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インサイト抽出の鍵!“深”の生活者理解とは

「生活者を理解する」という言葉をよく見聞きすると思います。では、生活者を理解したと言えるのはどのような状態で、どうすればその状態に近づくことができるのでしょうか。生活者を“深く”理解するためには、性格や価値観などの基本的な情報を分析するだけでは不十分です。そこで今回は、生活者理解を深めるための、マーケター側のスタンスやアプローチ方法について解説します。


生活者理解=法則性・パターンを理解すること

マーケティングに関わる多くの方にとって、生活者を理解することは、生活者インサイトを捉えるときに限らずあらゆるシーンで重要です。しかし、生活者理解のゴールイメージは人それぞれです。
例えば、ある調味料の場合でイメージしてみましょう。ロイヤルユーザーには以下のような特徴があると分かっていること=生活者理解、と考える方もいると思います。

例)調味料のロイヤルユーザーの特徴
・女性
・30~40代
・有職者
・既婚子あり
・食に興味関心があり、料理好き
・夕食は「家族全員集まれる時間だからこそ、家族とのコミュニケーションを大事にしたい」という意識がある

上記のようなデモグラフィック情報やサイコグラフィック情報(性格・価値観・ライフスタイルなど)は、生活者を理解する上でとても大切な情報です。しかし、インサイトを捉えるシーンにおける生活者理解としては不十分です。なぜなら、これらの情報から「どのような生活者であるか」を知ることはできても、「生活者がどのように物事を見ているのか」までは理解できていないためです。
インサイトは生活者の意識や行動に変化をもたらす気づきであり、生活者の意識や行動を変えるためには、その法則性・パターンを理解できている必要があります。特定の状況に置かれたときに「生活者はどう考えるのか(意識)、どう感じるのか(意識)、どのような反応をするのか(行動)」の法則性・パターンを見つけて、初めて「生活者を理解できた」と言えます。

生活者理解を深めるために重要なスタンス

では、生活者理解を深めるためにはどうしたら良いのでしょう。まずは、「生活者がどのように物事を見ているのか」に興味を持ち、理解しようと意識することが重要です。

先日、クライアントであるメーカー様の調査部の方と、「生活者を理解するとはどういうことだろう」というお話をしました。その方もまた、生活者理解とは「生活者がどのように物事を見ているのかを理解できている状態」と考えており、それを生活者に「憑依」できる状態と表現し、その状態を目指しているとのことでした。具体的には、自社商品のユーザーのデモグラフィック情報やサイコグラフィック情報を把握するだけでなく、ユーザーの生活や行動、商品の使い方を実際に体験し、その時々の感情の機微に触れることで生活者の理解度を高めているそうです。
その方曰く、生活者に「憑依」することを意識するようになってから、

・このように伝えたら、生活者の方は興味を持ってくれるのではないか
・このように伝えても、生活者の方は魅力に感じないだろう

という感覚も出てきたそうです。

家族や友人ですら理解できないことは多いものです。生活者に憑依できる状態を目指すといっても決して簡単なことではありませんが、生活者に憑依できる状態を目指そうとする、生活者がどのように物事を見ているのかを理解しようと意識することこそが重要で、そうすることで自分たちと生活者の感覚のズレが直されていきます。

生活者に「憑依」するための3つのアプローチ

ここからは実際に、生活者に「憑依」するためにはどうしたら良いのか、具体的な方法について解説します。

1.先入観や偏見を取っ払う

生活者一人ひとりに価値観があるように、私たちにも価値観があります。例えば、あなたが日々健康のために食事管理をし、運動をしている人であれば、健康診断でD判定が出ているにもかかわらずお酒をやめない人を理解できないかもしれません。ただ、自身が非合理的や矛盾と感じることも、他人にとっては違う可能性があると疑うことが重要で、自分の価値観はおいておき、まずは生活者の方の話を真摯に受け止めることが重要です。

※詳細は【生活者インサイト 基本の「キ」 第3話】をご確認ください。

2.状況・文脈で捉える

人の意識や行動は、人が置かれた状況で変わります。例えば、健康のための食事管理をしているという方々に、普段の食事の様子をお伺いしたところ、

“夕食は野菜を6種類以上使うようにしています。でも昼はカップラーメンやコンビニのおにぎりで済ますことが多いです。”
“食事は薄味で作るようにしています。でもこの前は家族がみんな外出して一人だったので、ジャンクフードを食べました。”

ということがありました。
上記エピソードから、「本当は健康のための食事管理をしていない」と判断するのではなく、「自分以外の家族も食べる食事かどうか」で意識や行動が変化している点に着目してみます。そうすると、家族の食事では健康のための食事管理意識が高く、自分一人の食事には健康以外の要素の重要度が増すのではないか、という可能性が見えてきます。
このように、人の意識や行動は状況・文脈とセットで捉えることで、特定の状況に置かれたときの生活者の意識や行動の法則性・パターンが見つけやすくなります。

3.頭ではなく、身体で(体験を通じて)理解する

生活者の意識や行動の法則性・パターンを捉えたら、実際に法則性・パターンに沿った行動をとってみることをお勧めします。状況や扱う商材によっては簡単に体験することができないものもありますが、その場合は自分の過去の経験の中から似た経験がないかを思い出してみるとよいでしょう。生活者がどのように物事を見ているのかを頭だけで理解するのではなく、身体で(体験を通じて)理解することで、より生活者の理解が深めることができます。

生活者理解のポイント

●インサイトを捉えたいシーンにおける生活者理解とは、特定の状況に置かれたときに「生活者はどう考えるのか(意識)、どう感じるのか(意識)、どのような反応をするのか(行動)」という、生活者の物事の見方の法則性・パターンを理解できている状態

●生活者理解を深めるためのポイントは、
1:自分の価値観はおいておき、まずは生活者の方の話を真摯に受け止めること
2:人の意識や行動は置かれた状況で変化するため、生活者の方のお話は状況・文脈とセットで捉えること
3:生活者がどのように物事を見ているのかを頭だけでなく、身体で(体験を通じて)理解すること

次回は、インサイトを捉えた「その後」についてご紹介します。ぜひ次回もご覧いただけると嬉しいです!

[参考文献]
・岸政彦・石岡丈昇・丸山里美, 2016,『質的社会調査の方法 他者の合理性の理解社会学』(有斐閣)
・嶋浩一郎・松井剛, 2017,『欲望する「ことば」 「社会記号」とマーケティング』(集英社)

▶生活者インサイトを捉えたい、お悩みなどのご相談はこちら

この記事を書いた人

【連載】生活者インサイト 基本の「キ」
#1:「インサイト」という言葉の注意点
#2:自ブランドにとっての「インサイト」を見過ごさないためには?
#3:【保存版】インサイトをとらえる際の失敗回避マニュアル
#4:インサイト抽出の鍵!”深”の生活者理解とは


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