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マモの剣-第一章 マモ族の目覚め-第四部-食いしん坊五人組-

 翌日、村のマモ達を集めた集会が開かれた。長老は集まったマモ達に向かって「皆も知っての通り、人間によって我々の生態が脅かされておる。食べ物の誘惑は恐ろしく、我々はその誘惑に打ち勝つ必要がある。そのため、本日より人間から食べ物をもらうことを禁止とする」この長老の発言にマモ達はざわついた。この突然の決まり事にあからさまに反対の態度を示したのはマモ達の間で食いしん坊五人組と呼ばれている五匹だった。この五人組のリーダー、あだ名はくい坊と呼ばれる一匹が「長老は何をそんなに怯えているんだ。我々を脅かすのは何も人間だけじゃない。鷹や狐だってそうじゃないか。鷹や狐は我々を襲うだけで食いもんはくれないが人間は違う。食いもんをくれて、食ってる間になにやら人間が手に持っている四角いものをしばらく向けられて終わることがほとんどだ。それにあの丸くて固い食べ物が俺はたまらなく好きなんだ。長老はあの食べ物を食べたことがないんじゃないか。とにかく俺はこんな決まり事には反対だ」この発言を側でキッキが聞いていた。集会が終わるとキッキは足早に長老の巣穴に向かった。長老の巣穴では、聡明とさすらいが長老と共に人間に対抗するための相談をしようと集まっていた。キッキは息を切らせながらくい坊の発言を長老に報告した。「キッキくん、知らせてくれてありがとう。この計画は我々マモ族が協力し合ってこそ成功するものなんじゃ。はてどうしたらいいのか」長老が頭を悩ませていると、さすらいが「見張り隊を結成するのはどうでしょう。巣穴の近くに交代で見張りの者を付け、人間から食べ物をもらったマモは長老に報告するように伝えておく。規律を破った者は、マモ牢に入れて三日間食べ物を与えないという罰則を設けておくのはどうでしょう」長老は少し厳しい罰則かもしれんが、これもマモ族存続のためと承諾した。それを聞いていたキッキは自ら見張り隊に志願した。「以前からマモ族の仲間に入れてもらえたお礼をしたいと思っていました。僕を見張り隊に入隊させてください」長老はにっこり笑って「では、キッキくんには見張り隊の隊長を務めてもらおう」キッキはキリッとした顔でお礼を言った。翌日から見張り隊が結成され、マモ達の巣穴付近を見張るようになった。この動きに対して反発したのは食いしん坊五人組であった。特に食に対してどのマモよりも貪欲なくい坊は我慢ならなかった。「ここまでして人間から食べ物をもらうことを禁止する理由はなんなんだっ、だいたい人間に捕まるマモが間抜けなだけの話じゃないかっ、俺は見張り隊なんかに気付かれずに人間から食いもんをぶんどってやる」と憤慨した。しかし、食いしん坊五人組の巣穴近くの見張りは特に厳しく、さすがのくい坊も人間から食べ物をもらうことが出来なかった。くい坊が人間から食べ物をもらうことがないまま一週間近く経ったころ、くい坊は丸くて固い食べ物の夢を見た。ガリガリと歯触りがよく、ほんのり塩味でこれまで食べたことのない美味しさであった。夢から醒めて巣穴の中にあった丸い石を齧ったが歯が欠けただけだった。「クソッ、もう一度あの丸くて固い食べ物が食べたい」と独り言を言った。また、人間たちもマモ達が近付いてこないことを不思議に思っていた。巣穴近くで呼びかけて、せんべいをちらつかせても巣穴の中から睨みつけられるだけで、出てこないのである。人間を警戒するようになったようだ。こんな声が人間たちの間で囁かれていた。特に困っていたのは、マモ達を捕まえて売り捌いていたブローカーであった。「以前はせんべい一枚で簡単に捕まえられたのに、最近は素早く逃げられるようになっちまった」ブローカーはなんとか捕まえようと檻の罠を仕掛けることにした。

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