【保存版】インサイトをとらえる際の失敗回避マニュアル
生活者インサイトをとらえる工程で、オリジナルのフレームワーク、あるいはセミナーや書籍で紹介されたフレームワークを取り入れている企業も多いと思います。そして、フレームに沿って進めているにも関わらず、「インサイトを抽出できたのだろうか?」と不安に感じる方もまた多いのではないでしょうか。今回は、インサイトをとらえる際に陥りがちな5つのミスと、その回避方法について解説します。
第3話はインサイトクリエイショングループの近藤と坂下で、生活者インサイトをとらえる際に陥りがちなミスについて解説していきます。
以前、我々がご支援している消費財メーカーの調査部の方に、「普段どのような方法・手順で生活者インサイトをとらえていますか?今のやり方に手ごたえを感じていますか?」と質問をしたことがあります。その方は、「インサイトの抽出のために、会社オリジナルのフレームワークを使っています。ワークシートは毎回きれいに埋められているのですが、人によってはきれいな文章が書かれているだけでインサイトではないと感じることも多いです。」とお話されていました。生活者インサイトをとらえる際に陥りがちなミスはどこにあるのでしょうか。
1.【情報収集フェーズ】自社のカテゴリやブランドばかりに目を向けてしまう
生活者インサイトをとらえるための情報収集の仕方としては「定性調査」が多く、中でも、モデレーターと対象者が1対1でインタビューを行う「デプスインタビュー」や、対象者の生活の場に出向き、普段の生活の様子や行動の実態を観察する「行動観察」が用いられることが多いです。その際、深堀をしなければならないという意識から、つい自社のカテゴリ・ブランドの話ばかりを聞いてしまってはいないでしょうか。
当連載の第2話でもお話しましたが、生活者インサイトは「世の中全体においての新しい気づき・発見」だけではありません。「他のカテゴリやブランドにおいては当たり前の事実であっても、自社のカテゴリやブランドにおいては新しい気づき・発見」も含まれるのですが、これは自社のカテゴリやブランドばかりをみていても気づきにくいです。
例えば、健康食品の新商品アイデアを考えるために生活者インサイトをとらえようとした場合、健康食品の購入状況や喫食実態についてインタビューで理解を深めるだけでは不十分な場合が多いです。なぜなら、健康食品を購入・喫食するのは、生活のほんの一部だからです。そのため、以下のように自社のカテゴリやブランドを越えて生活者を見にいくことが重要です。
2.【情報収集フェーズ】自分の常識を押し付けてしまう
インタビューで対象者の方とお話をしていると、まれに対象者の方に対して合理的ではないと感じることや、話が矛盾していると感じることがあります。そのような場面に遭遇した際、対象者の方を理解することを止めてはいないでしょうか。
以前、マクロミルが、株式会社永谷園のパスタソース「パキット」という商品の購入者調査を自主的に企画・実施した際、次のようなことがありました。
パキットの購入者であるミルコさん(仮名)に商品の魅力を尋ねたところ、「電子レンジのみで調理できる手軽さに惹かれた」と回答。しかし、この商品は、電子レンジで6~7分温めた後、さらに電子レンジ庫内で6~7分「蒸らす」という工程が必要であり、我々は以下のような違和感を覚えました。
しかし、さらに話を聞いていくと、ミルコさんは電子レンジで調理をしている間に洗濯物を干すなど他の家事を済ませているとのこと。ミルコさんにとっての手軽さとは、
だと理解しました。
つまり、我々が覚えた違和感は決して非合理的でも矛盾でもなく、「手軽=時短や調理工程が少ないこと」という我々にとっての常識で解釈しようとしていたために生じたものだったのです。
この事例に限らず、非合理的や矛盾と感じることの多くは、対象者のことを理解しようとしつつも、自身の常識の中で解釈してしまっているために生じています。自身が非合理的や矛盾と感じることも、他人にとっては違う可能性があると疑うことが重要で、生活者インサイトをとらえられるか否かは、先入観や偏見を取っ払うことができるかに大きく影響を受けます。
3.【インサイト抽出フェーズ】思いつきや印象的な情緒ワードをインサイトと呼んでしまう
収集した情報から生活者インサイトをとらえる際、単なる“思いつき“や”印象的な情緒ワード“を生活者インサイトと呼んでいませんか。
生活者インサイトは消費者が教えてくれるものではなく、第三者が洞察してとらえるものという点は納得いただけると思いますが、第三者が洞察するものだからこそ、同じ情報であっても視点・組み合わせる情報が変われば結果も変わる可能性があるという点に注意しなければなりません。そのため、
など、複数の情報を結びつけながらインサイトをとらえることを心がけましょう。そうすることで、単なる「思いつき」や「印象的な情緒ワード」を生活者インサイトと見誤ることを避けることができます。
また、日々お客様と会話をしていると、複数の情報にもとづいて生活者インサイトをとらえているにも関わらず、その背景情報は記録していない(生活者インサイトをとらえた方の頭の中にあるのみ)というケースを見かけます。生活者インサイトをとらえるもとになった背景情報はこの後の商品・サービスアイデアを考える手がかりにもなるため、誰もが参照できる状態にしておくことをお勧めします。
4.【インサイト抽出フェーズ】インサイトを言語化する際、新発見が埋もれる
とらえた生活者インサイトを言語化する際、抽象度の高すぎる表現にしてしまってはいないでしょうか。
実際、得られた背景情報を網羅的に表現しようとするあまり、生活者インサイトがありきたりな表現になり、肝心な点が埋もれてしまうケースを見かけます。例えば、
上記の情報から、生活者インサイトを「健康でいたい」と抽象度の高い表現でくくってしまうなどです。ただ、抽象度の高い表現がダメだからといって「食事や運動に気を使うことで健康でいたい」のように言葉数を増やせば良いと言うことでもありません。単純に言葉数を増やし表現を具体化するのではなく、
・一見なんのつながりもないように見える情報がどのような共通項でつながっているか?
・どのような共通項があると仮定すると、何のつながりもないように見える事実がつながるか?
そして、
・どう表現すればしっくりくるか?
を熟考しましょう。
新しい気づき・発見を残しつつ、誰もが理解できる形で言語化することも、インサイトをとらえる際の重要な工程の1つです。
先ほどのケースでいうと、共通項を「外食を思う存分楽しむために、日々の生活でコツコツ栄養貯金を貯めたい」と仮定すると、一見なんのつながりもないように見える情報がつながって見えませんか?
5.【インサイト抽出完了フェーズ】インサイトとらえたと思ってすぐに満足してしまう
最後に、生活者インサイトをとらえたフェーズで陥りがちなこととして、「これが生活者インサイトではないか?」という気づきを得た途端、そこで思考を止めてはいないでしょうか。
繰り返しになりますが、生活者インサイトは第三者が洞察しなければとらえられないものであり、同じ情報であっても視点・組み合わせる情報で、洞察の結果も変わる可能性があります。そのため、1つ生活者インサイトらしきものをとらえたと思ってもそこで満足はぜず、考えられる「生活者インサイト仮説」を出し切ることが重要です。また、仮説を出し切った後、すぐに具体的な商品・サービスアイデアの検討に移るのではなく、一度冷静な気持ちで見直しをしてみると良いでしょう。
以下は、マクロミルのオリジナル『インサイト仮説見直しリスト』です。ぜひ参考にしてみてください。
生活者インサイトはステップバイステップで作業を進めればとらえられるものではなく、調査の取り組み方・情報の読み取り方が重要です。生活者インサイトをとらえる確度を自ら下げないためにも、今回ご紹介した点に注意して取り組むと良いでしょう。
次回は、「生活者を見に行く」「生活者を理解する」とはどういうことかについてご紹介します。ぜひ次回もご覧いただけると嬉しいです!
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