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ストーリー02 マジシャンのゴールって?

あらためて考えてみると、芸能…、エンターテイメントの世界のゴールって、本当にわかりにくい。権威ある「○○賞」をとったら…、「テレビに出て、日本中に知られるようになった」とか…、「海外でも有名にならないと…」と、いろんなゴールの話を耳にします。

誰かが指差す、そんなゴールを信じて向かい、しばらく走り続けてみると、面白いことに気が付きます。たとえば、コンテストで優勝すれば、周りは祝福してくれますが、すぐに「まだ、まだ先があるよ…」とか、「次はアレを狙わないとね」、「じゃあ、次のゴールは…」なんて、新しい目標……、(ニンジン)をぶら下げます。それがずっと続く。

ネガティブに考えれば、従順で素直な若いマジシャンを周りで煽っているオヂサンたちですら、ゴールがわかっていないんじゃないかと疑いたくもなります。

でも、今は、そんなオヂサンたちには感謝しています。なぜなら、エンターティナーは「誰かのオモチャ」からスタートすることも確かなこと。そんな罪のないオヂサンたちに、自分のゴールまでも決めてもらうなんて、少し都合が良過ぎる気がするからです。

テレビ番組にたくさん出たときも同じでした。子供の頃からゲラゲラゲラ笑って、別世界のことだった「笑っていいとも!」のテレフォンゲストや「徹子の部屋」のあのソファ。あれに座ったときは、「これはゴールかも……」と思っていたけど、撮影が終われば、それがゴールじゃないことに気がつきます。ただ、徹子の部屋をいつも観ていた、他界した母には見せてあげたかったなぁ。

世の中のすごいところは「心からマジックやアートを愛していて」「慧眼と慈愛を持ちつつ、誰かを掬い上げてくれる人」も存在していて、ゴールの方向に導いてくれる人がちゃんといること。

畏れ多いことに天皇皇后両陛下にマジックをご覧いただいたおり、その事を家族(父と兄)と数名の恩人に報告をしました。その中の、お医者様ご夫妻は、それを自分のことのように喜んでくれ、最後に「こんなときは、車の運転に注意してくださいね」と言葉を掛けてくれました。そのときに、ふと思ったんです、「アレ?僕は、もう死んじゃうのかも……!?」って。

そういえば、7代目橘屋円蔵さんが、落語の未来について、テレビの人にインタビューされ、「落語はね、僕が死んだら終わりなんです」と答えていた。それを聴いて「カッコよくて、シャレが効いてるなぁ……。僕も『クロースアップマジックはね、僕が死んだら終わりなんです』って、言ってみたいなぁ。なーんてね。」と思ったくらい。

武道を少し学んだからかもしれませんが、「花は桜木、人は武士」というように、「桜は誰かのために、咲いて散るだけ。そして武士もそう。」。そこには名誉や所有欲も何も残らない。それが美しいゴールへのたどりつき方なのかも、と。

今は元気で健康ですが、最後はジタバタするんだろうなぁ……。なんて想像しながら、自分のゴールシーンを見るのも、少し楽しみにしています。どこかのオヂサンに教えてもらったゴールではなく、自分の人生のゴールだからね。
(つづきます)

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