、記事では、マジックのタネには触れず、僕の生い立ち、仕事のスタイル、愛読書などの特集でした。もしかしたら『種明かし』というフレーズが、マジックの愛好家の方々の気を悪くさせるかもしれませんが、僕も掲載時(2005年)は同じ印象でした。記事が掲載されてから16年たち、今は1周半くらい回って、僕は「まぁ、いいかなぁ…」という気分になっています。

「メソッド01 違う山の登山ガイド」
つづきます

サポートはウェルカムです。いただいたサポートで、若いマジシャンとお茶を飲んだり、一緒にハンバーガーを食べるのに使わせていただこうと思っています。