見出し画像

丘に上るたんびに義母のことを思い出しますね。

場所の名前がわからなくて、最近調べたんです。「花桃の丘」っていうんですね。名前の通り、桃の花の季節は格別にきれいで、私にとってはジョギングコースっていうか、散歩コースっていうか、週に1回は行ってます。義母が存命のころは、2人でよく訪れていました。

義母は、その丘の下に8年ほど住んでいたんです。戦後すぐに渡米した義父とともに、アメリカに四半世紀以上住んでいて、義父の死後、実家がある新潟に戻っていたんですね。高齢になって入院することも増えて、「何かあってもすぐには飛んでいけないから横浜に来てもらえないか」って、何年か越しで説得したんです。義母は横浜に来るのに随分抵抗があったんですが、12年前に引っ越してきてくれて、新潟を出たくないってあんなに言っていたのにとっても気に入ってくれてほっとしました。皆さん優しいし、お花がきれいだし、新潟と違って冬は明るいし、横浜ってもっと都会だと思ってたのに畑が近くにあったりして、ほんっとに好きだわって。

義母は、長くお花を教えていたこともあって、花がすごく好きだったんですね。心臓と足が悪かったので、花桃の丘には車で連れて行ってました。そこでのお花見は、毎年とっても楽しみにしてくれていて、喜んでくれましたね。道明寺の桜餅を買って、食べながら見たりとか。車の中から見るだけだったんですけど、それでも素晴らしくきれいで、もう少女のような笑顔で喜んでくれたのは今でも心に残っていますね。もう何年前? 4年前ですね、義母が亡くなったのは。 今も、丘に上るたんびに義母のことを思い出しますね。

昨日もちょうど朝ランニングして花桃の丘に行ってたんですけど、松葉菊が咲いてました。春の菜の花もきれいだし、ヒュウガミズキの時期もきれいなんですよ。桜もいいし、竹の風情も好きですね。それぞれの季節を楽しんでます。

美しが丘西に住み始めて、もう25年かな。料理のレシピを開発したり、講習をしたり、本を出したり、そういった仕事をしています。娘が生後4カ月のとき、重度のアトピーを発症して、勤めを辞めざるを得なくなって、3年くらい育児に専念していました。痒がって夜泣きがひどいのと、母乳育児だったので私も食事制限をしなくてはならず、6キロ痩せてもうヘロヘロで育児ノイローゼ寸前までいったこともありました。そのとき、赤ちゃんを育てているお母さんがハッピーに過ごせない社会っておかしい、と思ったんですよね。それでお母さんが集える場所を作りたいと、娘が3歳の時にこの家に移ってすぐ、自宅で料理教室を始めたんです。そのちょっと前にNHKの料理コンクールで2年連続入賞したことで気を良くしたのもあるんですけどね。食べること、旅することが大好きで、子連れで訪れたいろいろな旅先で現地のお母さんたちから料理を習っていたことも役に立ちました。赤ちゃん連れOKだったからか、多いときは延べで月100人ぐらい、お母さんたちがうちに来てましたね。

2011年からは現代のライフスタイルにあった乾物の活用法の研究を始めて、レシピや新しい使い方というのを提案しています。東日本大震災のちょっと前、2010年の暮れにペルーのジャガイモの乾物を手にして、世界の裏側からでも乾物だったら届くんだ、と妙に感動したんです。「パパセカ」っていうんですけど、栗みたいですごくおいしかったんですね。それで、乾物って面白いじゃない! って思ったところで東日本大震災になって、うちの近所は計画停電が実施されていたので冷蔵庫が使えなくなって、でも、スーパーで生鮮食品が売り切れる中で乾物が売れ残ってるのにショックを受けて。そんなこともあって乾物のことを改めて考えてみたら、食品ロス削減になるし、省エネだし、もしものときの備えになるし、皮がむいてあったり切ってあったりして料理の時短にもなるし、「未来食」なんじゃないかって思ったんですよね。現代的な生かし方やレシピを作って広めていくことで、未来の社会がちょっといい方向に変わるといいなと思って活動しています。

例えばニンジンを半分使ったら、残った分を切って干しておく。そんな小さなことを積み重ねていくだけで、いつも何か野菜が干された形で家にあることになって、備蓄になるし、忙しいときにもちょっとつまんでスープやお味噌汁に入れるだけだから簡単。日々の食事作りが防災訓練になる。自分が住んでる街が家庭備蓄に強いですよって、みんなでちゃんとやってけますよってなれば、それはすごくいいことだと思うんですよね。

インタビュー:2021年 夏

このおはなしは2022年No.008号に収録されています。

この度、2014年から発行を続けてきた冊子「街のはなし」1号〜9号を1冊の書籍にまとめることになり、クラウドファンディングを始めました。

シンカブル(Syncable)からご寄付いただけます。

昭和のニュータウンの温故知新。
住民のまちづくりの努力の蓄積と街の成り立ちを共有したい。

100人のナラティブ・地域の変遷と社会の変化を伝える 記憶を記録する本
たまプラーザ「街のはなし」書籍化プロジェクト

すでにご寄付をいただいている方には、御礼申し上げます。とても励まされております。そして、これまでご協力・応援してくださったみなさまにも、オンラインの寄付を通して、書籍化プロジェクトの仲間になっていただけたら嬉しいです

街のはなしHPでもこれまでの活動を見れます。www.machinohanashi.com
S N Sで最新情報をアップしています。フォローお願いします。
Facebook
Twitter
instagram

企画・文: 谷山恭子
写真:小池美咲

編集・校正: 谷山恭子・藤井本子・伏見学・街のはなし実行委員会

発刊:街のはなし実行委員会

よろしければサポートをおねがいします。サポートは、今後の「街のはなし」の冊子発刊費用に使わせていただきます!