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カスタマーセントリック思考 - 真の課題発見が市場をつくる -


3行でまとめ

高度経済成長期以降の日本では、マス広告・メディアなどで消費者にリーチすれば、商品がカンタンに売れていました。
しかし、これからの時代では、価値観の多様化、市場の飽和などから、企業の価値観を顧客に押し付けるかのようなマス偏向型マーケティングで商品を売ることが難しくなって来ています。
そのような中で重要となる、顧客を中心としたマーケティングの考え方「カスタマーセントリック思考」を本書では紹介。


モノが売れない時代の到来

日本の高度経済成長期以降は、新商品を作ればカンタンに売れる時代でした。
戦後、モノが不足している状態から徐々に好景気になっている時代では、すべての商品は人々にとって初めて見るモノであり、新鮮味があり、必ず購買意欲を刺激されていたのです。

このような時代では、消費者は、商品を認知さえすれば購入に至る率が高かったため、テレビや新聞等、マス広告などで消費者にリーチをする「認知至上主義」が主流のマーケティングプロセスでした。その発想を支えたのが、認知に重きを置いているモデル、AIDMAです。
いわゆるマスマーケティングと呼ばれているものです。

しかし、現代はどうでしょうか?
商品は飽和状態となり、市場も成熟化してきています。またネットやSNSの普及により、消費者の価値観は多様化。Webが発達し情報量が増えたこともあいまって、従来のマス偏向型マーケティングが通用しなくなってきているのです。
このようなアプローチでは、企業が伝えたいことを無理やり消費者に伝えようとしていますが、その方法を現代に当てようとすると、「自分に関係のない情報だ」などとノイズとして思われてしまうケースもあるのです。

いわば、モノが売れない時代の到来です。

カスタマーセントリック思考の必要性

では、モノが売れない時代のマーケティングはどうあるべきなのでしょう?

これからの時代は、企業は自分が伝えたいことをアピールすることはやめ、消費者が聞きたいことを伝えていく「カスタマーセントリック」に変化していかなければなりません。
消費者のことをよく知り、自分たちの製品・サービスが持つ価値を知り、消費者が必要としていることと、価値の共通項を見つけ出し、それが伝わるコミュニケーションのあり方を考えていくアプローチです。
このようなマーケティング活動を、局所的ではなく、顧客とのすべてのタッチポイントにおいて統合的に行うことで、長期的に、大きな需要を創造できるようになります。

消費者リサーチによるインサイト獲得の重要性

それでは、顧客に振り向いてもらい、継続的に成果をあげていくために、どのようなことをすればいいのでしょうか。
情報洪水とも呼ばれる現代で、「これは自分に関係のある情報だ」と消費者に思ってもらうには、その人にとってBenefitがある情報を提供する必要があります。
どのような点が Benefitと感じるかは、個人やセグメントによって大きく異なるため、消費者が欲している情報を探るためには、リサーチによる、徹底的な消費者観察とインサイトの獲得が不可欠です。
ちなみに、顧客の潜在的なニーズを汲み取ることの難易度は高いです。なぜなら、消費者の声は、あくまで現在知っている知識の中での要望しか話をしないからです。

そこから得た消費者の視点を、マーケティングの施策決定などに活用していきます。

完全な顧客視点を実現するための定性調査の重要性

本当のマーケティング課題を見極めることは重要ですが、ほとんどの企業はそれができていません。
なぜなら、ほとんどの企業が自社の製品・サービスの「理想」の購買行動を先に描いてしまっているからです。
ペルソナやカスタマージャーニーを作成するものの、それが企業視点のものとなり、実際の顧客像から大きくずれているケースです。また、アンケートなどの定量調査においても、聞く質問内容が企業の偏見に満ちている場合もあります。顧客視点を実現するためには、定量ではなく、定性観点が非常に重要です。

より本質的なマーケティング課題を発見する

定性調査の結果から課題を見つけることがとても重要ですが、課題には様々なレイヤーがあり、必ずしも調査で見つかった課題が本質的なマーケティング課題とは限りません。より本質的な課題に辿りつくためには、「購買行動を喚起するルール」を意識して課題を分析して行く必要があります。

マーケティング課題 : 解決することで企業・商品の状況・売り上げ改善につながる課題

購買行動ルール①生活欲求と購買欲求が顧客の「買うかどうか」を左右する生活欲求 :「健康になりたい」「英語をしゃべれるようになりたい」
購買欲求 :「生活欲求を解決できる商品が欲しい」
生活欲求はより根源的な人間の欲求であり、購買欲求は、商品が欲しいという欲求です。生活欲求を喚起した上で購買欲求を刺激できるようなマーケティングは成功しやすいです。

購買行動ルール②カテゴリが違っても同じ体験を提供する商品はすべてが競合
たとえば「安眠を提供する枕」カテゴリで一位をとれたとしても、ユーザーがその商品を必ず買うとは限りません。なぜなら、別のカテゴリでも安眠という同じ体験を提供する製品は存在しているからです。カテゴリー外の商品に、購買欲求で打ち勝たなければ、ユーザーは購入には至りません。

カテゴリー外も含めると競合はたくさんあり、優位性を証明するのは難しいです。そこで重要なのは、競合を敵と捉えず、仲間として認識することです。快眠枕の例で言えば、「ストレッチや半身浴と組み合わせて、最高の眠り体験を」などのコンセプトです。

購買行動ルール③論理と感情の両方をバランスよく活用する
論理的にいかに商品が優れているかというアピールも重要だが、感情を刺激することも大切です。

課題に対して最適な解決策をあてる

日本のマーケティング業界では、手っ取り早く効果をあげようとなった場合に、広告流入で新規獲得を増やすことが定番ですが、それは本質的な解決になっておらず、長期的に見ると全く意味がありません。より有効的なのは、消費者にとって魅力的な、独自のマーケティング・ストーリーをつくり、消費者に伝えることです。

「売りにつながる」ストーリーをつくる4つのポイント

ポイント1「独占的な商品特徴」からの逆算
その商品にしかない、USPを探し、購買欲求を刺激する。

USPとはunique selling propositionの略で、消費者の購入理由となる特徴的なベネフィットを表すスローガンやメッセージその他の価値提案のことをいう。

ポイント2「非購入者に買わない理由を聞くべからず。」
商品を購入しなかった人に、なぜ買わないのか理由を尋ね、その結果をそのまま商品改善に活用しても、うまくいきません。なぜなら、購入者の購入理由と、非購入者が買わない理由は全く別だからです。

ポイント3 生活欲求を喚起するストーリーづくり

生活欲求を喚起するためにはどのようなストーリーをつくればいいか?
「自社の商品を使うことで得られる価値」を世の中の問題・課題レベルに拡大させる。たとえば、アフリカ料理をサクッと作れるが売りの商品なら、アフリカ料理を手軽に作りたいという生活欲求を喚起できるようなストーリーを作ること。このようなストーリーを作るなら、以下の3つがキーとなる

専門家の知見に沿ったストーリーか?
メディアに報道価値のあるストーリーか?
流通にとって価値のあるストーリーか?

ポイント 4 二種類の生活欲求タイプを使い分ける
【生活欲求1  -  マイナスからゼロ】
「課題解決」をしないと損をするから、解決したい
「痩せないと生活習慣病になって寿命が縮まるからダイエットしたい。」
【生活欲求2 - ゼロからプラス】
「課題解決」をすることで得をする、だから解決したい
「痩せると異性にモテるようになる。だからダイエットしたい。」
ターゲットやセグメントによって魅力的に感じることは異なります。二種類のタイプを上手に使い分けましょう。

仮説を検証して、魅力的なストーリーをつくる

消費者のインサイトを考慮に入れながら、生活欲求・購買欲求を刺激できるようなストーリーを考え、できあがったら、それは一つの仮説であると考えましょう。できあがったストーリーは、実際に消費者テスターなどに見せて効果を検証して精度を上げていきます

データを活用して、魅力的なストーリーをつくる

消費者のインサイトをつかむことは重要なのは言うまでもありませんが、その方法はデジタル化とともに変化しています。
これまで潜在的なニーズ把握は、アンケートで聞くなどの形がとられてきました。しかし、データから把握することも可能となってきました。
いくらデータ活用が可能になったとはいえ、データに振り回されてはいけません。定量データから見えるのはあくまで属性や傾向で、その先にある意識や思考はわかりません。定性・定量、バランスよく活用することが重要です。以下がデータ活用により可能になってきたことです。

顧客のペルソナ理解
顧客の購買行動を深く理解
潜在顧客を特定
既存顧客のロイヤルティ向上
離脱顧客を抑制
ブランド横断でのクロスセルやアップセル促進
ニーズに合った新商品開発

カスタマーセントリックを社内浸透させるために、最強の敵は社内部門

カスタマーセントリック・マーケティングを実行するには、社内のステークホルダーを動かす必要があります。
小さいことからでもいいので、少しづつ成功体験をつくっていくことで、重要性を認められ、徐々に活動がしやすくなっていくでしょう。
社内インフルエンサーを活動に巻き込んだり、他部署にインサイトのヒアリングに行く、などは低コストで効果的な手段です。

カスタマーセントリックな体質になるための組織づくり

カスタマーセントリックな組織とは、「お客様を第一に考えます」などの精神論で終わらせず、企業が戦略・戦術を実行する意思決定の基準を「顧客に置く」と言うプロセスを実行する組織です。

その際に重要なのは、
・「アナログなストーリー構築力」
・「デジタルデータの分析力」
・「オンライン・オフラインを有機的につなぐ施策設計力」
などです。
このような活動を、消費者インサイトを把握し、有効なマーケティングストーリーを描いて実行するというアプローチは、「カスタマーファースト」の意識を広め、カスタマーセントリックな組織にかえることができるようになります。

鍵となるのは、「顧客データによる意思決定の実践」です。顧客データをもとに、またはそのインサイトをもとに、有効なマーケティング施策を立案し、実施後に反応結果のデータを振り返ることで、新たなインサイトの発見とともに、マーケティング施策の精度を高めていく。このサイクルを回すことで、カスタマーセントリックな企業へと進化します。

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