マモの剣-第一章 マモ族の目覚め-
あらすじ
モンゴルに広がる草原に住むマーモット族の物語。一部の悪い人間によって、マーモット族が絶滅の危機に立たされていた。絶滅の危機を回避するため開かれたマーモット族の会議で、かつては、マーモット族は勇者として戦っていたと主張する者がいた。その者は勇者の血を引く者の証として先祖代々伝わる剣を持っていた。
マーモット族の二匹が人間によって仕掛けられた罠にかかって捕らえられたことをきっかけに、勇者の血を引く者が、真の勇者であるのか、試される時が来た。勇者は修行の旅に出る。人間と戦うために。
-勇者の証-
ここは中国東北部からモンゴルにかけて広がる草原。マーモット達が巣穴を作って生活している。マーモットを知らない読書のために簡単に説明しておくと、彼らは草食性の動物で冬の間は冬眠している。危険が迫ると大きな鳴き声で仲間達に危険を知らせる社会性の高い動物である。主な天敵は鷹や鷲、狐などであるが、最近、さらなる天敵が増えた。それは人間である。彼等は、マーモットを見るや「かわいいっ」と言い、せんべいやらクッキーやらこれまでマーモットが食べたことのない食べ物を与えたりしている。ただ食べ物を与えるだけなら良いのだが、マーモットを連れて帰って家で飼いたいというものや、マーモットがどんな味なのか食べてみたいという者も現れた。マーモットを食べた者はマーモットが持っている菌に苦しめられ、人間界ではマーモットを食べないように禁止令が出された。それでも無知な人間が後をたたず相変わらず被害に遭っている。マーモット界ではこのような被害拡大を防ぐため(マーモット以下、マモと略す)マモ達が集まって会議を開いた。村を仕切るマモ長老が開口一番「我々に新たな敵が加わった、それは人間という愚かな生き物である。にやけた顔をしながら我々に近づいて、何やら美味しい食べ物を与える。我々はすっかり油断して人間を信用してしまった。その結果、人間によってマモが連れ去られたり、焼いて喰われたりする事件が増えている。今日、ここに集まってもらったのは、被害拡大を防ぐために何か良い知恵がないか皆に問いたかったからである」すると聡明なことで有名なマモが「言い伝えによると我々マモ族は昔は勇者であったと聞いております。敵が向かってきたら、鳴き声を上げるのではなく立ち向かって戦っていたと聞いております。それが今ではどうでしょう。臆病で、卑しく、愚鈍な動物と言われています。皆は悔しくはないのですかっ。美味しい食べ物に釣られて人間を信用してしまった我々の心の弱さがこのような結果を招いてしまったのではないでしょうか。我々はもう一度立ち上がって敵と戦うべきなのではないでしょうかっ」この意見に歓声が沸き起こった。しかし奥で黙って聞いていた一匹のマモがこの意見に対して疑問を投げかけた。この者は変わり者で、通常マモ達は家族一緒になって巣穴の中で生活しているのだが、家族から離れて一匹で生活していた。そのため周りのマモ達からはさすらいのマモなどと言われからかわれていた。「マモ族が昔勇者であったという証拠はあるのか、ただの言い伝えに過ぎないのではないかっ」すると聡明なマモは「勇者であった印に先祖から代々受け継ぐ剣を持っているっ」さすらいのマモはそれでも疑った「君は聡明なマモと言われている割には安易な考え方をするんだな。剣は人間が昔使っていたと言われる道具だ。君のご先祖様かなんだか知らないが、たまたま土の中で見つけただけの話なんじゃないのか。それに君もよく知ってるように人間の大きさは我々が立ち向かって戦える相手ではない。例え剣を持っていたとしてもな」と吐き捨てるように言った。これには聡明なマモも目を吊り上げて怒った。「我々の先祖を愚弄するのかっ、マモ族が剣を持って戦っていた証はあるっ、剣の柄(つか)に我々がよく食している草の模様があるっ、それに祖父から剣を持って戦っていたという話もよく聞いていたっ」と興奮気味に話した。さすらいのマモは「では、君の言うように過去にマモ族が剣を持って戦っていたとしよう。もし戦っていたのなら剣は各家系に一剣は引き継がれていてもおかしくはないと思うのだが、今のところ、君の家系だけだ。後もう一つ、なぜ戦うことを止めたんだ。無意味だったからではないのか。鳴き声で危険を知らせ巣穴に隠れたほうが無駄に危険を冒す必要もなく、絶滅を避けられると考えたからではないのか」聡明なマモは悔しかった「君は負け犬同様だ。戦うリスクを避けて逃げているだけだっ」長老は困って、聡明なマモに「実はわしも昔マモ族が戦っていたという噂は聞いたことがある。しかし、確たる証拠がない。どうやら君の家系に代々伝わる剣だけが証拠となりそうだ。一度、その剣を見せてもらえることはできるかな」長老は今にも泣き出しそうな聡明なマモに優しく語りかけた。「分かりました、お持ちいたします」と小さな声で応えた。するとさすらいマモが「僕も長老と一緒に見る権利はあるんじゃないかな。君と長々と討論したのだから」と言った。聡明なマモはちょっと嫌だなと思ったが渋々同意した。
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