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ストーリー06 ダイヤモンドとマジック

磨かれた宝石のようなマジック
日本に帰国したとき、WINDSというJALの機内誌でインタビューを受けた。英語と日本語で書かれていて、右から開くと英語のページ、左から開くと日本語の別々の記事が読める、面白いレイアウト。

そのインタビューの中で、記者が「磨かれた宝石のような、前田のマジック」と褒めてくれていた。クロースアップマジックと宝石の共通点…、キラキラした感じとか、希少性だとか。この仕事を始めた頃だったから、「そんなマジックができたら……」と、目標にもなった。

偶然か、その記事のお陰か、しばらくして、ハリーウィンストンが主催する晩餐会にマジシャンとしてブッキングしてもらえた。晩餐会では、創業家の当主、ロナルド・ウィンストンさんが来日する予定だった。

ウィンストン家は「所有者を不幸にする(マリーアントワネットやルイ16世もそんなひとりだった)」といわれたホープダイヤを、スミソニアン博物館に寄付したことでも知られている。お父様のハリー・ウィンストン同様、所有するダイヤモンドの資産価値から、写真撮影が禁止な人……。

打ち合わせで、「晩餐会のお客さんの指輪を消すマジックをしてほしい」というリクエストがあった。みんな、ハリーウィンストンのジュエリーをつけてくるだろうし、その値段を想像して、「ダイヤが指輪から外れたら、僕では弁償できないので…」と断りかけたけど、ウィンストンさんに「壊れたら、僕が修理するから」と即答された。

「少々ラフに扱う……、マジックに使うくらい平気だよ」という、ハリーウィンストンの自負だったのかもしれない。いずれにしても、マジシャンやマジックを大切にしてくれる、「ノブレス オブリージュ(高貴な者の義務)」に触れた経験だった。

カルティエでマリーアントワネットの首飾りを消す
どんな職業もそうかもしれないけど、口が固いのも仕事の一部。

あるとき「ネックレスを盗んで欲しい」という依頼を受けた。(マジシャンの仕事って、へんですよね)。

「盗む」というのは、もちろんショーの中の演出で、もう打ち明けてしまうけど「NDA契約(秘密保持契約)」もセットになっていました。これは、いわゆる「その仕事をしたこと言っちゃいけない約束」のこと。(もう秘密保持期間は終わっているので、ご心配はいりません)。

そのネックレスは、540個以上のダイヤモンドが装飾されている「ジャンヌ・ド・ラ・モット伯爵夫人のネックレス」。アルセーヌルパン生誕100周年を祝った映画のために、カルティエが再現したのだそう。持ってみると、とても重い。(頭がクラクラして覚えていないけど、全体で1〜2kgくらいだったような……)。

僕が心配して「逮捕って、されないですよね」と質問したら、カルティエの担当者は「我々が通報しなければね……」とジョークを言ったのを思い出した。

「世紀の大泥棒で逮捕……、そんなマジシャン人生もいいかなぁ…」と思いつつも、僕はネックレスに触れずに「盗んだように見える」トリックを思いつき、ネックレスは仮面舞踏会を模したホテルのバンケットルームで銀の紙吹雪になって消えた。

津川雅彦さんがストーリーテラーで、忘れ難い夜になった……。といっても、本棚の奥から、そのときのマスクとネックレスのデザイン画が出てこなければ、すっかり忘れていた。

それとも、あれは夢だったのだろうか……。(←NDA契約違反用のフレーズではありません(笑))

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(つづきます)

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