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漫画語りー4. 易しいアート教養漫画<ブルーピリオド>

はじめに

こんにちは、マッチロと言います。

ぼくは漫画が大好物で、これまで何作品か読んで楽しんできました。その中で感動して印象に残った作品がいくつもあるわけですが、このnote上で、ここが好き、これを学んだ、等の自分の感想や印象をとことん綴っていこうと思います。読んだことない人のために作品の魅力をできるだけネタバレしないよう紹介するつもりです。拙い箇所もあるかもしれませんが、同じく漫画がお好きという方は少しお付き合い頂いけると幸いです。

今回は今年2020年にマンガ大賞で1位を受賞した『ブルーピリオド』です。

『ブルーピリオド』(※6巻以降も絶賛連載中)

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あらすじ


勉強も仲間との付き合いも当たり障りなく生活してる一方でどこか虚無感を抱えてる高校二年生、矢口八虎は、ある日美術室で目にした一枚の大きな絵に惹かれてしまう。次の美術の授業で初めて夢中で絵に取り組んだ八虎は、旧友の鮎川龍二の誘いで美術部に入部し、やがて正解のない美術の世界にのめり込むのであった・・・。

美術観を養おう


単行本6巻までは主人公が藝大を目指す話なので青春受験ストーリーのようにも思えますが、ちょっと一味違います。


それは、主人公の成長と一緒に読者の芸術的感性も磨かれてることです。


ぼくは絵を描くのが好きですが、絵画の個展に行っても、一枚の絵のどこを注目し、どう語ればいいのかわかりません。おそらく漫画を読んでる読者の半分以上もそんな感じではないでしょうか。


主人公の八虎も高二で初めて真剣に絵に取り組み、結果快心の出来上がりになったとはいえ彼は絵に関してまだ初心者でした。



それから八虎は美術部と美術予備校に通って、自分よりも絵の才能がある人との差や、自分なりの絵を表現することに苦悩しますが、

デッサン、構図、モチーフ、配色などの知識やテクニック、創作する際の姿勢、

等を先生から教わったり、

美術館の作品や対象となるモノをどのように見ればいいかのコツ

をクラスメイトから教えてもらったりしながら、作品に対してめげずにトライ&エラーで創作を続けます。そうして何時間も描いて美術感覚を養い、ついに迎えた藝大受験時には今まで学んだテクニックと自分の美術観を武器にする程成長します。

このように八虎が芸術分野で成長する過程を読んでいくにつれて、私たちもアートに関する知識と興味が深まります。すると、モノをもう少しよく観察してみようと意欲が出てくるかもしれません。

世界のエリートはアート感覚を身につけているらしいですから、漫画きっかけで芸術に興味を持ち作品鑑賞を嗜もうとすることは決して損ではないでしょう。


彼らは極めて功利的な目的のために美意識を鍛えている。なぜなら、これまでのような「分析」「論理」「理性」に軸足をおいた経営、いわば「サイエンス重視の意思決定」では今日のように複雑で不安定な世界においてビジネスの舵取りをすることはできない、ということをよくわかっているからです。(山口周『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?~経営における「アート」と「サイエンス」~』光文社新書、2017年、14頁)


漫画でアートの感性が身につく関連ではこちらの記事がとても為になったので、ご参考にどうぞ。



美術で自分を出すということ


『ブルーピリオド』の見せ場の一つは、八虎が課題に対してどんな作品を生み出すのか、だと個人的に思うんですが、フィクションとはいえ彼の作品は素人のぼくでも毎度「いい視点、発想で描いてるなあ」と感心します(もちろん山口先生がすごいんですけど)。


ここで言うぼくの「いい」とは、「他の人が思いつかない、ほんとにその人だからこそ発見できた唯一のもの」みたいな意味です。人によって視点が違う例は作中の博物館での一場面がわかりやすいと思います。



しかしながら、これまで優等生と周りから認められるよう生きてきた八虎にとって、自分のアイディンティーを見極めて自分を表現するのは最も悩ましいことでした。特にはっきりしない課題でテーマを決める際に自分という壁に苦労し、時には描くことが恐い心境にだって陥ります。


自分を最大限に出せてない彼に対して、ある場面で予備校の大葉先生が「自分勝手力が足りない」と助言をしますが、この言葉は芸術作品を理解するためのいいキーワードに思えます。


つまり、たいていの芸術作品はアーティストが独自の解釈と独自の表現で全力で自分を投影したモノなんです。だから、作中で八虎が描いたF100号の大作のように、説明がないとただ見ただけでは何を表現して描いてるのかわからないような作品が出たっておかしくありません。


漫画のキャラクターでは、そんな自分勝手さを見せるモデルとして高橋世田介が担当しています。八虎の対照的な存在であり、ぼくが好きな登場人物です。相手のことなんか慮らずにズバズバと発言する、あの我が道を行く感が清々しくていいですね。まあこんなんだと友達はなかなかできないでしょうけどね。



こうしてアーティストについての人物像を探っていくと、まだ短い人生しか生きてない高校生が自分を表現し、なおかつすでに画力が高い人たちと入試で競争を強いられることは相当な労力とプレッシャーがかかるだろうと想像できます。

だから自分の作品に対してよっぽどの自信を持つことが必要です。漫画を読めば、彼らが合格するためにどんなことを学び、どれだけ苦悩して、どれだけ努力するのかが、より理解できるでしょう。


ちなみに、「他の人が思いつかない=既成概念を取っ払ったようなもの」、とも言えると思いますが、漫画でもそれを崩そうとする冒険が窺えます。

たとえば、鮎川龍二のようなジェンダーの要素です。彼は準主役なので一番目がいきがちですが、実は他のキャラクターでもちらほら組み込まれてます。その辺はこちらに詳しく書かれているので参考にご覧ください。


おわりに


作者の山口つばさ先生は実際に藝大に現役で受かった卒業生です。だからこそ、八虎が藝大への進路を決めて失敗しながらも受かるために努力する様子は非常にリアリティがあります。その過程で言うと、ぼくは八虎が母親に藝大に行きたいと告げるシーンはグッときました。もし美大を志望する方が知り合いにいたら是非おすすめしてほしいと思います。


またこの漫画は、アートの世界観は難しいと感じる方にとっては入門書として、自分のアイディンティーが不確かな人にとっては参考書として役割を果たしてくれるでしょう。
『ブルーピリオド』を読んで、次の八虎のごとく皆さんの感性に少しでも変化が訪れることを願います。









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