【有料老人ホームvol.4】尊敬する切り抜きジジイ
「ジジイ」なんて言葉もちろん仕事場で言ったことはありません。でも時々心の中で言いたくなる場面がちょいちょい訪れます。
93歳の入居者、森越さん。一瞬かわいいおじいさんにも見えますが、計算高くて、いろんな意味で器用な人でした。
「よう。エマちゃん!」
「...すみません。私、まりなちゃんです」と低い声で真面目に返事したことが何度あったか笑
私の名前「まりな」は本名ですが、なぜかこの人だけには「エマちゃん!」と呼ばれていました。(なんでもいいんですけどね)
私は森越さんに会うのが苦手。
なぜなら私を見つけると「エマちゃん、君は僕にとって神さまだよ〜!!」と甲高い声で言われるのがいたたまれない...。
森越さんは私がイラストを描いているのを知っていて、施設で貼るレクやイベントのチラシを掲示板に貼るとまだ終わっていない宣伝まではがして全部イラストだけ切り抜きされてしまうのです。宣伝が伝わらないまま切り抜かれるって最初は笑ってられるけど、連続続くと迷惑でしかない。
時にはこのことで大げんかにもなり、「勝手にはがすな!」「切り抜くな!」と私も言いたい放題してきました....。
森越さんも最強に強いので負けない!でも切り抜けないイラストが減るのは困る!だから時間が経つとかわいい顔してわざと甲高い声で私を神さま扱いしていました。
ジジイ、お願いだからそれ以上はやめてくれーと嘆く私。
黙らせたくて、その場で適当なものを渡すと喜ばないというめんどくさい性質でした笑
私のような若輩ものが間違っても「神さま」なんて93歳に言われるとクラクラしてしまいます🌀
戦争で最前線で戦って、戻ってきた頃にはお父さんの形見の腕時計がゆるくて外れたくらい細くなっていたというのだから...。生きる根性がすごい。今の日本があるのは森越さんのおかげ。本当にありがとうございます。足を向けて寝れません。本当は切り抜くだけ切り抜いてほしい。
軍人気分が戻るのか時々他の入居者さんを部下だと思って偉そうに接する場面もあったり、テーブルを占領して切り抜きするから息子さんが見かねて怒ったり、反省するフリしてまたこそこそ切り抜きしたり...😅なかなか手の焼ける人でしたがいつも自信満々で面白かったです。
「僕の歳でこんな切り抜きできるやつ他にいるか〜!?」
ノリがついたビカビカのハサミを光らせ自慢していた森越さん。往診の先生と看護師も捕まえて作品のお披露目をしていました💉
そんな森越さんは時々お礼をくれました。
「はい。飲めよ、みかん水」
「え?みかん水?」
渋のついたプラスチックの(汚い?)コップに入ったオレンジジュース、朝食の残りを取っておいたそうです🍊オレンジジュースを今の時代にみかん水なんていう人いるの!?😱と思いながら一応受け取り、飲む勇気がなくこっそりシンクに捨てました。ごめんなさい。
別の日は
「ほれ魚肉ソーセージ!半分に切るから持っていけ!」
「いや、いいです、悪いんで...]
「いいんだよ!やるって言ってんだから!」
と無理やり渡されるのは切り抜きでさんざん使ったノリがついたハサミで切る魚肉ソーセージ半分。なら一本頂戴よ!とつっこみたくなる笑
あなたは食べられますか?私、無理!😨
森越さんなりのささやかなお礼、その代わり「またイラストをくれよ」という暗黙のルールがありました笑
でもこんなに没頭できる良い趣味を持っていて93歳まで続けていることに尊敬の念を抱いています。
今生きていたら100歳です。きっとあの世で周りにいる人たちに自慢しながら切り抜きをしていることでしょう。
私もここで何か自信をつけて生きていきたい。
※森越さんは仮名です。
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