フィクション【1】

「オギャー!」


元気な産声を上げて26時間もの長いお産の末に母の体内から3317gのエネルギッシュな赤子が飛び出した。


その姿はエイリアンのように紫で髪が見えない程薄く、しかし頭の天辺に金粉を散りばめたように光る髪の赤子は、溶液やその他の液や付着物に塗れている。頭も普通に地上や保育園で見かける可愛い赤ちゃんよりも少し縦長に引き伸ばされ、綺麗な丸というよりは、ライフルの弾丸と人間の頭部をかけ合わせたような形にすら見える。(産まれ落ちた瞬間というのは、どの健康な赤子も紫と蛍光ピンクをかけ合わせたかのような色をしており、顔はクシャクシャにしてギャーギャーと泣き喚く。そのエイリアンのような容姿を見て、「可愛い」と涙を流さない両親を見たことはない。同時に、両親以外がその新たに誕生した生物を見た瞬間の第一声が「可愛い」だった様子を見たこともない。私の取り上げた第一子は感動的だったし、健康なことを喜んだ。しかし、嬉しさに紛れ込んだ感情は「お母さんには可愛く見えるんだろうなぁ」だったと思う。)


この赤子、自身の頭部で直径15cm程度にまで引き伸ばした母上の膣から頭だけヒョイと出すやいなや、周囲をキョロキョロと見回すではないか。


まだ、目だって、さして鮮明に見えないだろう。身体は産道の途中で、頭部しか出生していない……このノソノソと全力で自分の身体を変形させながらかろうじて通れる産道を通る最中、頭だけ出た瞬間の最初の行動が好奇心を満たすこの行動だった。(その後、鎖骨は折って登場した可能性が高い。この肩幅の広く、筋肉質な児の鎖骨には障害出生児に折れた痕跡らしき特徴があるそう。)


父親は、我を忘れて「ハッハッハッハッ」と間違った呼吸法を声に出しながら、母親の膣とそこから出てくる赤子にビデオを向けて、一心不乱に撮影を続ける……


母親は、冷静に「ハッハッフー」とちゃんと適切な呼吸と、呼吸を堪えて思いっ切り赤子を押し出すことに専念している。


通常は、エスカルゴを楊枝で引き出すかのように、赤子の頭が母親の体外に出るとほぼ同時に、プリッと身体も一瞬で産まれる。


その後、口に大きなスポイトを突っ込まれて羊水や出産時に胎児が便を羊水にしてしまった場合の汚物を吸い込まないように吸い出され、そのまま鳴くか、尻をペシッと叩かれて産声を上げる。


産道から頭だけ出して、キョロキョロ見回すなど、前代未聞🤣


しかし、好奇心の塊となったこの児のこの世ヘの誕生シーンとしては、これ以上この子を象徴する登場もないのかもしれない。


次話へ続く

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