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お小遣い制の夫からのプレゼント〜特別な日曜日〜

『今月まだ5日もあるん!無理やわ…休憩時間何も飲まれへんやん…』

『知らん』

お小遣い制は時代遅れ、良くないと言われ始めてしばらく経ちますが、我が家はというと相変わらずお小遣い制です。

夫婦間、家庭内のお金の問題は複雑で、あまり他所でお話しすることではないと言われて育ちました。

その言いつけを守る程でもない我が家のお小遣い制というのは、夫が会社で働いて稼いだお給料を家のお金として、夫へ改めてお小遣いを渡すというものです。

おそらく一番オーソドックスな方法です。

これは、結婚した当時”金遣いが荒い”と自覚のあった夫からの提案でした。

結婚するまでは、側から見てもよくお金を使う人でした。 自分に対してだけにではなく、人に対しても惜しみなく使っていたようです。

私自身も、お誕生日や記念日にはプレゼントをもらったり、食事に連れて行ってもらったりしていました。

夫はサプライズやプレゼント、そして記念日や行事が好きです。人を楽しませることが、喜ばせることが好きなのです。

それでも、結婚して家庭を持つとなると、どこかで責任を感じ始めたらしく、恐らく今まで通りのお金の使い方をしていたのでは、生活が立ち行かなくなると思ったようです。

一方で私はというと、飲み物は外で買わず自宅から持参するのが当たり前、少々ケチ過ぎるのではないかと言われる程”貧乏くさい”人間でした。

そんなこんなで結婚生活の開始とともに、お小遣い制がスタートした訳です。

夫は当初、お小遣いの中でやり繰りすることに随分苦戦していました。毎月のように給料日前に全てを使い切ってしまうのです。

給料日の数日前から0円生活をしたり(それが出来るなら最初から考えて使えば良いのに…)、『前借りさせて〜』と観念した様子で言ってきたり、この人はまったく…とため息をつくこともしばしばでした。

それでも次第に結婚生活にも慣れてきたある日、夫は私にコーヒーを淹れてくれました。そして慣れない手つきで一生懸命ホットケーキを作ってくれたのです。

当時の私は今は亡き一人目の息子の育児にかかりっきりでした。と言ってもその内容はほとんど介護と看護で、平日は一日中一歩たりとも自宅から出ることができない生活を送っていました。

元々アウトドア派でもなかった私は案外楽天的で、ここぞとばかりにテレビドラマを見てみたり、本やマンガを読んだり、大変だけど可愛い我が子に癒されながら、そこそこ生活にも慣れたような気で過ごしていました。

ですが実際には、一言も言葉を発することのない息子を前に、頻繁に鳴る人工呼吸器のアラームが次はいつ鳴るのかと、自分でも気付かないうちに神経を尖らせていたのです。

日々の生活で思った以上に疲れてしまっていても、困ったことに自分ではその深刻さに気付くことができないものです。

そして、夫の目にはその姿がとても悲しくうつり、どうすることも出来ない自分が申し訳ないとまで思うようになったそうです。

夫は日中仕事で自宅にいない分、息子のこと、機械の使い方、病院や関係者との関わり方など、母である私と比べると力不足だと負い目に感じていたと、後になって聞かされました。

そんなことは仕方のないことで、私は自分と同じように出来て欲しいと思ってはいませんでした。今振り返ってみても、夫は十分頑張ってくれていましたし、父親として大健闘していたように思います。

当時の私はというと、そんな風に夫が感じていたなんて思いもしませんでした。大切な家族である夫のことすらも気にかけられていなかったのです。

そんな夫が私への感謝の気持ちとして、コーヒーとホットケーキを用意してくれたのです。

出来上がったホットケーキを手に、少しソワソワした様子で、恥ずかしそうに『食べてみて』と言う夫。

少しでも元気にしてあげたくて、一息ついてもらいたくて、あたたまってほしくて、夫は昔から変わらずそんな風に私のことを気にかけて考えてくれていました。

お小遣い制になってからは、お互いに物をプレゼントとして送ったり、食事へ招待するということが少なくなりました。必要な時は家のお金として支払うようになったからです。

私は久しぶりに夫からのサプライズプレゼントを貰いました。

『美味しい』

私は何度も何度も言っていたと思います。

不慣れながらも(私と比べると)几帳面な夫らしい綺麗な仕上がりでした。

夫は私よりも嬉しそうな顔をして、『美味しいか?』『美味しいか!』『そうかそうか!』と言うのです。

一人目の息子が亡くなって一年が経ちました。

今、私は普通の子育てに追われています。この間まで魔の2歳児だった長男(元次男)は3歳になりました。つい最近生まれたと思っていたのに、次男(三男)は気付けば半年を超えていました。

昨日、夫は久しぶりにコーヒーを淹れてくれました。そしてあの時と同じ丁寧に焼かれたホットケーキ。

私の隣には息子が座っています。

牛乳と卵が食べられない息子のために、豆乳で一口サイズに焼かれたホットケーキ。

私がいつも焼いているそれより、少し大きめですが、十分合格点です。

『美味しい!』と大喜びの長男。

その姿を見ながらホットケーキとコーヒーをいただく私。

満足そうに見つめる夫。

興味津々でつかまり立ちを披露する次男。

当たり前のようで、やっと手に入った日曜日をのんびりと味わいました。




食べおわった食器を片付けようと台所へ行くと、出しっぱなしの牛乳、使ったままのボウル、飛び散ったホットケーキミックス。

ひっくり返った台所をみて、『ふぅ…』とため息をつきながら、温かくて幸せな洗い物を始めました。

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