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メソッド11 コドモのマジック、オトナのマジック

トリックに血をかよわす
マジシャンの大切な仕事のひとつは、トリックに血を通わせること。そう僕は考えています。

たとえば、「マジシャンなのにオーラがない…」とか、「失敗なくトリックができたけど、観客があまり感動しない」、「大きな拍手喝采が起きない」のは、トリックに血が通っておらず、マジックが生き生きとしていないことが原因のひとつ。

それは「動かないヌイグルミ」と「血の通った、本物の動物」の違いにも似ています。

もちろん「ヌイグルミ」や「人形」でも、それを所有する子供にとっては大切なはず。でも他人にとってはモノにすぎません。だから「大事なヌイグルミを家族に捨てられた……」なんて悲劇も起きるわけです。(僕にも大切なヌイグルミがいくつかあります)。

問題は「どうしたら無機質なトリックに血を通わせ、観客に愛される、生き生きとしたマジックに昇華させるか?」っていう話。その前に、少し我慢して、僕の話に付き合ってくださいね。

コドモのマジック、オトナのマジック
子供の頃、学校で勉強したり、ピアノを習ったり、そのゴールは「誰かに褒められること」でした。たとえば「テストで100点をとった」「成績表でいい点をもらった」「発表会で失敗なくピアノを弾けた」とか。学校の先生、両親や友人は「すごいねぇ」と褒めてくれるでしょう。

マジックに置き換えれば、テレビで見たマジシャンのマネをしたら、周りの人たちから「すごいねぇ」「ぜんぜんタネがわからない」とか「プロみたい」って言われて、まんざらでもない気分になる……。もちろん、僕もそうです。コドモのマジックで満足していたんですよね。

それは「自分の努力、成果」=「自分が褒めてもらえる」という、自分が何かを貰うための関係にしかすぎません。「テストで100点」「ピアノが上手く弾ける」「コンテストで受賞」も同じです。家族や友人なら、そんな成果は、きっと嬉しいでしょうけれど……。

しかし、ある日突然、マジックを頑張る目的が「自分を褒めてもらう」から、「マジックで何を与えられるか」に気がついて、すごく落ち込みました。

なぜなら「自分が褒められるマジック」と「他人に何かを与えるマジック」は、目的が違うだけでなく、その構造(作り方)も全く違うことに気がついてしまったからです。

マジックの裏側にあるのは、タネじゃない
その違いとは、「どう不思議なことを見せるのか?」ではなく、「そのマジックにより、観客の心の中でどんな科学変化がおきるか?」ということ。もちろん、その科学変化は「幸せになった」「豊かになった」「希望が持てた」など、ポジティブなほうがいい。もし「マジックで気分が悪くなった」なら大変です。(ただし、エンターティメントでは「恐怖」が価値になる場合もあります)。

そんな科学変化を起こすには、トリックの二重性を知ることしか方法はないと、僕は思っています。つまり、表に見えるとこと、その裏側で流れている「隠れた作用」をマジシャン自身がちゃんと知覚していること。

その「裏側で流れるモノ」は、タネやシカケのことではありません。テレビモニターにたとえるなら、「画面に絵が映る」が観客に見える部分、「液晶パネルや電子部品」が「タネやシカケ」、その裏側で流れているのは「そのテレビが、どう人々を豊かにするのか、幸せにするのか」という、開発者やメーカー、技術者の想いの部分です。別の言い方なら「なぜテレビモニターを作るのか?」という理由です。
(蛇足ながら、そんなことは観客や消費者に伝わらなくてもいいんです)。

血を通わせるための、2つのパズルピース
トリックに血を通す話に戻しますね。まず「観客が心の奥底で、何を求めているかを、なんとなく知っておくこと」。そして、その「観客の心の中のパズルのピース(部品)の欠けた部分にフィットしそうなピースを用意すること」。最後に「そのパズルのピースをトリックの裏側に置いておくこと」です。

そう、言葉にすれば簡単です。次の問題は「具体的に何をすれば良いのか?」です。でもそれは、各マジシャンが登る山の違い、ルートが違うので、ここで解説しても、意味がなく、ムダになることを少し確信しています。

もし、僕の登山ルートが、これからの若いマジシャンのルートのヒントになるなら喜んで解説するのですが……、じつはもう説明しています。このマガジン「前田知洋の種明かし、またはメソッド」のストーリーの部分が、僕が歩いてきたルート。(僕の登った山は、それほど高いものではないかもしれません。でも僕にとっては価値ある山……、そう思っているんです)。

そして、このマジック論が、微力ながらも誰かの役に立つことを願っています。
(マジック論は、おわりです。ストーリーはもう1つだけ投稿するかも…)

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次は、最終回、ストーリー12 マジックを続けさせてくれた人

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