横須賀美術館 ヒコーキと美術
横須賀美術館で特別企画「ヒコーキと美術」が開催されています。
美術館のHPでは、「本展では、飛行機という20世紀の一大発明が私たちに与えた影響について、美術の視点から見ていきます。それまでになかったスピードや、空中感覚を経験させる飛行機は、人々のヴィジョンにも少なからず変化を与えました。また、その機械としての洗練された機能美は、新しい時代にふさわしい、モチーフとしての魅力に満ちています。
いっぽう、悲しむべき必然として、飛行機は早くから戦争に利用されてきました。近年研究が進められている戦争記録画にも、その姿は多く登場しています。
現代の私たちにとって、飛行は必ずしも特別な体験ではなくなってきています。本展は、飛行へのあこがれと驚きのあった時代の作品およそ50点を通じ、飛行機が私たちにもたらした光と影について、あらためて考える機会とのあこがれと驚きのあった時代の作品およそ50点を通じ、飛行機が私たちにもたらした光と影について、あらためて考える機会となるでしょう」
あまり下調べもせずに、メカが好きなこともあり、その展示名に惹かれて美術館の企画展に行きました。HPでは控えめに書かれていますが、戦争展といってもいい展示でした。
以前にも、書きましたが、戦後70年以上を経た現在でも、現代美術界で「戦争」を扱うことは難しいようです。
絵画は、その視覚的・感覚的な理由から、しばしば政治的目的で利用され、我が国でも、戦争中に著名な画家が「戦争画」を描いています。藤田嗣治が戦後に糾弾され、1949年に日本を離れて二度と祖国に戻ることがなかったのはよく知られています。
私が知る限り「戦争画」をまとめて常設しているのは、東京国立近代美術館ぐらいです。
「現代美術史 欧米、日本、トランスナショナル(中公新書) 山本浩貴著」で、山本氏は次のように述べます。
「2015年に東京都美術館で開催された『戦争画 STUDIES』など少数の例外を除き、戦争をテーマにした展覧会は限定的です。2000年代後半に『戦争と芸術』と題された展覧会を実現したキュレーターの飯田高誉は次のように語ります。『戦争というテーマで展覧会を行うということは、政治的な問題にどうしても向き合わざるを得ないので、美術館としてはなかなか実現しがたい状況なのであろう。なるべく政治的課題を避けて、問題化されたくないというのが国公立美術館の本音であろか(戦争と芸術)』」。
展示されている作品には、飛行機あるいは飛行機に関係するものをモチーフにしているものの、一目で「宮本三郎」「向井潤吉」のものだと分かる「戦争画」がありました。
今回の横須賀美術館の企画は、思い切った、そして勇気がある企画展だと思いました。
「戦争論」を著したプロイセン王国の軍人のクラウゼヴィッツは言います。「戦争に含まれている粗野な要素を嫌悪するあまり、戦争そのものの本性を無視しようとするのは無益な、それどころか本末を誤った考えである」と。(以下、岩波文庫 篠田英雄訳 2010年5月25日第56刷発行)
ここで向井潤吉の作品に出会うことになると思いもよりませんでしたが、「戦争」というだけで批判する、嫌悪して目を背ける、そういう空気に忖度せずに展覧会を企画し、そして向井潤吉の作品に出会わせくれた横須賀美術館に拍手を送りたいと思いました。
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