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マモの剣-第一章 マモ族の目覚め-第六部-怪しい男-

 その時、背後から「おっ、二匹入ってるな」と声がした。キッキとくい坊が声の方を見上げると、顔は浅黒く卑しい目つきの男がニヤニヤしながら立っている。「人間だっ」キッキは振り返って草原のほうを見たが、仲間の姿はない。くい坊はこれから何か恐ろしいことが起こるのではないかと思い震えた。卑しい目つきの男は檻の隙間から丸くて固い食べ物を二枚投げ入れた。「今からお前らを市場まで連れて行くからそれまでせんべいでも食べて大人しくしててくれ」と言うと檻ごと左の脇に抱えて歩きだした。キッキは檻の柵を両手で掴んでキーッと鳴き声を上げた。「大人しくしろッ」と怒鳴られても鳴き続けた。くい坊はその様子を見守るしかできなかったが、不意に丸くて固い食べ物を掴み前歯でガリガリし始めた。キッキはその様子を見て唖然とした。「くい坊さんは食べ物のことしか頭にないんだ」そんなキッキの思いも知らず、くい坊は一心に欠けた前歯で丸くて固いものをガリガリしている。キッキはとうとう鳴き声を上げるのを止めて座り込んでしまった。絶望感で思考が停止してしまい、無の状態でくい坊が一心にガリガリしているのを眺めていた。欠けてる前歯を見てくい坊の食いしん坊具合に思わず笑ってしまった。よく見てみると、くい坊は丸くて固い食べ物をガリガリしているだけで、口の中には入れていなかった。砕けたせんべいは檻の下の柵からこぼれ落ちて草原に取り残されていた。「あっ、くい坊さんはあの丸くて固い食べ物を食べているわけじゃないんだっ。僕たちの仲間に行方が分かるように道しるべにしてくれているんだっ」キッキはこの食べ物のかけらに仲間たちが気づいてくれることを願った。しかし、男が山を下る頃には二枚のせんべいはすっかりなくなっていた。キッキは草の上に落ちた最後のひとかけらのせんべいを不安な気持ちで見つめていた。
 一方、長老はこの事態を知って、聡明とさすまもに急いで助けに向かうよう指示した。聡明は剣を背中に背負い、さすらいは長老から薬草の入った小さな袋をもらって、二匹は草原を走った。だがすでに檻は無く、ただ静かに草がそよいでいるだけであった。聡明が不安な表情でさすらいを見ると、さすらいは辺りを注意深く見回し始めた。そしておもむろに走り出した。聡明が後を追いかけると、そこにせんべいのかけらが落ちていた。そのせんべいのかけらは一本の線のように連なり一つの方向に伸びていた。聡明とさすらいはせんべいのかけらが落ちてある方向に進んでいった。せんべいのかけらは坂を下る手前で途切れた。聡明とさすまもは急いで坂道を下りていった。

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